日本フィル・第310回横浜定期演奏会
漸く長雨が一段落した昨日の土曜日、日本フィル横浜定期の新シーズンが開幕しました。前シーズンの最終回は他の演奏会とバッティングしたこともあり、6月以来のみなみみらいホールです。
今シーズンから席を若干移動し、新鮮な耳で次のプログラムを聴いてました。
ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第3番
~休憩~
グノー/聖チェチリア祝日のためのミサ・ソレムニス
指揮/藤岡幸夫
ピアノ/ソヌ・イェゴン
ソプラノ/半田美和子
テノール/鈴木准
バリトン/浅井隆仁
合唱/日本フィルハーモニー協会合唱団
コンサートマスター/千葉清加
フォアシュピーラー/齊藤政和
ソロ・チェロ/辻本玲
9月の指揮者は日本フィルから育った藤岡の指揮、関西フィルで積んだ経験を古巣、修行させて貰ったオーケストラで披露する機会でもあり、一風変わった作品が選ばれた印象です。前半と後半に特別な関連はなさそう。
前半でラフマニノフを弾いたイェゴンは、一昨年の仙台国際音楽コンクールの優勝者、私は初めて聴きました。韓国生まれの若手(1989年生まれ)で、日本フィルが続けている<輝け! アジアの星>シリーズの第10弾に当たります。
この演奏会1回だけで判断するのは憚られますが、テクニックは見事なもの。難曲のラフマニノフ第3協奏曲を颯爽と披露して会場からも盛大な拍手と歓声。ただ私には何となくラフマニノフ特有のピアニズムとは違った印象を受けました。何というか、完璧なロシア語というより若干訛りがあるような感じ。
アンコールは誰でも知っているメンデルスゾーンの結婚行進曲でしたが、アレンジは誰でも知っているとはいかないでしょう。ロビーに掲示されていた案内板にはリストの編曲とありました。こんな思い切ったアレンジ、あったっけ? 結婚行進曲と妖精の踊りを繋いだアレンジの楽譜は見たことがあるけれど、それとは違う版のようですね。
ということで後半。ウッカリ時間を間違えて小宮正安氏のプレトークを聞き逃したが残念でしたが、このミサ曲はナマでは初体験だと思います。例えばベートーヴェンのミサ・ソレムニスとはかなり異なった構成になっていて、キリエ、グローリア、クレド、サンクトゥス・ベネディクトゥス、アニュス・デイの他に二つの追加楽章があります。
クレドの後に置かれたオッフェルトリーは純粋に器楽だけの静かな音楽で、この美しさは一聴の価値があるでしょう。
また最後、アニュス・デイが終わった後にもドミネ・サルヴァムという楽章があって、短い3曲の派手な合唱曲が続けて奏されます。どうやらこれは時の権力者であったナポレオン3世を讃えるものだったようですが、現在は歌詞を国歌や主に置き換えて歌われるとのこと。個人的な好みからすると、蛇足というか、折角美しい音楽が続いてきたのをぶち壊すのではないか、という感想も持ちました。聴かれた会員諸氏はどう思われるのでしょう。
フル・スコアが手元に無いのでハッキリしたことは判りませんが、プログラムでは合唱は通常のソプラノ、アルト、テノール、バスの4声部とありましたが、ネットで見られるヴォーカル・スコアではアルトは無く、ソプラノが二部に分かれて書かれているものもあります。つまり独唱者の構成と同じで、この辺りはプレトークを聞き逃して失敗しました。聴いている限りでは、特にアルト声部という深みも感じられません。
またハープは6台使われるのがオリジナルという資料もありますが、今回は2台での演奏。但しパートは一つだけで、6台あっても音量の増加が目的かと思慮します。ハープが活躍するのは、クレドの最後のアーメンの場面。
更にグノーはベネディクトゥスとアニュス・デイに新発明の低音弦楽器「オクトバス」なるものを指定しているそうですが、これはコントラバスで代用していました。当然でしょうが、歴史的な興味はあると思いました。
作品はベートーヴェンのような深みも暗さも無く、如何にもフランス的な透明さと旋律の美しさが基本。3人のソロが順次絡んでいくクレドなど、マルガレータ・ファウスト・メフィストがアンサンブルを創るフランス・オペラのように聴こえなくも無い。フランスの宗教音楽にはこういう作品もあるのか、という経験こそ大切、かな?
演奏は作品が作品だけに、美しい表現に終始。独唱の3人が全員控え目で、もう少し声量があればもっと強い印象が残ったかも。ただ、バランスは良く取れていたと思います。如何にも難しそうなグローリアの「et incarnatus」も無難にパス。そしてベネディクトゥスの美しさは、単独で聴かれても良いと思われる佳品と言えるでしょう。
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