クァルテット・エクセルシオのベートーヴェン・サイクルⅢ

サントリーホールのブルーローズで行われているクァルテット・エクセルシオのベートーヴェン・サイクル、中二日で行われた昨日の3回目で愈々佳境に入ってきました。
ⅠとⅡがワンセットではないか、と書きましたが、ⅢからⅤは言わば後半。この3回でラズモフスキーの3曲が完奏されるのも根拠の一つです。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第4番ハ短調作品18-4
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第7番ヘ長調作品59-1「ラズモフスキー第1番」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第16番ヘ長調作品135

第3夜の調性については、全曲がフラット系。そもそもベートーヴェンの弦楽四重奏曲全16曲(大フーガを含めれば17曲)を主調で分類すると、シャープ系が5曲なのに対し、フラット系は9曲。残り2曲がハ長調(イ短調)です。
交響曲も同じ要領で分類すると、シャープ系が2曲でフラット系は6曲。第1番だけがハ長調となります。ベートーヴェン作品はどちらかと言えばフラット系に偏りがちで、その傾向は後期に近づくほど顕著になるような気がしますがどうでしょうか。

今回のハ短調とヘ長調の組み合わせと言えば、交響曲の第5番と第6番の関係。これは考え過ぎかもしれませんが、サイクルの真ん中に置かれたハ短調とヘ長調の組み合わせにも意味がある、と・・・。
演奏時間の関係も考慮し、ラズモフスキー3曲の中では最も長い第7番「ラズモフスキー第1」と、後期作品では最も短い第16番、しかも同じヘ長調。プログラムを何度見返しても、真に良く考え込まれた選曲であることに感服しました。

(恐らく)強いプレッシャーの中でスタートした今ツィクルス、徐々に調子を上げて臨んだ第3夜は、最初からエンジン全開。作品18では最も人気の高い第4番も速目のテンポ、形式感を常に意識し、パート間のバランスも完璧に駆け抜けました。
第4楽章のフィナーレは一般的にはロンド形式と解説されますが、エクの演奏で聴いていると、テーマが登場するたびに変奏して行く様子が明確に聴き取れ、改めて譜面を見直したい衝動を覚えます。

ラズモフスキーの3曲、エクは一体何回この作品群を演奏して来たでしょうか。ここまで積み上げてきたノウハウがギッシリ詰まり、何でも無いフレーズの継ぎ目や形式上の転換部に見せる微妙なニュアンスの変化が聴かれます。
こうした変化がワザとらしく無く、自然体で聴かれるのは20年の重み。恐らく演奏している本人たちも気が付かないのでは、と思えるほど。

しかしこの日私が最も感動したのは、最後の16番でした。ベートーヴェンが到達した最後の境地を、これほど深く、且つ軽く、慈しむような気持ちで聴ける機会はそうあるものではありますまい。
肩の力抜け、それでいて大切な肝での力感は外さない。特に第3楽章のレント・カンタービレは、ホールを埋めた760の耳を釘付けにしました。

演奏会が終わり、今は一年でも最も日が長い季節。サントリーホール前のベンチ席を陣取っていた異様なグループは、エクセルシオを長年に亘って支えてきた善男善女たち。
今年のチェンバー・ミュージック・ガーデンが終わればドイツ楽旅に出るエクを影で、あるいは直接に応援しようという相談でもしていたのでしょう。今年のベートーヴェンも、残すはあと2回のみ。

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