クリエイター戴冠、ダービー13着からの巻き返し

6月第2週のアメリカは三冠レースの最終戦となるベルモント・ステークスが行われます。現在ではメインのクラシックの前にG戦がズラリ、競馬の祭典状態で、6鞍のGⅠ戦を含めて9鞍のG戦が行われます。他にもチャーチル・ダウンズでも一鞍、これらを全てレース順に取り上げて行きます。
日本ではラニが走ったベルモント・ステークスしか報道されないでしょうから、速く結果を知りたい人はスポーツ関係の情報誌でも見て頂きましょう。海外の競馬をもっと詳しく知りたい人は当ブログで、なぁ~んちゃってチャッカリと宣伝してます。

さて土曜日のベルモント・パーク競馬場はメインのダート・コースが fast 、芝コースは firm という「良馬場」。芝ではコースレコードが二つも出るほどの高速馬場になっていたようで、日本馬には有利だったと思われます。
最初は第3レースのエイコーン・ステークス Acorn S (GⅠ、3歳牝、8ハロン)。6頭が出走し、ケンタッキー・オークス馬キャスリン・ソフィア Cathryn Sophia が4対5の断然1番人気。
最低人気(35対1)のパオラ・クィーン Paola Queen が逃げ、キャスリン・ソフィアは3番手から2番手へと徐々に順位を上げます。第4コーナーで先頭に立ったキャスリン・ソフィアでしたが、そこからの伸びは今一つで、前半は最後方で待機していた2番人気(2対1)のカリーナ・ミア Carina Mia が外から襲い掛かり、4番手から伸びた4番人気(9対1)のオフ・ザ・トラックス Off the Tracks に1馬身4分の1差を付ける鮮やかな差し切り勝ちです。キャスリン・ソフィアは1馬身遅れての3着に終わりました。
ウイリアム・モット厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のカリーナ・ミアは、これがGⅠ戦初勝利。ケンタッキー・オークスを回避して回った前走エイト・ベルズ・ステークス(GⅡ)でも2着に6馬身の大差を付ける追い込みを決めており、G戦はステークス・デビューだった去年秋チャーチル・ダウンズのゴールデン・ロッド・ステークス(GⅡ)を加えて3勝目。GⅠ戦初挑戦はアシュランド・ステークスの4着でしたが、遂に初制覇。キャリア当初は逃げていた同馬、脚質を差し脚に転向してから本格化したようです。半姉のミス・マッチ Miss Match もアルゼンチン・オークス馬で、後にアメリカでサンタ・マルガリータ・インヴィテーショナルを制したGⅠ馬という良血。

第4レースはブルックリン・インヴィテーショナル Brooklyn Invitational (GⅡ、4歳上、12ハロン)。かつてはニューヨーク・ハンデ三冠の第三弾でしたが、現在はGⅡ戦。10頭が出走し、4月にエクセルシオ・ステークス(GⅡ)に勝ち、この距離での勝鞍がある唯一の出走馬でもあるキッド・クルーズ Kid Cruz が8対5の1番人気。
逃げたのは最低人気(59対1)のウエイモンド・ボイド Waymond Boyd 。キッド・クルーズは長距離を意識して最後方に控えましたが、4番手に付けていた2番人気(7対2)のシャーマン・ゴースト Shaman Ghost が内ラチ沿いに抜け出し、中団6番手から伸びる5番人気(9対1)のターコ・ブラーヴォ Turco Bravo に4馬身4分の1の大差を付ける完勝。1馬身差で後方2番手から追い込んだ7番人気(15対1)のエルナーウィ Elnaawi が3着に食い込み、キッド・クルーズは7着惨敗に終わっています。
ジェームス・ジャーケンス厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のシャーマン・ゴーストは、去年カナダの最強3歳牡馬に選出された強豪で、カナダのダービーに相当するクィーンズ・プレートに勝った馬。当時は昨日のレポートでマリファナ疑惑を紹介したブライアン・リンチ師が管理していましたが、4歳の今年からはジャーケンス師の元に転出した身。5月にベルモントのアローワンス戦で今シーズンを始動し、3着からのブルックリン制覇となりました。もちろんアメリカのG戦は初勝利。

この日三つ目のG戦、二つ目のGⅠ戦はオグデン・フィップス・ステークス Ogden Phipps S (GⅠ、4歳上牝、8.5ハロン)。早くも今秋に行われるBCへの優先出走権が与えられる一戦です。7頭が出走し、今年ラ・トロワイエンヌ・ステークス(GⅠ)を制しているカーラライナ Curalina が9対5の1番人気。
ここも最低人気(58対1)のデザート・ヴァレー Desert Valley が逃げ、カーラライナは4番手から。しかし伸びたのは前半後方2番手、第4コーナーも最後方で回った4番人気(4対1)のカヴォーティング Cavorting で、大外から鋭く伸びると、最後方で待機していた2番人気(3対1)のフォレヴァー・アンブライドルド Forever Unbridled に2馬身半差を付ける逆転劇です。半馬身差でこれも後方3番手から伸びた6番人気(10対1)のカランバ Carrumba が3着に入り、人気のカーラライナは不利もあって4着敗退。
キアラン・マクローリン厩舎、フロラン・ジェルー騎乗のカヴォーティングは、去年3歳時にテスト・ステークスに勝っており、GⅠ戦は2勝目。去年のプライオレス・ステークス(GⅡ)、今期のラフィアン・ステークス(GⅡ)を加えてG戦も4勝目となりました。ニューヨークは滅法得意で、これで5戦4勝。マクローリン師もオグデン・フィップスは得意で、去年のウエディング・トースト Wedding Toast に続く連覇となりました。BCの権利を獲得したのはディスタッフ、当然ながら秋の目標になるでしょう。

第6レースは、この日最初の芝コースG戦となるジャイプル・インヴィテーショナル Jaipur Invitational (芝GⅢ、4歳上、6ハロン)。1頭が取り消して13頭立てとなり、前走ベルモントで芝コース7ハロンの一般ステークス(エルーシヴ・クオリティー・ステークス)に勝ったア・ロット A Lot が7対2の1番人気。
一斉スタートからダッシュ良く飛び出した10番人気(18対1)のピュア・センセーション Pure Sensation 、快調に飛ばしたまま、後方2番手から追い込む9番人気(16対1)のディスコ・パートナー Disco Partner を首差抑える逃げ切り勝ちで大波乱となりました。1馬身差で6番手から伸びた2番人気(5対1)のレディー・フォー・ライ Ready for Rye が漸く3着に入り、ア・ロットは後方から追い上げるも4着まで。勝時計1分6秒76はコース・レコードです。
クリストフ・クレメント厩舎、ホセ・オルティス騎乗のピュア・センセーションは去年の秋にターフ・モンスター・ハンデ(芝GⅢ)に勝ちましたが、BCターフ・スプリントではターフ・モンスターで破ったモンゴリアン・サタデイ Mongolian Saturday の8着に敗退。この2月にガルフストリーム・パーク・ターフ・スプリントで5着に敗れて以来の競馬で、人気が無かったのはその所為でしょう。

続いてはウッディー・スティーヴンス・ステークス Woody Stephens S (GⅡ、3歳、7ハロン)。1頭が取り消して12頭立て。パット・デイ・マイル(GⅢ)に勝ったシャープ・アズテカ Sharp Azteka が3対1で1番人気。
2番人気(4対1)のジャスティン・スクェア―ド Justin Squared が逃げましたが、やや離れた最後方を追走していた4番人気(7対1)のトムズ・レディー Tom’s Ready が徐々に進出して後方5番手で直線。一旦は外をスパートしたものの、内が大きく開いていると見るや進路を内に取り、2番手を進んだ11番人気(25対1)のフィッシュ・トラップ・ロード Fish Trappe Road に1馬身4分の1差を付けるドラマティックな勝利でした。4分の3馬身差で後方から伸びた8番人気(15対1)のスター・ヒル Star Hill が3着に入り、3番手を追走したシャープ・アズテカは4着。
ダラス・スチュアート厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のトムズ・レディーは、ルコント・ステークス(GⅢ)2着、ルイジアナ・ダービー(GⅡ)2着からケンタッキー・ダービーに挑戦して12着だった馬。距離を10ハロンから一気に7ハロンに戻し、その点でもドラマティックな変身です。スチュアート師は同馬をこのままスプリント路線に止める予定で、サラトガのキングズ・ビショップ・ステークス(GⅠ)を狙う由。もちろん最終的にはBCスプリントがゴールでしょう。

第8レースのジャスト・ア・ゲイム・ステークス Just a Game S (芝GⅠ、4歳上牝、8ハロン)は13頭立て。去年のサラトガでレイク・ジョージ・ステークス(芝GⅡ)に勝ったミセス・マクドゥーガル Mrs McDougal が7対2の1番人気。
レースはブービー人気(44対1)のラ・バーマ La Berma が逃げ、ミセス・マクドゥーガルは中団の7番手辺り。2番手を追走していた3番人気(7対1)のセレスタイン Celestine が直線で逃げ馬に並び掛けると、6番手から追い込む2番人気(7対2)のレセプタ Recepta に3馬身4分の3差を付ける楽勝でGⅠ戦初勝利を飾りました。1馬身差で人気のミセス・マクドゥーガルが3着に追い込み、ここはほぼ人気通りの決着です。勝時計は1分31秒64で、100分の1秒差でコースレコード成らず、という速いもの。
ウイリアム・モット厩舎、ジュニア・アルヴァラード騎乗のセレスタインは、前走ハネー・フォックス・ステークス(芝GⅡ)も楽勝しており、G戦2連勝。もし接戦になり、もっと際どい勝負にまでもつれればレコードタイムになっていたかも。

そして伝統のメトロポリタン・ハンデキャップ Metropolitan H (GⅠ、3歳上、8ハロン)は、BCダート・マイルの優先出走権を掛けた春のマイル・チャンピオン決定戦。3頭が取り消したものの10頭が揃い、去年のベルモント・ステークスでアメリカン・フェイロー American Pharoah の2着したフロステッド Frosted が2対1の1番人気。丁度1年後の舞台で雪辱を果たす構え。
4番人気(8対1)のノーブル・バード Noble Bird が逃げ、フロステッドは後方4番手に待機。ここから徐々に進出したフロステッド、第4コーナーでは4番手にまで上がり、先行3頭を外から捉えると、後は独壇場。何と2番手を追走した8番人気(12対1)のアンカー・ダウン Anchor Down に1マイル戦とは俄かには信じ難い14馬身4分の1という大差を付ける圧巻の一人舞台でした。1馬身差で最後方から伸びた6番人気(9対1)のアップスタート Upstart が3着。勝時計1分32秒73はステークス・レコード。
キアラン・マクローリン厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のフロステッドは、去年のウッド・メモリアル・ステークスに続いて二つ目のGⅠ戦勝利。今年はドバイで2戦し、現地のGⅡ戦に勝ってドバイ・ワールド・カップが5着。これが今期アメリカでの初戦でもありました。マクローリン師は、オグデン・フィップスのカヴォーティングに続いてこの日二つ目のGⅠ戦勝利。ロザリオ騎手もブルックリン、ウッディー・スティーヴンスに加えて3鞍目のG戦勝利。

ベルモント・ステークスの一つ前に行われるのが、芝のGⅠ戦マンハッタン・ステークス Manhattan S (芝GⅠ、4歳上、10ハロン)。2頭が取り消して9頭立てとなり、既にフランスとアメリカでGⅠ戦に勝っているフリントシャー Flintshire が3対5の圧倒的1番人気。
6番人気(13対1)ワールド・アプルーヴァル World Approval の逃げを5番手で待機したフリントシャー、第4コーナーでは外から4番手に上がり、直線で前3頭の外から一気に抜けると、6番手から伸びた2番人気(6対1)のイロニコス Ironicus に1馬身4分の3差を付けて見事に人気に応えました。半馬身差で逃げたワールド・アプルーヴァルが3着に粘っています。
チャド・ブラウン厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗、ジャドモント・ファーム所有の6歳馬フリントシャーは、3歳時にアンドレ・ファーブル厩舎でフランスのパリ大賞典に勝ち、去年はアメリカでもソード・ダンサー・インヴィテーショナル(GⅠ)に優勝。去年は凱旋門賞の2着、香港ヴァーズでも2着を経て、これが今期初戦、ブラウン厩舎でも初出走でした。もちろんBCターフ(今年はサンタ・アニタ)制覇が同馬の最終目標でしょう。

そして愈々第148回目を迎えるベルモント・ステークス Belmont S (GⅠ、3歳、12ハロン)。ケンタッキー・ダービー馬ナイクィスト Nyquist がプリークネス敗戦後、白血球の数値が上がったということで早々と回避。未勝利馬も参戦したり、ほとんど可能性の無い馬も4頭含まれるなどベルモントとしては13頭と多頭数。当然ながらプリークネスを制したエクサジェレイター Exaggerator が7対5の1番人気に支持されていました。ラニ Lani は陣営からの強気なコメントもあって12対1の6番人気に上がっていました。
大歓声の中でスタートが切られ、55対1の伏兵ゲティスバーグ Gettysburg の捨て身の逃げ。エクサジェレイターは6番手を追走していましたが、最後は追い込み馬の競馬。最後は後方4番手を追走していた7番人気(16対1)のクリエイター Creator と、2番手を粘った4番人気(8対1)デスティン Destin の叩き合いとなり、僅かに外のクリエイターがハナ差でデスティンを抑えるというスリリングなベルモントとなりました。後方2番手から直線で追い上げたラニが1馬身半差の3着に大健闘。エクサジェレイターは騎手が最後は諦めたこともあって、11着でゴール板を通過しています。
大外発走で金的を射止めたクリエイターは、これがベルモント初制覇となるスティーヴン・アスムッセン厩舎、イラッド・オルティス騎乗。アーカンソー・ダービー(GⅠ)制覇からケンタッキー・ダービーに挑みましたが13着と大敗。プリークネスを回避してここに的を絞っての快挙でした。芦毛のタピット Tapit 産駒という点ではラニと同じ。タピットの仔は2014年のトーナリスト Tonalist に続く2頭目のベルモント勝馬で、タピットの人気が増々高まるのは間違いないでしょう。

土曜日のアメリカ競馬レポート、最後はチャーチル・ダウンズ競馬場で行われたミント・ジュレップ・ステークス Mint Julep S (芝GⅢ、3歳上牝、8.5ハロン)。10頭が出走し、スイート・アクレイム Sweet Acclaim が9対5の1番人気。
去年の勝馬ながら12対1の伏兵キス・ムーン Kiss Moon が逃げ、スイート・アクレイムは後方2番手。4番手を進んだ2番人気(2対1)のキャッシュ・コントロール Cash Control が内からスルスルと伸び、外から追い上げるスイート・アクレイムを頭差凌いだところがゴール。いずれにしてもブラッド・コックス厩舎のワン・ツー・フィニッシュとなりました。2馬身4分の1差で5対1のジペッサ Zipessa が3着。
シャウン・ブリッジモハーンが騎乗したキャッシュ・コントロールは、2月にフェア・グラウンズの一般ステークス(デージー・ディヴァイン・ステークス)に勝っており、今年ステークスは2勝目でG戦初勝利。ケンタッキー・ダービー当日に行われたチャーチル・ディスタッフ・ターフ・マイル(芝GⅡ)では3着でした。

 

 

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