読売日響/第83回芸劇マチネー

今回のエド・デ・ワールトはこのプログラムだけ、何とももったいないことです。尤もご本人は香港フィルの芸術監督ですからそちらに腰を据えていて、週末に読響の客演という流れなのかもしれません。
来シーズンの客演はありませんが、その次はタップリと腕を振るってもらいたいものだと思います。そう願わずにはいられない素晴らしいブラームスでした。

今回はブラームスを中心としたプログラムで、大学祝典序曲と第2交響曲、真ん中にシューマンのピアノ協奏曲が置かれています。休日(土曜日)の午後に相応しい、親しみ易いプログラムです。
シューマンのソロはフランスのエリック・ル・サージュという人。私はレコードでしか聴いたことがありませんが、レ・ヴァン・フランセのメンバーでもあり、人気の高いピアニストのようです。この日もサイン会が予定されていましたが、ル・サージュ目当てという人も多かったのでしょう。
人気を反映したのか客席も隅々までよく入っていて、テレビ・カメラも動員されています。

そのシューマンですが、いかにも「詩人」というピアノでした。フランスにはシューマン弾きの伝統があって、昔からアルフレッド・コルトー、イヴ・ナットなどの名前が挙がってきます。未だにシューマンのピアノ協奏曲はコルトーに限る、という人もいます。プロの音楽家で。
ル・サージュも1989年のシューマン・コンクールに優勝していますし、シューマン作品の全曲録音も果たしているそうです。

ドイツ風演奏とは違って、一拍目に力点を置かず、全体が流れるように歌い、かつ語っていきます。アンコールにダヴィッド同盟舞曲集から1曲を披露しましたが、いかにも詩的な情感に満ちたもので、これが彼の本質なのでしょう。
オーケストラも素晴らしいバックでした。ワールトの指揮がどう、ということよりも、冒頭のオーボエ(蠣崎氏の惚れ惚れする音色)の美しさや、ピアノに絡むフルートやクラリネットの美音に酔うという具合。必ずしもオケとピアノのスタイルが一体になっているわけではありませんが、これはこれで素晴らしいシューマンでした。

というわけで、今日の圧巻はブラームスですよ。これはホント凄かった。前回のワールトも良かったのですが、こういう王道を行くプログラムでは指揮者の実力がもろに出てしまいます。
とにかくシンフォニックですね。奇を衒うような所は微塵も無い。音楽に推進力がある。解釈に曖昧なところが全くないので、“いいブラームスだったなぁ”という満足度が極めて高いのです。
オーケストラの実力も、判っていながら感心してしまう。不安定な所は一箇所もありませんから、大きな音楽の流れに安心して身を任せていられるのです。この幸せ!!

最初の大学祝典序曲など、通俗的な音楽として扱われることがないわけではないけれど、これだけ立派に響かせられてしまうと、これはもうシンフォニーの一楽章とさえ思わせる風格が漂っていました。
高らかに鳴らされる打楽器や金管楽器に気品があるので、煩い感じが全くしないのです。

第2交響曲については言わずもがな。付け足すべきものも差し引くべきものもありません。
最後にアンコールとして演奏された同じブラームスのハンガリー舞曲第1番も、真に手応えのある一品でした。
このプログラムは明日(11月5日)、みなとみらいホールでも演奏されます。

 

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