2015ブリーダーズ・カップ2日目

今年は10月31日がブリーダーズ・カップのメイン・デイでした。この世界ではハロウィーン騒ぎは全く無縁だったようで、唯只管に馬・馬・馬の一日でした。
前日と同様にニューヨークのベルモント競馬場でもヒッソリとG戦が一鞍行われましたので、先ずこれからスタートします。

ベルモント・パーク競馬場のG戦はこれが最後で、来週からは冬のアケダクト競馬場に移ります。そのフィナーレがボールド・ルーラー・ハンデキャップ Bold Ruler H (GⅢ、3歳上、7ハロン)。1頭が取り消して僅か5頭立てでしたが、ケンタッキー・ダービー前日に脚部難で取り消したエル・カビール El Kabeir が久し振りに復帰し、イーヴンの1番人気。
4番人気(7対1)グリーン・グラット Green Gratto の逃げを3番手で追走したエル・カビールでしたが、未だレース感覚を取り戻せないのか直線ではズルズル後退、結局最下位に敗退してしまいました。替って4番手から徐々に進出した3番人気(4対1)のマトゥルー Matrooh の勢いが良く、直線では先行2頭を外から捉えると、最後方から追い込む2番人気(8対5)のマイリュート Mylute を1馬身4分の3差抑えて優勝。2馬身4分の1差で最低人気(19対1)のヘヴンズ・ランウエー Heaven’s Runway が入る小頭数の波乱レースです。
チャド・ブラウン厩舎、エイベル・カステラノ騎乗のマトゥルーは、これがG戦初勝利となる5歳せん馬。前走フィリップ・イズリン・ステークス(GⅡ)は6着、通算成績は11戦5勝となります。

そして愈々キーンランド競馬場のBC二日目のレポートに入りましょう。この日は第3レースから第11レースまで9戦ぶっ続けでブリーダーズ・カップ・シリーズ、既に結果はご存知でしょうから、レース順に取り上げて行くことにします。

先ず第3レースのブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ Breeders’ Cup Juvenile Fillies (GⅠ、2歳牝、8.5ハロン)。fast の馬場に10頭が出走してきましたが、最初からGⅠ馬3頭が激突する豪華版。中でも西海岸で3戦無敗のソングバード Songbird が3対5の圧倒的1番人気に支持されていました。
そのソングバード、唯一の不安は大外10番枠発走でしたが、スタートから勢いを付けてハナに立つと、終始2馬身差を保ったまま第4コーナー。直線では、2番手を追走していた2番人気(5対1)で2戦無敗のスピナウェイ・ステークス(GⅠ)勝馬レーチェルズ・ヴァレンティーナ Rachel’s Valentina との差を5馬身4分の3差まで広げる圧巻の逃げ切り勝ち。最後方から6番人気(25対1)のドスラキ・クイーン Dothraki Queen が3着に追い上げ、もう1頭のGⅠ(フリゼッテ・ステークス)馬で5番人気(9対1)のニックネーム Nickname は4番手のまま4着に終わりました。
ジェリー・ホーレンドルファー厩舎、マイク・スミス騎乗のソングバードは、これで4戦4勝。デル・マー・デビュタント、シャンデリアに続き早くもGⅠ戦3連勝で、2歳牝馬チャンピオンの座を不動のものとしています。来年のプランは未定ですが、ケンタッキー・オークスでは断然の中心馬になるでしょう。なおスミス騎手はこれがBC22勝目で、最多勝利数を更新しました。

第4レースはブリーダーズ・カップ・ターフ・スプリント Breeders’ Cup Turf Sprint (芝GⅠ、3歳上、5.5ハロン)。サンタ・アニタは下り坂の6.5ハロンでしたが、ここは普通の短距離コースで行われます。湿り気を含んだ good の馬場に2頭が発走除外となってフルゲートの14頭立て。3頭出しウェズリー・ワード厩舎の1頭で、今年ロイヤル・アスコットに遠征してダイアモンド・ジュビリー・ステークス(GⅠ)を制したアンドラフテッド Undrafted がデットーリ騎手を背に7対2の1番人気に支持されていましたが、ムラな所があるのが不安材料でしょう。
ジョイント4番人気(6対1)のレディー・フォー・ライ Ready for Rye が逃げましたが、大外14番枠から出た8番人気(15対1)のモンゴリアン・サタデイ Mongolian Saturday がそのまま外を通りながら2番手を追走。直線では内ラチ沿いに進路を変えて逃げ粘り、3番手追走から外を追い込む2番人気(9対2)で出走馬中唯1頭の牝馬レディー・シップマン Lady Shipman の猛追を辛うじて首差凌いで逃げ切りました。半馬身差で9番手からジョイント4番人気(6対1)のグリーン・マスク Green Mask が3着に入り、アンドラフテッドは後方から追い上げるも5着まで。また、去年の勝馬で6番人気(9対1)だったボビーズ・キッテン Bobby’s Kitten は中団から伸びるも4着で連覇は成らず。
勝馬の馬名と同じくモンゴル出身のエネビッシュ・ガンバット師が管理し、フロラン・ジェルーが騎乗したモンゴリアン・サタデイは、これがG戦初勝利の5歳せん馬で、5.5ハロンの距離では5戦3勝2着2回とほぼパーフェクトなスペシャリスト。前走レキシントンのウッドフォード・ステークス(GⅢ)でも2着しており、今シーズンは10戦して全て掲示板に載るという堅実なスプリンターでもあります。ジェルー騎手は、前日のジュヴェナイル・フィリーズ・ターフの勢いを駆ってBC騎乗3レースで3連勝の珍記録達成となりました。

第5レースのブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・スプリント Breeders’ Cup Filly & Mare Sprint (GⅠ、3歳上牝、7ハロン)は14頭立て。前の2レースが何れも大外枠発走の馬が勝っているというワケではないでしょうが、大外14番枠のカヴォーティング Cavorting が3対1の1番人気。3歳馬ながらGⅠ2連勝(テスト・ステークス、プライオレス・ステークス)を含めて3連勝中です。
レースは4番人気(6対1)のラ・ヴェルダッド La Verdad がスピードを活かして逃げましたが、前半10番手辺りで待機していたジョイント6番人気(10対1)の伏兵ウェイヴェル・アヴェニュー Wavell Avenue が外から一気に末脚を爆発させ、ラ・ヴェルダッドに1馬身4分の3差を付ける逆転勝ちでした。首差でジョイント2番人気(5対1)のタリス Taris が3番手から追い上げて3着。タリスのスティーヴンス騎手が2着のオルティス騎手に妨害の異議申し立てをしましたが、裁決が却下して入線通りで確定しています。カヴォーティングは後方から追い込むも4着まで。去年の勝馬でジョイント2番人気だったジュディー・ザ・ビューティー Judy the Beauty も6番手を進みましたが5着敗退に終わりました。
チャド・ブラウン厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のウェイヴェル・アヴェニューはカナダ産の4歳馬で、これがG戦初勝利。前走9月26日のギャラント・ブルーム・ハンデ(GⅡ)では、今回2着のラ・ヴェルダッドの2着で、前走の雪辱でもありました。

この日4つ目のBC、第6レースはブリーダーズ・カップ・フィリー・アンド・メア・ターフ Breeders’ Cup Filly & Mare Turf (芝GⅠ、3歳上牝、9.5ハロン)。サンタ・アニタでは10ハロンでしたが、ここでは100メートルほど短い距離となります。4頭の取り消しがあって10頭立て。アイルランドから遠征してきた今年の1000ギニー馬で、GⅠ3勝のレガティッシモ Legatissimo が4対5のやや被った1番人気。
5番人気(12対1)のシークレット・ジェスチャー Secret Gesture (BC4勝目が掛かるフロラン・ジェルー騎乗)が逃げ、スタートでやや躓いたレガティッシモは中団6番手に待機。レガティッシモは定石通り外から追い上げましたが、前半は最後方に待機したジョイント3番人気(7対1)のステファニーズ・キッテン Stephanie’s Kitten が向正面で内に入れ、直線では馬群を割るように内から抜けると、外のレガティッシモを1馬身4分の1差抑えて鮮やかな差し切り勝ち。2馬身4分の1差で6番人気(13対1)のクイーンズ・ジュエル Queen’s Jewel が3着。地元アメリカが芝戦を制しました。
前のレースに続いてチャド・ブラウン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のステファニーズ・キッテンは、6歳馬ながらGⅠ戦は5勝目。何と2歳時にBCジュヴェナイル・フィリーズ・ターフに勝っており、4年振りで2度目のBCは史上初(最も長いブランクでの勝利)の快挙です。前走フラワー・ボウル・ステークスに続きGⅠ戦2連勝。

第7レースがブリーダーズ・カップ・スプリント Breeders’ Cup Sprint (GⅠ、3歳上、6ハロン)。1頭が除外となって14頭立て。今期4戦全勝、サラトガでキングズ・ビショップ・ステークス(GⅠ)を制したランハッピー Runhappy が8対5の1番人気。
2番人気(7対2)のプライヴェイト・ゾーン Private Zone が、逃げ切りは難しいと言われるスプリントで果敢に逃げ切りに挑戦しましたが、前半5番手を進んだランハッピーが徐々に順位を上げ、直線では逃げ馬を外から捉えると、そのままプライヴェイト・ゾーンに4分の3馬身差を付けて堂々人気に応えました。ジョイント9番人気(23対1)のフェイヴァリット・テイル Favorite Tale が3着。勝時計1分8秒58は、これまでの記録を5秒も上回るトラック・レコードでしたから、文句無い快勝です。
これがBC初勝利となるマリア・ボレル厩舎、エドガー・プラード騎乗のランハッピーは、これで通算成績が7戦6勝となる未だ3歳馬。キングズ・ビショップのあと、前走キーンランドでフェニックス・ステークス(GⅢ)に勝っての参戦で5連勝。今年のスプリント・チャンピオンはほぼこの馬で決まりでしょう。

今年のBCも愈々佳境に入り、第8レースはブリーダーズ・カップ・マイル Breeders’ Cup Mile (芝GⅠ、3歳上、8ハロン)。ハイ・レヴェルの12頭が出走し、フォレ賞(GⅠ)に勝ってフランスから遠征してきたファーブル厩舎のメイク・ビリーヴ Make Believe が5対2の1番人気。
ジョイント9番人気(17対1)のオビアスリー Obviously が逃げましたが、2番手でマークした3番人気(9対2)のテーピン Tepin がこれを第4コーナーで捉えると、後方2番手から追い込むジョイント9番人気モンダイアリスト Mondialist に2馬身4分の1差を付ける圧巻の走りでアメリカ勢にマイル優勝を齎しました。更に1馬身半差で5番手を進んだ7番人気(13対1)のグランド・アーチ Grand Arch が3着に入り、メイク・ビリーヴは7番手から進出するも5着敗退と波乱の結果です。
勝ったテーピンは、BCを制するのに時間が掛かったマーク・カッセ師の管理馬で、師は前日のジュヴェナイル・フィリーズ・ターフに続き連日となるBC2勝目。騎乗したジュリアン・ルパルーはBC6勝目となります。テーピンは4歳牝馬で、ゴールディコヴァ Goldikova 、ミエスク Miesque 、ロイヤル・ヒロイン Royal Heroine など牝馬が強いマイルの伝統を守った形。前走牝馬相手、キーンランドのファースト・レディー・ステークス(芝GⅠ)に続くGⅠ2連勝で、今期は6月のジャスト・ア・ゲイム・ステークスを含めて三つ目のGⅠタイトルとなりました。芝の牝馬部門は、第6レースのステファニーズ・キッテンとのチャンピオン指名争いになることは必至でしょう。

最後から3番目は、第9レースのブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル Breeders’ Cup Juvenile (GⅠ、2歳牡せん、8.5ハロン)。1頭が取り消して1頭が除外となった14頭立て。前走シャンペン・ステークスに勝ってGⅠ馬となったグリーンポイントクルセーダー Greenpointcrusader が7対2の1番人気に支持されていました。
レースは大混戦の中からジョイント9番人気(24対1)のライカ― Riker が逃げましたが、中団7番手辺りを進んでいたジョイント2番人気(9対2)のナイクィスト Nyquist が外から追い上げ、後方から連れて伸びた11番人気(29対1)の伏兵スワイプ Swipe に半馬身差を保って優勝。2馬身4分の1差で4番人気(6対1)のプロディーズ・コース Brody’s cause が3着に食い込み、後方を余儀なくされたグリーンポイントクルセーダーは7着敗退。
ダグ・オネイル厩舎、マリオ・グティエレス騎乗のナイクィストは、1番人気になってもおかしくない実績の持ち主で、これでGⅠ戦3勝目となる5戦無敗の2歳チャンピオン。デル・マー・フューチュリティーとフロントランナー・ステークスを制しており、来年のケンタッキー・ダービーでは中心的な存在になるでしょう。この勝利でダービーへの20ポイントも手にし、フロントランナーの10ポイントを加えた30ポイントは現時点での断然トップとなりました。

第10レースのブリーダーズ・カップ・ターフ Breeders’ Cup Turf (芝GⅠ、3歳上、12ハロン)は、もちろんヨーロッパ組が強いレース。今年は12頭が参戦し、何と言っても凱旋門賞馬ゴールデン・ホーン Golden Horn の遠征が最大の話題で、当然ながら4対5の断然1番人気に支持されていました。
2番人気(5対1)でアメリカ代表のビッグ・ブルー・キッテン Big Blue Kitten で逆転を期すチャド・ブラウン厩舎の10番人気(71対1)シャイニング・コッパー Shining Copper が後続を20馬身以上も離す大逃げと言う、アメリカ競馬では滅多に見られない光景。スタートが余り良くなかったゴールデン・ホーンは、その3番手に付けて第4コーナーに向かいます。もちろんペースメーカーは役目を終え、インコースからゴールデン・ホーンが先頭に立って直線に入りましたが、これを終始マークして6番手辺りを追走していたジョイント3番人気(6対1)のファウンド Found が外からライヴァルに並び掛け、渋太く差し返すゴールデン・ホーンに最後まで半馬身差を保ったままゴールイン。更に4分の3馬身差で後方からビッグ・ブルー・キッテンが3着に追い込んでいました。
アイルランド・チャンピオン・ステークスではゴールデン・ホーンの2着だったファウンドは、もちろんエイダン・オブライエン厩舎の管理馬で、ライアン・ムーア騎乗。ゴール板を通過した直後、ムーアとデットーリが互いに頭を叩き合いながらヨーロッパ・チームのワン・ツー・フィニッシュを祝福する姿が印象的でした。ファウンドは凱旋門賞9着、前走チャンピオン・ステークスでも2着と一息勝ち切れませんでしたが、GⅠのタイトルは2歳時のマルセル・ブーサック賞に続いて二つ目。最後の最後で漸く混合戦のビッグ・タイトルを手にしました。

そして愈々最後が、第11レースのブリーダーズ・カップ・クラシック Breeders’ Cup Classic (GⅠ、3歳上、10ハロン)。レース前から三冠馬アメリカン・フェイロー America Pharoah と古馬牝馬チャンピオンのビホールダー Beholder の頂上対決が話題でしたが、結局はビホールダーを含む2頭が取り消して8頭立て。三冠馬の一人舞台になった感があります。もちろんアメリカン・フェイローが3対5の断然本命。
何時もの様にスタートから先手を取った大本命、そのまま2番手を追走するブービー人気(33対1)エフィネックス Effinex に6馬身半の大差を付ける圧巻の逃げ切り、と言うかワン・ホース・ショーに終始しました。3着も4馬身半の大差で2番人気(9対2)のオーナー・コード Honor Code が入り、アイルランドからオブライエン師が送り込んだ二冠馬グレンイーグルス Gleneagles は初めてのダートコースもあって競馬に成らず、大きく離されたドン尻で入線しています。前走トラヴァース・ステークス(GⅠ)でアメリカン・フェイローを破ったキーン・アイス keen Ice は4着でした。
ボブ・バファート厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のアメリカン・フェイローについては改めて追加することも無いでしょう。もちろん三冠馬のBC制覇は史上初。勝時計2分0秒07はキーンランドの10ハロンのレコード。バファート師はBC12勝目で、去年のバイエルン Bayern に続く連覇。エスピノザ騎手はBC3勝目等々、記録には事欠きません。
これでケンタッキーで種牡馬として引退するアメリカン・フェイロー、生涯成績は11戦9勝、獲得賞金は865万300ドルとなりました。獲得賞金は史上4位となります。

最後に同馬の馬名に付いて一言加えておきましょうか。オーナーのアームド・ザヤット氏は本来アメリカン・ファラオとする積りでしたが、スペルを誤ったまま登録。「Pharaoh」が「Pharoah」になってしまった経緯があります。しかし馬名は登録されたものを通すのがルール、たとえ「ファラオ」の積りであったとしても、現実には「フェイロー」と読むのが筋でしょう。
こうした例は他にもあって、例えば1988年に仏オークスを制したレスレス・カラ Resless Kara は本来、レストレス・カラ Restless kara にする積りが「t」が落ちてしまったもの。それでも馬名は一生レスレス・カラで通すのが決まりです。当ブログで「アメリカン・フェイロー」を最初から使い続けたのは、それなりの理由があってのことだと理解して頂きたいと思います。

 

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