2015菊花賞馬のプロフィール
クラシック馬の血統紹介、今回の菊花賞が今年の最後となります。当欄は日本競馬に付いてはほとんど扱っていませんが、クラシックに勝った馬の血統だけは毎年ウォッチングしてきた次第。
本来なら専門家に任せればよいのでしょうが、ネットで検索しても中々詳しい記事が見付からないので、知り得たことだけでも書き綴っておきます。
今回は、競馬サークル以外にも大きな話題となった菊花賞馬キタサンブラック(Kitasan Black)を取り上げます。牝系を3代遡ってもG戦勝馬が見当たらないという、血統信者泣かせの1頭ですが、ここは様々な資料を繙きながら見ていきましょうか。
キタサンブラックは、父ブラックタイド、母シュガーハート、母の父サクラバクシンオーという血統。この3頭は何れも日本産馬です。
牝系に入る前に父馬に触れると、ブラックタイドはスプリング・ステークス(GⅡ、中山1800メートル)に勝った馬で、何と言ってもディープインパクトの一つ上の全兄に当たるというのが種牡馬としてのセールス・ポイントでしょう。
産駒は2010年生まれが初年度のようで、G戦勝馬を列記すれば、2010年生まれのティエムイナズマがデイリー杯2歳ステークス(GⅡ、京都1600メートル)、2011年のマイネルフロストは毎日杯(GⅢ、阪神1800メートル)、2012年生まれのタガノエスプレッソもデイリー杯2歳ステークスに勝っており、キタサンブラックは4頭目のG戦ウイナーとなります。
去年までは重賞・特別に限って勝鞍のある距離が1400メートルから2000メートルまででしたが、今年に入って2010年生まれのプランスペスカが金山特別(中京2200メートル)、琵琶湖特別(京都2400メートル)、グリーン・ステークス(阪神2400メートル)と立て続けに長距離の特別を制し、今回キタサンブラックが3000メートルのクラシックにも勝って長距離特性を開花させたとも言えそうです。弟ディープインパクトより一足先に菊花賞馬の父になりました。
さて本題の牝系ですが、最初に述べたようにキタサンブラックのファミリーを3代遡ってもG戦勝馬は出てきませんが、4代母がアメリカで部門チャンピオンに選ばれたこともある名牝ティズナ Tizna であることに注目しなければなりますまい。今回はこのティズナから書き起こして、順次時代を下ることにしました。
そのティズナ(1969年 鹿毛 父トレヴィエール Treviers)は、南米のチリ産。父トレヴィエールはフランスでジョンシェール賞(現在のポール・ド・ムーサック賞GⅢ)に勝った馬で、ワードン Worden 産駒ということもあって1960年からチリで供用されていました。
ティズナの母ノリス Noris (1958年 鹿毛 父リセンシオーゾ Licensioso)は15戦1勝、ティズナはその4番仔で3頭目の勝馬です。
ティズナは2歳時に地元チリでクラシコ・エスタドス・ウニドス・デル・ブラジル、クラシコ・パナマなど3戦3勝。この成績から「才能あり」と認められ、リーガル・エンタープライゼズが同馬をアメリカに輸入し、ヴィクター・ゼンボラインという人が代表を務めるナイル・ファイナンシャル・コーポレーションと言うウルグァイに本拠地を置くグループに売却します。
ティズナはヘンリー・モレノ厩舎に所属し、4歳になってからモンロヴィア・ハンデ(芝GⅢ、6.5ハロン)とサンタ・パウラ・ハンデ(GⅢ、7ハロン)に勝ってアメリカでもステークス・ウイナーの称号を手にします。
時は正にアメリカでグレード制がスタートした年で、現在も続く「G戦」システムの黎明期を彩る1頭になっていくのでした。
翌5歳時にはラモナ・ハンデ(芝GⅢ、9ハロン)、サンタ・マルガリータ・インヴィテーショナル・ハンデ(GⅠ、9ハロン)、サンタ・モニカ・ハンデ(GⅡ、7ハロン)と芝・ダートを問わずG戦に3勝し、頂点のGⅠタイトルも獲得しました。
6歳になっても活躍は衰えることなく、サンタ・マルガリータ・インヴィテーショナル2連覇にレディーズ・ハンデ(GⅠ、10ハロン)を加えてGⅠ戦は3勝目。更にウイルシャー・ハンデ(芝GⅢ、9ハロン)の他、一般ステークス(当時)のオータム・デイズ・ハンデ、ホーソン・ハンデ、カリフォルニア・ジョッキー・クラブ・ハンデにも勝ってステークス6勝の大暴れ。
サンタ・マルガリータ3連覇を狙って1976年、7歳時も現役を続けたティズナ、シーズン初戦に芝の一般ステークス、サン・ゴルゴニオ・ハンデ(9ハロン)を130ポンドの負担重量を背負って優勝。しかし一月後のサンタ・モニカ・ハンデは頭・ハナの3着惜敗、続くサンタ・マリア・ハンデ(GⅡ、8.5ハロン)でも前走と同じ2頭の3着に敗れましたが、今回は勝馬とは6馬身差。そして目標だったサンタ・マルガリータはラフな流れに巻き込まれる不利もあって4着と3連覇は叶いませんでした。
ここでティズナはジョッキーを変えて(それまでのフェルナンド・ヴァルディザンからドン・ピアースへ)サンタ・アニタ・ハンデで牡馬に初挑戦しましたが、11着と惨敗。
このあと芝コースと牝馬同士のレースに戻ったティズナでしたが、サンタ・バーバラ・ハンデ(芝GⅠ、10ハロン)が3着、ハリウッド・パークのゲイムリー・ハンデ(一般ステークス、芝9ハロン、この翌年からGⅡに格上げ)でも3着に敗れます。
再びダートに戻ったコスタ・メサ・ハンデ(一般ステークス、7ハロン)も3着、更にミラディー・ハンデ(GⅡ、8.5ハロン)は6頭立ての最下位(勝馬とは5馬身差ながら)、そしてヴァニティー・ハンデ(GⅢ、7ハロン)では最後の直線で脚を痛め8着で入線、そのまま繁殖に上がります。
それでもこのシーズン、デイリー・レーシング・フォーム社が発表した年度ハンデの芝部門で、ティズナは牝馬としてはトップの123ポンドに評価され、事実上古馬牝馬の芝チャンピオンに選出されました。
ティズナの現役時代に多くのスペースを割きましたが、母馬としてのティズナには5頭の娘がありました。その中で勝馬になったのは3頭あり、その最初のティズリー Tizly (1981年 鹿毛 父リファード Lyphard)がキタサンブラックの3代母となります。
ティズリーの妹には、ノーザン・ダンサー Northern Dancer を父に持ち、イタリアで2勝したティザラ Tizara 、センシティヴ・プリンス Sensitive Prince を父とする2勝馬のティツィアーナ Tiziana がいますが、未だ彼女たちからは目立った活躍馬は出ていないようです。
ティズリーはフランスで6戦4勝、2着2回と連帯率100%でしたが、いすれも小レースでのもの。その2番仔として生まれたシーズ・ティッジー Cee’s Tizzy (1987年 父リローンチ Relaunch)が、キタサンブラックが出るまではティズナの血を引く代表馬でした。
シーズ・ティッジーは6戦3勝、レース経験が少ないまま引退しましたが、スーパー・ダービー(現在はGⅢ、当時GⅠ)3着の実績だけで種牡馬になった馬。しかしその産駒にBCクラシックを連覇したほか、父が勝てなかったスーパー・ダービーも制したティズナウ Tiznow が出て、一躍その名前が世界に知れるようになりました。BCクラシックを二度勝ったのは、現在までティズナウ唯1頭です。
父として親を超える馬を出したという意味では、キタサンブラックを出したブラックタイドと似ているかもしれません。
その後日本に輸入されたティズリーは2年後に日本での初産駒として、キタサンブラックの2代母となるオトメゴコロ(1990年 栗毛 父ジャッジ・アンジェルーチ Judge Angelucci)を産みます。オトメゴコロに入る前に、ティズリーの他の産駒に付いても簡単に触れておきましょう。
生年順に見て行くと、先ず1992年生まれのオトメノイノリ(黒鹿毛 父サンデー・サイレンス Sunday Silence)は21戦4勝。アイビー・ステークス(東京1400メートル)、冬至ステークス(中山2500メートル)、大雪ハンデ(札幌1800メートル)に勝ってオークスは4着でした。
彼女の産駒マイネルロガール(2008年 鹿毛 牡 父サクラバクシンオー)は船橋ステークス(中山1200メートル)の勝馬。
ティズリーの娘ミズカガミ(1995年 栗毛 父トニー・ビン Tony Bin)は15戦3勝、摺上特別(福島1800メートル)に勝ちましたが、その産駒には未だ目立った活躍馬は出ていません。
それは次の牝馬クイーンバイオ(1997年 栗毛 父フジキセキ)も同じで、彼女は13戦3勝、常葉特別(福島ダート1700メートル)と鷹取特別(阪神ダート1800メートル)に勝っていますが、繁殖には上がっていないようです。
逆に次のベルナデッタ(1998年 栗毛 父アフリート Afleet)は未出走馬ながら、松戸特別(中山ダート1800メートル)に勝ったセブンフォース(父ゴールドアリュール)と、大井で羽田杯と黒潮杯で何れも2着したドバイエキスプレス(父デュランダル)を出しています。
そしてオトメゴコロ。彼女は20戦4勝の成績を残し、室蘭特別(札幌ダート1000メートル)で限定戦ながらもステークス・ウイナーとなりました。母としては最近まで活躍馬と呼べる産駒を出していませんでしたが、4番仔に当たるシュガーハート(2005年 鹿毛)がキタサンブラックの母となって突如クラシック血統の仲間入りを果たします。
シュガーハートは未出走馬ですが、現在までの繁殖成績は、
2009年 アークペガサス 鹿毛 牡 父サンライズペガサス 中央と地方で23戦3勝、勝鞍は全て地方競馬でのもの
2011年 ショウナンバッハ 鹿毛 牡 父ステイゴールド 現役 中央と地方で16戦5勝 今年のホンコン・クラブ・トロフィー(東京2000メートル)と阿賀野川特別(新潟2200メートル)に優勝。
2012年 キタサンブラック
以上が今年の菊花賞馬の血統プロフィール。キタサンブラックはクラシック馬となりましたが、牝系の歴史を辿ればダート適性があるのも明らかでしょう。この血統からダートの活躍馬が輩出しても驚くには当たりません。
ファミリー・ナンバーは9-g。ヤング・メルボルン・メア Y. Melbourne Mare を基礎とする牝系です。
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