読売日響・第498回名曲シリーズ

腫れ物から来る高熱が三日も続き、今日のコンサートはパス、と決め込んでいました。ところが午後になって急速に回復、それじゃ折角だからモーツァルトでも聴きましょうか。体にも良さそうだし、ということで、久しぶりに外出しました。昨日8日のことです。

読売日響・第498回名曲シリーズ サントリーホール
モーツァルト/交響曲第28番 ハ長調
モーツァルト/ピアノ協奏曲第22番 変ホ長調
~休憩~
モーツァルト/交響曲第41番「ジュピター」 ハ長調
指揮/ヒュー・ウルフ
ピアノ/アンティ・シーララ
コンサートマスター/デヴィッド・ノーラン
フォアシュピーラー/小森谷巧

プログラムを開いて今日のマエストロを確認。2005年にも来日しているそうですが、私には全く初めての人。名前も聞いたことありません。
そのプロフィールによると、フランクフルト放響に古楽奏法を実現させた、とあります。やれやれ苦手なタイプか、今日はハズレかな、と思いました。

ステージを見ると椅子が少ない。閑散としてます。いやに小編成だな、でもコントラバスは右側に3台あるぞ。
と見ると、指揮台にもストール(指揮者用の椅子)がセットしてある。ウルフは1953年生まれということだから未だ50代半ば、椅子に腰掛けるには若過ぎるのじゃないか。
で、プログラムには今日のコンマスは小森谷と発表されていましたが、彼はフォアシュピーラーの席に座ります。おや、どうしたのかな。
出てきたコンマスはノーラン氏。どうなっているんでしょうね。で、指揮者登場。

これが何と、松葉杖をついているではありませんか。小森谷氏の助けを借りて何とか指揮台に。あ、それでストールが置いてあったのかぁ。
どうも左足を負傷したようで、左は靴を履いていません。来日してからの怪我かも知れませんね。
登場した弦の編成を見ると対抗配置。と言っても、普通の配置から第2ヴァイオリンだけを抜き出して右側に置いただけ。つまり左から第1ヴァイオリン→ヴィオラ→チェロ→第2ヴァイオリンという配置です。
人数をよく数えてみると、コントラバスは3人、チェロは2プルトで4人、ヴィオラは3プルトの6人ですね。ところがヴァイオリンは第1・第2とも5プルトづつ、10人。同数にして両翼配置の不備を補おうという配慮でしょう。ここにまず感心しました。

さて最初の28番。ティンパニも入りますし、ファゴットも1本参加しています。ウルフは暗譜で振りましたから楽譜は何を使っているのか判りませんが、旧版ではなく、新しい校訂のものでしょう。
演奏法。これは古楽奏法じゃ、ぜ~んぜん、ありません。ティンパニもバロックではなく現代のもののようです(私の位置からはそう見えました)。至極まともな演奏スタイル。私の不安はここで解消。ギャラントそのもののモーツァルトを楽しみました。
28番で納得したのは、対抗配置の効果ですね。この作品は両ヴァイオリンが掛け合いをしたり、対位法的に動く個所が非常に多く、両サイドに分かれたヴァイオリンの面白さが際立っています。これはウルフの勝利でしょう。

続くピアノ協奏曲。ソロを弾くシーララという人も初めてですが、2003年にリーズ国際コンクールで優勝したフィンランドの若手。1979年生まれといいますから、未だ20代後半です。
このピアノ、テクニックで押し切るタイプとは正反対です。曲がモーツァルトということもあるのでしょうが、実に内面的な音楽をやります。
交響曲に比べてテンポがやや遅めなのは、恐らくシーララのテンポなんでしょう。特に第3楽章は素晴らしかった。アレグロというよりアレグレットという趣で、哀しいほど見事に設定されたテンポ。モーツァルトは、特に第3楽章ではピアノ・パートを完全に譜面に残していませんが、シーララは実に上品、かつ繊細に装飾音を添えて歌っていきます。
読響の木管の素晴らしさ。第2楽章のアンサンブルが身体に沁み込んでくるのが判るくらい。思わず胸が一杯になってしまった。
なお、使用した版はよく判りませんが、2小節多いバージョンで演奏されていました。
アンコールが一つ。ショパンのプレリュードから13番。こういうものを選ぶ辺り、シーララの特質がよく出ていると思いました。

最後のジュピター、編成を増やすのかな、と思いましたがそのまま。28番と同じ人数での演奏です。テンポは協奏曲よりは速めで、ウルフは特別な仕掛けなどは一切せず、正直に作品の大きさ、快活さを捉えていました。
編成が少ない分、各パートは明瞭に響き、管楽器の微かな動きも手に取るよう。読響のアンサンブルも全く見事で、改めてこのオケは世界で5本の指に入るレヴェルであることを確信しました。
弦のパートなどこれだけ少ないと、個々の技術が裸になってしまい、奏者としては恐いでしょうね。しかし逆に、オケのレヴェルの高さがモロに発揮されていたのも事実。管も充実、ホルンの安定感も素晴らしいものでした。
一つ面白かったのは第3楽章のメヌエット。トリオが終わって回帰するメヌエットでは、普通その繰り返しは省略するものです。しかしウルフは、二度目のメヌエットでも繰り返しを実行。そのことをオケに確認するように、リピート記号が近づいてくると、左人差指を掲げて、もう一回、という指示を出してましたね。こういうのはナマでは初めて体験しました。

ウルフ、初めてという不安がありましたが、これは相当な実力の持主と見ました。この小編成で、音楽自体の持つパワーを最大限に引き出して見せた。しかもサントリーホールという大会場でこれだけ繊細、クリアーな響きで魅了するとは。
プログラムによると、ウルフは、インバルが定着させた後期ロマン派系のオケに古楽奏法を持ち込んで新しい波を導入した、とあります。
思うに、肥大化したフランクフルトを掃除しリハビリさせるには、「古楽奏法」という荒療治が必要だったのでしょう。読響は、失礼ながら、フランクフルトよりは遥かに感応力に優れたオケ。現代の奏法でも、充分にモーツァルトの本質を聴き手に伝えることが出来る。それが結論だったのではないでしょうか。
次回はバルトークとショスタコーヴィチ。モーツァルトとは対極にある世界で、ウルフは読響からどんな音楽を引出すのか。足、早く治してくださいね。

Pocket
LINEで送る

1件の返信

  1. カンタータ より:

    見っけ!(笑)
    私は今日行ってきま~す。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください