仏ギニーはクリスチャン・デムーロとムーア

さてフランスの最初のクラシックをレポートして行きましょう。ロンシャン競馬場が改修中の今年、ギニーの舞台はドーヴィル競馬場に移されました。ギニーは二度の大戦でシャンティ、ル・トランブレー、メゾン=ラフィットなどで代替されたことはありましたが、ドーヴィルで行われるのは確か今年が初めて。リゾート地に早くも夏が来たという感覚でしょうか。
この日はギニーに先立ってオカール賞も行われましたが、ここはギニーから始めます。

日曜日のドーヴィル競馬場は good 、先に行われたプール・デッセ・デ・プーリッシュ Poule d’Essai des Pouliches (GⅠ、3歳牝、直線1600メートル)は枠順既報のように14頭立て。
抜けた成績の馬は無く、混戦の中から33対10の1番人気に支持されたのはケマー Qemah 、トライアルの一つであるラ・グロット賞(GⅢ)の勝馬で、2歳牝馬チャンピオン決定戦のマルセル・ブーサック賞でも3着した実力が最上位と言う評価です。
2番人気(51対10)は2頭が並んでいて、アイルランドからエイダン・オブライエン師が送り込んだライアン・ムーア騎乗の1000ギニー3着馬で、去年のBCジュヴェナイル・フィリーズ・ターフでも2着しているアリス・スプリングス Alice Springs と、アンドレ・ファーブル厩舎の2戦無敗馬カム・アライヴ Come Alive です。

アル・シャカブの所有、共にジャン=クロード・ロジェ厩舎の本命ケマーのペースメーカー役で12番人気(34対1)のポジティヴ・ヴァイブレーション Positive Vibration が逃げ、ケマーは後方の内で待機。3番手を進んでいた同じルジェ厩舎で別オーナーの4番人気(74対10)ラ・クレソニエール La Cressonniere が残り2ハロンで先頭に立つと、中団グループの最後に付けていた5番人気(84対10)ナスラ Nathra の猛追を1馬身差退けての戴冠。
ケマーも良く伸びましたが頭差及ばず3着に終わり、英国ハッガス厩舎が遠征したべシャーラー Besharah が同じく頭差で4着、8番人気(16対1)のスペクトル Spectre が5着でした。アリス・スプリングスにもチャンスがあるように見えましたが最後は伸びを欠いて7着、カム・アライヴも8着敗退です。

勝ったラ・クレソニエールは3頭出しルジェ厩舎の2番手候補で、クリスチャン・デムーロ騎乗。デムーロはご存知の様にミルコの弟で、これがフランスのクラシック・レースは初勝利となります。イタリアでは1000ギニーとダービーを、日本でも桜花賞を制していますが、イタリア五冠ジョッキーの兄を追ってこれからも活躍が期待されます。
管理するルジェ師は仏1000ギニーは3連覇で4勝目。念のため記録を書き出すと、2009年のエルーシヴ・ウェイヴ Elusive Wave 、2014年がアヴニール・セルタン Avenir Certain 、そして去年のエルヴェディア Ervedya ということになります。

今年のラ・クレソニエールはここまで6戦6勝と無傷。2歳時にはエロド賞(1400メートル)とアイソノミー賞(1600メートル)、3歳初戦もラ・カマルゴ賞(1600メートル)とリステッド戦に3勝しており、G戦は今回が初挑戦でした。
父ル・アーヴル Le Havre は仏ダービー馬、母の父はガリレオ Galileo ですから長距離も問題なさそう。次は仏オークスで二冠を目指し、もちろん本命で臨むことになるでしょう。
一方、英1000ギニー5着、仏1000ギニーも2着と入着を果たしたナスラは、デットーリとのコンビでコロネーション・ステークスが目標。3着のケマーも同じくコロネーションに向かう旨がコメントされました。

続いては牡馬のみに開放されているプール・デッセ・デ・プーラーン Poule d’Essai Poulines (GⅠ、3歳牡、直線1600メートル)。牝馬版より1頭少ない13頭が参戦し、こちらも混戦の中でアガ・カーンの2戦2勝馬ザラク Zarak が2対1の1番人気。2勝の内容は新馬戦と条件戦で、G戦初挑戦と言う不安もありましょう。
これも2戦2勝でアル・シャカブの持馬ゼルザル Zelzal が17対5の2番人気で続き、実績より未知の魅力に期待の高いギニーと言えそうです。

スタート直前に3番人気(76対10)でこれまた未知の魅力ザ・グルカ The Gurkha が落鉄し、蹄鉄を打ち替えるためにスタートが5分遅れ。これによって本命馬は多少なりとも影響を受けたようですが、それはあくまでも結果論です。
英2000ギニー7着から挑戦した最低人気(54対1)のファースト・セレクション First Selection が逃げ、ザラクは後方から。2番手を進んでいたザ・グルカが残り2ハロンでスパートすると、レースは一方的。そのまま逃げたファースト・セレクションに5馬身半の大差を付け、混戦のクラシックとは思えない内容での戴冠でした。
ハナ差で後方から追い込んだ5番人気(9対1)のディクトン Dicton が3着に入り、頭差で6番人気(12対1)のジョージ・パットン George Patton が4着。人気のザラクは5着、2番人気のゼルザルは11着と大敗し、勝馬を除けば混戦だったと言えそうです。

勝ったザ・グルカはエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。オブライエン師は仏2000ギニー4勝目で、古い順に列記すると2002年のランドシーア Landseer 、2006年オッシ―・ルールズ Aussie Rules 、2007年のアストロノマー・ロイヤル Astronomer Royal と続き、9年振りの美酒でした。ムーアはこのクラシック初制覇。
無名のザ・グルカは今年4月6日にレパーズタウンの1マイル戦でデビューして3着。28日前の4月17日にネイヴァンの1マイル未勝利戦で初勝利を挙げたばかりですが、それでも3番人気だったのは敢えてオブライエン師が海を渡って挑んで来たという事実からの期待だったのでしょう。元々仏2000ギニーには登録が無く、追加登録料を支払っての参戦だったことも人気の要因の一つ。

父ガリレオ、近親にもクラシック馬多数(ディープインパクトもその1頭)という血統、今回の圧勝劇から突如ダービーに3対1のオッズが出され、目下の所1番人気。仏ダービーにも登録があり、次走は英仏ダービーとセント・ジェームス・パレス・ステークスが候補に挙がっています。
オーナーのクールモア・グループも“未だ決めていない”との返事でしたが、エプサム行きを問われると、“それは良い考えかも”とのこと。暫く競馬新聞電子版から目が離せません。

最後になりましたが、二つのクラシック・レースの前座の様な形で行われたダービー・トライアルの一つ、オカール賞 Prix Hocquart (GⅡ、3歳牡牝、2000メートル)を紹介しておきましょう。本来のコースであるロンシャンでは2200メートルで行われていたレースです。出走馬は7頭、アル・シャカブのダービー秘密兵器と期待されるメクタール Mekhtaal が23対10の1番人気。
そのメクタールがスタートから主導権を奪うと、後は全く相手にせず2着以下に6馬身の大差を付けて圧巻の逃げ切り勝ちです。3番手を追走していた6番人気(11対1)のザウエイユーウィッシュ Thewayyoywish は勝馬がスパートすると全く付いて行けなかったものの2着を確保。同じ厩舎のワン・ツー・フィニッシュとなりました。半馬身差で後方から追い込んだ4番人気(56対10)のロイヤル・ジュリアス Royal Julius が3着。

同じ厩舎とは、このあと仏1000ギニーでも1着・3着となるジャン=クロード・ルジェ厩舎のことで、こちらはグレゴリー・ブノアが騎乗していました。ルジェ師はこのレース6勝目。
勝ったメクタールは3歳デビューで、サン=クルーの2000メートルでデビュー勝ち。前走2戦目はメゾン=ラフィットの2000メートル条件戦で2着に敗れていましたが、このG戦初勝利で仏ダービーが視野に入ってきました。

 

 

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