日本フィル・第316回横浜定期演奏会

先の木曜日に読響定期を聴いて帰宅して以来、ずっと九州の地図とテレビ報道に見入っています。熊本も大分も日本フィルの九州ツアーを聴きに何度か訪れたことがあり、変わり果てた風景に言葉もありません。
昨日はその日フィルがみなとみらいホールで横浜定期を開きましたが、オーケストラの関係者はもちろん、指揮したインキネンも九州はかつて訪れた地。その表情も何処となく曇りがちに見えました。

九州のことが無くても、4月定期は以下の演目で決まっていたもの。誰も言葉に出して触れないけれど、このタイミングでの演奏に奇縁を感じたのは私だけではないでしょう。
とても立ち入った感想を書く気持ちにはなれませんので、事実だけを記録しておきます。

ヴェルディ/レクイエム
 指揮/ピエタリ・インキネン
 ソプラノ/安藤赴美子
 メゾ・ソプラノ/池田香織
 テノール/錦織健
 バス/妻屋秀和
 合唱/晋友会合唱団(合唱指揮/清水敬一)
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/辻本玲

開場前の列に並ぶと、出演者変更のお知らせが。当初予定されていたソプラノの大隅智佳子氏が体調不良により出演できず、上記の様に替るとのこと。

今回もプレトークは小宮正安氏。氏のヨーロッパ文化史から見た作品演奏史解説には傾聴すべき内容が多く、もっと多くの方に聞いて貰いたいと思います。
レクイエムの再演がミラノ・スカラ座であったこと、何故この作品がオペラ的だと批判されてきたか、当時のヴェルディが葛藤していた内面的苦悩に光を当てることによって、今回の演奏も新たな視点で鑑賞できました。
もちろん九州への想いが一層強くなったことは言うまでもありません。

このホールにはP席もありますが、合唱団は舞台奥に並ぶ形。ソリストは指揮者の横に配置されます。またディエス・イレでのバンダは舞台裏、扉を開けて客席に響くように配慮されていました。
ソリストたちは全員黒の衣裳、インキネンも燕尾の奥は黒いシャツに着替えての登場。今回の特殊な状況での演奏、と見えたのは私の勘繰り過ぎか。

楽章間に余り長い間を置かず(流石にディエス・イレのあとは少し休みましたが)、一気に演奏された鎮魂曲。オペラ的な宗教曲とは言え、改めて感動的な時間を体験できました。
プログラムを刷り直す時間も無いままにピンチヒッターを務めた安藤ソプラノを始め、ソリストも各パートを深々と表現して見事。一糸乱れぬコーラスも精神的な強さを謳い上げます。

演奏が終わっての沈黙。このあとの拍手は不要かと思われますが、あくまでも予定された定期演奏会。いつもよりは短いカーテンコールで、首席客演指揮者としてのインキネンの最後の横浜定期を終えました。

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