読売日響・第555回定期演奏会

2月は日本フィルが九州遠征中なので、私が今月オーケストラを聴くのは読響の定期演奏会だけです。その所為かサントリーホールも久し振りという印象。
今月の読響は首席指揮者カンブルラン登場、如何にもマエストロらしい捻ったプログラムが用意されていました。

モーツァルト/セレナード第13番ト長調K525「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」
     ~休憩~
マーラー/交響曲第7番ホ短調「夜の歌」
 指揮/シルヴァン・カンブルラン
 コンサートマスター/長原幸太
 フォアシュピーラー/小森谷巧

一見すれば判るように、「ナハトムジーク」(夜曲)をタイトルに持つ作品を並べたもの。別にモーツァルトとマーラーに作品上の繋がりがある訳ではなく、単に愛称が似ているだけ、という単純な理由でしょう。
特にモーツァルトの「アイネ・クライネ」が定期で演奏される機会は意外に少ないもので、モーツァルトの最も有名なメロディーを大ホールで聴くとは思いませんでしたね。

子供の頃に某音楽家がこの作品を、「あ~いいね、こりゃいいね、何と言うムジーク」と覚えるんだ、と解説していたことを思い出しますが、チョッとドイツ語を齧れば直ぐに判る曲名でもあります。
それに対してマーラーはモーツァルトとは対照的に大編成、80分に近い大曲で、敢えて言えば「アイネ・グローセ・ナハトムジーク」でしょうか。カンブルラン特有の駄洒落ワールドで、つまり二つのナハトムジークを並べた選曲。
更に想像を巡らせば、モーツァルト作品は現在は4楽章として演奏されますが、本来は第1楽章と第2楽章の間にもう一つメヌエットがあったはず。今日では失われてしまいましたが、5楽章であれば緩徐楽章を挟んでメヌエットが置かれ、更に全体をアレグロの両端楽章が縁取りしている構造。つまりマーラー作品と同じフォームだったことになります。

恐らくカンブルランはその辺りにも配慮してプログラムを組んだのでしょう。もしかすると失われたメヌエットを復元して演奏するのではないか、と期待しましたが、流石にそれはありませんでした。
そのモーツァルト、今回は弦楽器の配置に対抗型を採用。対抗配置と言ってもセカンドとヴィオラを入れ替えただけで、コントラバスは何時ものように3人が舞台上手に並びます。

カンブルランの古典演奏は一部に古楽器奏法を取り入れたもので、テンポは相当に速く(特に第2楽章)、弦のソノリティーが豊かに響くタイプの演奏からはほど遠いもの。言わば現代の主流派に属しますが、私のような古い世代の人間にはどうにも窮屈で好きになれません。指揮者はベーレンラスターのポケット・スコアを置いての指揮。

ここで休憩が入り、マーラー。モーツァルトの10型?編成からは一転して特殊楽器がズラリと勢揃いする大編成。
マーラーの第7、少し前に読響ではセーゲルスタムの指揮で聴きましたし、インキネン/日フィルでも体験。その二つの演奏をナマで聴いたこともあり、大幅に印象が良くなった作品です。

今回のカンブルランも、フランス人特有のスッキリと見通しの良い演奏で、マーラー嫌悪感を払拭するという傾向に変化はありません。特に細部には触れませんが、二つのナハトムジークと、それに挟まれたスケルツォは美しさと面白さが同居した稀有の楽章であると再確認できました。
ただし両端の長大な楽章が難解であることには変わりなく、三幅の名画を縁取るグロテスクで悪趣味な額縁、という全体的な印象を変えるまでには至りませんでしたが・・・。

第2楽章のカウベル、確かセーゲルスタムはP席で叩かせていましたが、カンブルランはオーソドックスに舞台裏から響かせるスタイル。また終楽章の最後に登場するカウベルは5~6人の打楽器奏者を総動員する豪華版で、演奏後の大喝采も当然でしょう。
インキネンでも第1ホルンの妙技を披露したエース日橋、今回も楽々と難所をクリアー。私の中ではマーラー第7に欠かせない名手ではあります。

ところで、クライネ・ナハトムジークとグローセ・ナハトムジークの間には120年の歳月が流れました。モーツァルトからベートーヴェン、ロマン派も初期からブラームス辺りまでは順当に時代が変遷してきたと思われますが、マーラーやシュトラウスの頃になって管弦楽の編成は極度に膨張してきた感があります。
昨日の演奏会を聴いて思ったのは、やはり時間は直線的には進まない、ということ。東洋思想がそうであるように、刻は歪みながら捻れて進むのではないか。昨日から話題になっている重力波が音楽史でも観測できる、そんな戯言を言いたくもなる一夜でした。

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