ウェルド師、悲願のダービー初制覇

今日はダービー速報から行きましょう。16弱ダービーなどと悪口を書きましたが、やはりダービーはダービー、結果をチェックするのもドキドキします。残念ながら映像は未だ見ていません。
馬場は前日に比べれば乾く、というレポートもありましたが、発表は good to soft 、日本では固い馬場を「馬場が良い」と称しますが、ヨーロッパではむしろ水分を多く含んだ馬場の方を望む傾向があります。その感覚からしても、今年のオークス/ダービーは「重馬場」と表現しても良いでしょう。

枠順が発表された16頭は全て出走しましたが、人気は前日の予想から変わり、最終的にはオブライエン厩舎の無敗馬ユーエス・アーミー・レンジャー US Army Ranger が7対2の1番人気に上がっていました。事前に本命視されたダンテ勝馬ウイングズ・オブ・デザイア Wings of Desire は6対1で2番人気。英国の最高クラシックで、実績最上位の英国馬が1番人気にならないのは不思議な感覚でもあります。
どれが1番人気になるかの予想さえ外れてしまった今年のダービー、マスコミの関心は馬よりも、90歳になられた女王の一挙手一投足にあった様子。そんな中でのスタートでした。

5頭を出走させてきたオブライエン軍団のペースメーカー、10番人気(16対1)のポート・ダグラス Port Douglas が逃げ、ムーア騎乗のユーエス・アーミー・レンジャーはオークスと同じ作戦で最後方から。馬群がタテナム・コーナーを回り、5番手を進んでいたオブライエンの1頭でジョイント7番人気(14対1)のアイダホ Idaho が一旦先頭に立ちましたが、中団からスルスルと脚を伸ばしてきた3番人気(13対2)のハーザンド Harzand がスムースに抜け出します。
ここに絶妙のタイミングでムーアが本命馬を駆って迫りましたが、ハーザンドを脅かすまでには至らず、ハーザンドが1馬身半差を付けて金的を射止めました。1馬身4分の1差でアイダホが3着に粘り、オブライエン厩舎は2・3着。更に5馬身の大差が付いてウイングズ・オブ・デザイアが4着に入り、英国馬では最先着。追加登録料を支払って参戦したジョイント12番人気(25対1)のハンフリー・ボガート Humphrey Bogart が5着に飛び込みましたが、5着賞金は4万ポンドちょいなので登録料を取り戻すまでにはいきません。
2番手を追走したフランス代表、ジョイント4番人気(8対1)のクロース・オブ・スターズ Cloth Of Stars は8着に終わり、アイルランド勢が1着から3着を独占したダービーでした。

ハーザンドを管理するデルモット・ウェルド師は、騎乗したパット・スマーレン共々ダービーはこれが初制覇。ウェルド師は1981年にブルー・ウインド Blue Wind でオークスは制していましたが、漸く3歳牡馬の最高峰クラシックを手にしました。ヨーロッパのクラシックは24勝目になるとのことですが、エプサムのダービーは別格ということです。
オーナーはアガ・カーン氏で、ダービーは今回が5勝目。1981年のシャーガー Shergar から始まり、1986年のシャーラスターニ Shahrastani 、1988年カヤージ Kahyasi 、2000年のシンダー Sinndar と続きましたが、英国競馬界との確執などもあり、前回から16年振りの美酒となりました。
現在のアガ・カーンはファミリーを継いで4代目に当たりますが、祖父の第3代アガ・カーンはブレニム Blenheim (1930年)、三冠馬バーラム Bahram (1935年)、マームード Mahmoud (1936年)、マイ・ラヴ My Love (ヴォルテラ夫人と共同所有で1948年)、タルヤー Tulyar と5回勝っており、遂に祖父の大記録に並んだことになります。

ハーザンドはアイルランド調教馬ということで、当然ながら次走は愛ダービーになります。再びオブライエン軍団と雌雄を決する構え。父はダービー馬シー・ザ・スターズ Sea the Stars で、「ダービーはダービー馬から」という格言を受け継ぐ1頭にもなりました。シー・ザ・スターズ産駒では一昨年、タグルーダ Taghrooda がオークスに勝っており、早くもエプサムのクラシックを完全制覇したことにもなりましょう。

ところでダービー・デイのエプサム競馬場では、もう一鞍のGⅠ戦が行われます。それがダービーと同じ距離で行われるコロネーション・カップ Coronation Cup (GⅠ、4歳上、1マイル4ハロン10ヤード)。今年は8頭が揃い、メンバーはGⅠ馬がズラリと揃った豪華版。キング・ジョージや凱旋門賞の馬券云々と考えているファンは見逃せない一戦となりました。
このハイレヴェルのメンバーでも8対11の断然1番人気に支持されたのが、去年のキングジョージ勝馬で、今期もドバイでドゥラメンテを問題にしなかったポストポーンド Postponed 。去年のBCターフを制したオブライエン厩舎のファウンド Found が3対1の2番人気で続き、去年のセントレジャーに勝ったシンプル・ヴァース Simple Verse は5対1で3番人気。

ポストポーンドのペースメーカーを務める最低人気(50対1)のローズバーグ Roseburg が超スローに落しての逃げ。これに影響されなかったのは上位人気2頭だけだったようで、3番手を進んだポストポーンドが、6番手から追い上げるファウンドに4馬身半差を付けて人気通りの実力を見せ付けました。1馬身4分の1差でローズバーグが3着に粘り込んでしまい、シンプル・ヴァースは4着。ジャドモント・インターナショナル(GⅠ)勝馬の4番人気(8対1)アラビアン・クィーン Arabian Queen は2番手追走も7着敗退に終わっています。
去年のフォア賞(GⅢ)優勝まではルカ・クマニ師が管理していたポストポーンドでしたが、今期からはニューマーケットのロジャー・ヴァリアン厩舎に転向。アンドレア・アトゼニとのコンビで、既にドバイでゴールド・カップ、シーマ・クラシックと彼の地のGⅠ戦に連勝しており、キングジョージからの連勝記録は「5」に伸びました。どんな馬場にでも対応出来、海外遠征も問題無と言うオールマイティー・タイプの5歳馬。凱旋門賞に最も近い馬と言って良いでしょう。このあとは連覇を目指してキングジョージに直行するとのことでした。
因みに凱旋門賞のオッズ、レース前の8対1から4対1に上がり、夏場を迎えてスターたちが揃ってきた印象です。尤もオーナーのシェイク・モハメド・オバイド氏はあくまでもドバイでの活躍が最大目標だそうで、早くも来年のシーマ・クラシック連覇を声高に宣言していました。

一方2着のファウンド、キングジョージから凱旋門という路線は選ばないようで、2週後のロイヤル・アスコットでプリンス・オブ・ウェールズに間違いなく出走する予定。エイシンヒカリの強力な相手になることも間違いないでしょう。

この二つのGⅠ戦の前にもG戦が一鞍行われています。去年まではオークス・デイのカードだったプリンセス・エリザベス・ステークス Princess Elizabeth S (GⅢ、3歳上牝、1マイル114ヤード)。7頭が出走し、前走シャンティーのリステッド戦を含めて3連勝中のサヤナ Sayana が1対2で1本被りの本命。後にダービーを制するアガ・カーンの持馬ですが、こちらはフランスでデュプレ師が管理する4歳馬。
最低人気(25対1)のローヴズ・アンド・フィッシズ Loaves And Fishes が逃げ、サヤナは最後方。中団に付けていた2番人気(8対1)のエプサム・アイコン Epsom Icon が残り1ハロンで先頭に立ち、追い上げるサヤナを3馬身半差抑えて優勝し、頭差で同じくフランスから遠征してきた3番人気(9対1)のロージー・コットン Rosie Cotton が3着に入っています。

ミック・シャノン厩舎、シルヴェストル・ド・スーザ騎乗のエプサム・アイコンは、その名の通り去年のエプサムで初勝利を挙げた3歳馬。その後ニューバリーのリステッド戦にも勝ち、今期はギニーを目指してネル・グイン・ステークス(GⅢ)が7着。それでも1000ギニーに出走してマインデング Minding の11着と完敗し、前走はニューバーリーのリステッド戦で10ハロンに挑むも5着。距離を1マイル近辺に戻してG戦初勝利となりました。
しかしニュースとして面白いのは、3着に入ったロージー・コットンでしょう。実は彼女は既に受胎しており、間もなくアイルランドで母になる予定。フランスからアイルランドに向かう途中にエプサムに立ち寄り、GⅢの3着賞金7千5百ポンドを手土産に牧場入りするのだとか。管理するブランド夫人も然ることながら、同意したオーナーの太っ腹にも感心するじゃありませんか。

 

 

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