日本フィル・第313回横浜定期演奏会

今年最後の演奏会レポートです。ご存知の様に12月はどのオーケストラも第9一色。1年で最も演奏会のプログラムから多彩さが失われる季節でもありますね。
室内楽の分野でも年越し企画などが何点かありますが、お祭り事が苦手な私は全てパス。出掛ける回数も減り、財布には優しいのが師走でもありましょう。

とは言いながらもブログには書かなかった演奏会は結構あり、某ソプラノ歌手と昼食を共にする私的な会、地元で行われた杉原千畝を主題とするオペラ「人道の桜」の公式日本初演、音楽とワインを共に楽しむ茶話会、世田谷の住宅街で行われたモーツァルトを楽しむサロン等々、いや出費は例月より多かったかも・・・。
そうした諸々の音楽鑑賞機会の最後がこれ、日フィルの横浜定期でした。

ガブリエル・ロベルト/トランペット協奏曲「Tokyo Suite」(世界初演)
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第9番二短調 作品125「合唱付き」
 指揮/大友直人
 トランペット/オッタビアーノ・クリストフォーリ
 ソプラノ/青木エマ
 アルト/小川明子
 テノール/錦織健
 バス/宮本益光
 合唱/東京音楽大学
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/辻本玲

日フィル横浜の12月定期は第9と決まっていますから、私にとっては第9の聴き初めでもあり、聴き納めでもあります。余程のことが無い限り態々第9演奏会に出掛ける習慣はありませんが、会員になっているお蔭で毎年ベートーヴェンの大作を楽しんできました。
今回のプレトークを司会された音楽評論家・高山直也氏も“第9特別演奏会”と言っていたほど、最近では定期と第9とは結び付かなくなっているようです。
昔は各オケとも楽員の「餅代」になっていた第9、集客力は相変わらずで、今定期もチケットは完売になったそうな。それでもいくつか空席があったのは、定期会員でも“第9は行かない”という天邪鬼氏も少なからずいる証拠で、この辺りは良識が働いているということでしょう。

今年の第9は、久し振りに大友直人の指揮。かつては日本フィルの正指揮者だった氏ですが、私は東響とは余り縁も無く、群馬も一度出掛けただけで現在は足が遠のいています。マエストロが池袋で英国音楽シリーズをプロデュースしていた頃は良く氏の指揮を聴いてきましたが、今回はそれ以来でしょうか。もちろん大友直人指揮の第9は初体験だと思います。

第9演奏会ではメインの前に何を置くかも聴き所ですが、今回は珍しく世界初演の作品が選ばれました。不勉強で、初めてその名前を聞いたガブリエル・ロベルト Gabriele Roberto (1972- )という方のトランペット協奏曲。
12月2日生まれだそうですから、43歳になったばかり。名前から想像できるようにイタリア人ですが、日本での仕事も多く、今回初演された作品は同じく日本とイタリアを往復している日フィル客演主席クリストフォーリの委嘱によるもの。オーケストラも快く提案を受け入れ、今回の世界初演となりました。
プレトークにも登場したロベルト、主なジャンルは映画音楽とのことで、日本アカデミー賞をイタリア人として初めて受賞した由。プログラム誌に彼の経歴を紹介したチラシが挟まれていましたし、日フィルのホームページにも本人による曲目解説が掲載されています。自身のホームページは以下↓

http://www.gabrieleroberto.com/

ウィキペディアによると、人気番組の「YOUは何しに日本へ?」に出演したこともあるとかで、如何にも気さくなイタリアンという印象でした。
作品は明確に分かれた4楽章構成ですが、全体でも18分ほど。映画音楽の作曲家らしく、決して難解な音楽や不協和音などは出てきません。東京の整然とした街並みを描く第1楽章、神社などの静かな空間に想いを馳せる第2楽章、「変な人たち」が集う原宿も同化してしまう多様な日本の第3楽章、新宿の摩天楼と来るオリンピックに期待を寄せる第4楽章。大体のコンセプトは以上のようです。

第3楽章の1部と、第4楽章冒頭にトランペットの短いカデンツァ風の部分が置かれる他は、ソロ楽器の扱いも控え目。全体的には耳に優しいトランペット協奏曲という感想でした。客席からはブラヴォーも上がり、概ね好評。

メインの第9、思っていたように大友直人らしい第9と言うに尽きるでしょうか。ソリストの入場は第2楽章と第3楽章の間。スケルツォが終わったあと指揮者が指揮台を降りてチューニングを要求し、その間に歌手と特殊楽器の奏者たちが舞台に。ここで当然ながら拍手もあります。そして第3楽章と第4楽章はアタッカで、というスタイルでした。
特に第3楽章と第4楽章が、音楽の自然な流れに忠実。これで前の2つの楽章にもっと壮大なドラマと悲劇が描かれれば、鬼に金棒でしょう。歌手陣では、毎年日フィルの第9に参加している錦織氏の真摯な歌唱に脱帽します。

 

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