嵐の後のサンタ・アニタ・ハンデ

今週のアメリカ競馬で最大の話題はサンタ・アニタ・ハンデでしょうが、近年はドバイ国際レース週間を2週後に控え、有力馬は海外遠征に出ることが多くなりました。チャンピオンが留守中に伝統のGⅠ戦を、という傾向に成りがちなのは止むを得ないでしょう。

3月12日は4つの競馬場で合計9鞍のG戦、いつも通り開催順にレポートして行きます。最初はアケダクト競馬場のトム・フール・ハンデキャップ Tom Fool H (GⅢ、4歳上、6ハロン)。fast の馬場に11頭が出走し、去年の勝馬サリュートス・アミーゴス Salutos Amigos が7対5の1番人気。
レースは2番人気(4対1)のダッズ・キャップス Dads Caps が逃げ、サリュートス・アミーゴスは最後方に待機。直線、逃げたダッズ・キャップスが急速にバテるのを尻目に、外を一気に抜け出したサリュートス・アミーゴス、6番手中団から内を抜けて伸びた5番人気(9対1)オールウェイズ・サンシャイン Always Sunshine に2馬身半差を付ける完勝でトム・フール2連覇を達成しました。1馬身4分の3差3着には同じく中団を進んだ7番人気(13対1)のストールウォーキン・デュード Stallwakin’ Dude が入っています。
デヴィッド・ジャコブソン厩舎、コーネリオ・ヴェラスケス騎乗のサリュートス・アミーゴスは、これがG戦5勝目。去年はトム・フールの他にトボガン・ステークス(GⅢ)を、一昨年はボールド・ルーラー・ハンデとフォール・ハイウエイトにも勝っていますが全てGⅢ戦。今期は1月にミッドナイト・リュート(GⅢ)、先月はパロス・ヴェルデス(GⅡ)と何れも2着しており、勝鞍は去年6月モンマスの一般ステークス(ミスター・プロスペクター・ステークス)以来でもありました。

続いて南国フロリダに向かいますが、今週はガルフ・ストリームではなく、北フロリダにあるタンパ・ベイ・ダウンズ競馬場から3鞍。最初のフロリダ・オークス Florida Oaks (芝GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)は、firm の芝コースに1頭が取り消しての13頭立て。この競馬場は最終オッズが入電していないので、人気の程は判りません。
91対1という伏兵ヴァリュアブル・チャーマー Valueable Charmer という馬が逃げましたが、後方5番手に待機した14対1のバシアミ・ピッコラ Baciami Piccola というこれまた人気薄が鮮やかに抜け出し、人気の一角で5対1のエンジョイ・ユアセルフ Enjoy Yourself に半馬身差を付ける番狂わせ。首差で7対1のファミリー・ミーティング Family Meeting が3着に入っています。
ブライアン・リンチ厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のバシアミ・ピッコラは英国産馬で、去年2歳時にイタリアでデビュー勝ち。続いてイタリアのリステッド戦(6ハロン)で3着、フランスのリステッド戦(5ハロン)でも2着し、去年夏にアメリカに転厩。これがアメリカ・デビュー戦でした。通算成績は4戦2勝という変わり種。勝時計1分42秒20はステークス・レコードだったそうです。

次のヒルスボロー・ステークス Hillsborough S (芝GⅡ、4歳上牝、9ハロン)は去年までのGⅢから格上げされた一戦で、10頭立て。去年のBCマイルで牡馬を蹴散らしたテーピン Tepin 登場とあって1対5の断然1番人気。
レースは7対1のイザベラ・シングス Isabella Sings が思い切った逃げ作戦を打ち、後続を大きく離したまま直線へ。そのまま逃げ切るかに見えましたが、前半3番手に待機したテーピンが流石の末脚を爆発させると、ゴール前で難なくイザベラ・シングスを1馬身捉えて実力差を見せ付けました。2番手を追走していた90対1の伏兵ラヴリー・ロイリー Lovely Loyree が5馬身差の3着に入り、完全な前残りの競馬です。1分46秒26のタイムはステークス・レコードであり、コース・レコードも更新しました。
マーク・カッセ厩舎、フロリダ・オークスに続きG戦連勝となったジュリアン・ルパルー騎乗のテーピンは、これで今季はエンデヴァー・ステークス(芝GⅢ)に続く2連勝。4月15日のメイカーズ46マイル(芝GⅠ)で再び牡馬と対戦し、6月にはロイヤル・アスコット遠征も計画中だそうです。

フロリダの最後はダービー50ポイント対象のタンパ・ベイ・ダービー Tampa Bay Derby (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。fast の馬場に1頭が取り消して9頭立て。去年のブリーダーズ・フューチュリティー(GⅠ)に勝ってBCジュヴェナイル3着のプロディーズ・コース Brody’s Cause がシーズン初戦とあって2対1の1番人気。
しかしプロディーズ・コースはスタートで他馬と接触して一気に後退、後方からの競馬を余儀なくされて早くも圏外に脱落してしまいます。3番人気(4対1)のアウトワーク Outwork が快調に逃げましたが、3番手を追走した2番人気(3対1)のデスティン Destin がこれを外から捉え、1馬身差捉えて優勝。7馬身の大差が付いて6番手から追い込んだスター・ヒル Star Hill が3着に入り、プロディーズ・コースは不本意な7着に終わりました。勝時計は1分42秒82で、この日三つ目のトラック・レコード更新です。余程馬場状態が速くなっていたのでしょう。
ワン・ツー・フィニッシュ、このダービー4勝目となるトッド・プレッチャー厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のデスティンは、前走同じタンパ・ベイのサム・F・デイヴイス・ステークス(GⅢ)に続くG戦2連勝で50ポイントを獲得。着実にケンタッキー・ダービーへの駒を進めています。

今度はオークローン・パーク競馬場のハネービー・ステークス Honeybee S (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)へ。オークスの50ポイント対象レースですが、馬場は雨のため muddy の泥んこ状態となり6頭立て。去年のフリゼッテ・ステークス(GⅠ)勝馬でBCジュヴェナイル・フィリーズ4着のニックネーム Nickname が4対5の1番人気。
レースは5番人気(9対1)コスミック・エヴォリューション Cosmic Evolution が逃げ、ニックネームは2番手追走。しかし4番手を進んだ2番人気(3対1)のテラ・プロメッサ Terra Promessa の脚色が断然勝り、同厩の本命馬ニックネームを6馬身半も突き放しての圧勝。更に4馬身半差で逃げたコスミック・エヴォリューションが3着に粘りました。
ワン・ツー・フィニッシュを達成したスティーヴン・アスムッセン厩舎、リカルド・サンタナ騎乗のテラ・プロメッサは、去秋キーンランドのデビュー戦こそ3着だったものの、その後は3連勝。今回のステークス・デビューを快勝してオークス候補に挙がってきました。陣営はこのあと4月9日にオークローンで行われるファンタジー・ステークス(GⅡ)に駒を進める予定です。因みに、テラ・プロメッサの父カーリン Curlin もアスムッセン師が管理したクラシック・ホース。

昨日の最後はカリフォルニアのサンタ・アニタ競馬場。実は前日の金曜日に大雨となったサンタ・アニタ、泥田の中で第6レースでは落馬事故も発生し、第7レース以降はキャンセルになっていました。翌日のレースが心配されましたが、天候は急速に回復し、予定のG戦4鞍も無事に行われています。
メインはサンタ・アニタ・ハンデですが、この日はいきなりGⅠ戦のフランク・E・キルロー・マイル Frank E. Kilroe Mile (芝GⅠ、4歳上、8ハロン)から。前日の雨で芝コース開催が危ぶまれていましたが、馬場は good まで回復。7頭がパドックを出ましたが、獣医の判断で1頭がレース直前に除外となり6頭立て。前走アルカディア・ステークス(芝GⅡ)に勝ったボロ Bolo が2対1の1番人気に支持されていました。
5番人気(6対1)のワット・エイ・ヴュー What a View がスタートからハナを主張し、後続に4馬身差を保ったまま直線。最後方から徐々に差を詰めたボロでしたが、結局3馬身4分の3差まで詰め寄るのがやっとの逃げ切り勝ち。ハナ差で後方2番手を進んだ2番人気(2対1)のバル・ア・バリ Bal a bali が3着で続きました。その3着と4着馬(ミッドナイト・ストーム Midnight Storm)との間で審議となりましたが、入線通りで確定しています。
ケネス・ブラック厩舎、ケント・デサーモ騎乗のワット・エイ・ヴューは、去年8月に未勝利を脱してから急速に成長してきた5歳せん馬。前走一般ステークス(カリフォルニア・ターフ・カップ)に続く連勝で、G戦初挑戦でいきなりGⅠホースになってしまった上がり馬と言えるでしょう。通算成績は11戦5勝2着2回。

サンタ・アニタの二つ目は、3歳馬によるサン・フェリペ・ステークス San Felipe S (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。前日の泥田がウソのような fast に回復した馬場に1頭が取り消して6頭立て。前走ロバート・B・ルイス・ステークス(GⅢ)に勝ったモー・スピリット Mor Spirit が自然な流れで8対5の1番人気。
先手を取ったのは4番人気(5対1)のダンジング・キャンディー Danzing Candy で、人気のモー・スピリットは後方2番手から。しかし一つ前のGⅠ戦同様に逃げ馬のペースは落ちることなく、最後方を進んだ2番人気(2対1)のエクサジェレイター Exaggerator がペースに気付いて早目に仕掛けたものの、そのまま逃げ切り勝ち。一歩仕掛けを遅らせたモー・スピリットは結局2馬身及ばず2着に追い込むのがやっとで、4分の3馬身差でエクサジェレイターが3着と言う結果になりました。
クリフォード・サイス厩舎、マイク・スミス騎乗のダンジング・キャンディーは去年11月にデビューした馬で、その後サンタ・アニタで12月に未勝利勝ち、続く2月のアローワンス戦にも勝ってステークス初挑戦のここを制しての3連勝。サンタ・アニタでは3戦無敗となり、当然ながら4月9日のサンタ・アニタ・ダービーに向かうことになります。

一方、古馬の短距離戦サン・カルロス・ステークス San Carlos S (GⅡ、4歳上、7ハロン)は8頭立て。前走パロス・ヴァーデス・ステークス(GⅡ)で鮮やかな差し切り勝ちを決めたコービーズ・バック Kobe’s Back が2対1の1番人気。前走でライヴァル対決だったサリュートス・アミーゴスもこの日、アケダクトでトム・フールを制しているだけに同馬の人気も当然だったでしょう。
レースは最低人気(50対1)のミステリー・トレイン Mystery Train が逃げ、コービーズ・バックは指定席のポツンと離れた最後方から。直線に向いた時点でも後方2番手だった本命馬、大外からいつもの鬼脚を爆発させると、後方3番手から伸びた6番人気(13対1)のコーストライン Caostline に1馬身4分の1差を付けて見事人気に応えました。これも後方2番手から追い込んだ2番人気(5対2)のカルキュレイター Calculator が半馬身差で3着に食い込み、去年の勝馬で3番人気(4対1)に支持されたワイルド・デュード Wild Dude は5番手から一つ順位を上げた4着まで。
ピーター・ユーとロン厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のコービーズ・バックについてはこれまでも度々紹介してきた5歳の芦毛馬。これからも短距離路線の差し馬として注目されていくことでしょう。

そして愈々サンタ・アニタ・ハンデキャップ Santa Anita H (GⅠ、4歳上、10ハロン)。単に「ビッグ・キャップ Big Cap」とも呼ばれる伝統の一戦ですが、冒頭で紹介したように最近はやや出走馬のレヴェル低下が気になります。今年は9頭と頭数は揃い、クラーク・ハンデ(GⅠ)の勝馬で去年のBCクラシックではアメリカン・フェイロー America Pharoah の2着だったエフィネックス Effinex が7対5の1番人気。
スタートから積極的に行ったのは、5番人気(16対1)のメラトニン Melatonin 。エフィネックスは3番手を追走しましたがメラトニンの逃げ足衰えず、内ラチ沿い一杯を通り、後方3番手から追い込む6番人気(22対1)のハード・エイシズ Hard Aces に4馬身4分の1差を付けるまさかの逃げ切り勝ち。更に半馬身差で漸く本命えふぃエックスは3着に終わりました。勝馬が向正面で内の2番人気(5対2)ドンワース Donworth の進路を塞いだことが審議になりましたが、結局は入線通りでの確定となっています。
デヴィッド・ホフマンス厩舎、ジョセフ・タラモ騎乗のメラトニンは、一昨年2月のサンタ・アニタで5戦目で初勝利を挙げた5歳せん馬。去年はサンタ・アニタの坂下りスプリント戦のエディー・D・ステークス(芝GⅢ)で2着していましたが、それ以後はダートのより長い距離に挑戦し続けていた1頭です。G戦初勝利がGⅠ戦という点でキルロー・マイルのワット・エイ・ヴューと同じ、逃げ切り勝ちという面でも同じ結果になりました。結局この日はサン・フェリペも逃げ切りで決まっており、残る一鞍サン・カルロスだけが後方差しという対照的な内容で決着するという珍しい一日でもありましたね。

 

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