2016ロイヤル・アスコット2日目
初日はスコールの様な雨がザッと降っていたアスコット競馬場でしたが、昨日は良く晴れた模様。それでも馬場は soft と相変わらずでした。苦手にする馬でも勝っていましたから、馬にとっては走り易いのかも。
6月15日も初日と同じパターンで、第1レースから第4レースまでがG戦。残り2鞍も簡単に触れるスタイルでレポートを続けて行きましょう。
2日目の第1レースはジャージー・ステークス Jersey S (GⅢ、3歳、7ハロン)。2頭が取り消しましたが、それでも19頭の多頭数競馬。4月にニューマーケットでデビュー勝ち、5月にはヨークのハンデ戦を2連勝してきた新星キャッスル・ハーバー Castle Harbour が5対1の1番人気。絶好調のデットーリが騎乗しているのも人気の要因でしょう。
多頭数競馬の常、馬群は二手に分かれ、スタンドから遠い側(枠順が小さい方)をジョイント2番人気(7対1)のギフテッド・マスター Gifted Master が、馬場の中央スタンド側をジョイント17番人気(66対1)のカルダー・プリンス Calder Prince が引っ張ります。しかしスタンドから遠い馬たちが優位で、このグループを先行していたジョイント2番人気のリブチェスター Ribchester が残り1ハロンで先頭に立つと、スタンド側で先行したジョイント4番人気(8対1)のシクリヤート Thikriyaat に2馬身4分の1差を付けて完勝。やはり遠い側を選んだジョイント7番人気(12対1)のフォージ Forge が3着に入り、人気のキャッスル・ハーバーは6着に終わりました。2・3着は共にサー・マイケル・スタウト師の管理馬です。
勝ったリブチェスターはゴドルフィンの勝負服、リチャード・ファヘイ厩舎でウイリアム・ビュイック騎乗。2000ギニーの3着馬で、2歳時にミル・リーフ・ステークス(GⅡ)を勝ったことで5ポンドのペナルティーを背負っていたにも拘わらず、ここは伊達にクラシックの3着馬ではない、ということを証明した形です。前日のセント・ジェームス・パレスに挑むという選択肢もありましたが、ここはより楽なオプションを採ったとのこと。7月27日に行われるサセックス・ステークス(GⅠ)で、再度ガリレオ・ゴールド Galileo Gold に挑みます。
続いては2歳牝馬によるシーズン最初のG戦、クイーン・メアリー・ステークス Queen Mary S (GⅡ、2歳牝、5ハロン)。ここも17頭と頭数が揃い、去年のこのレースをアカプルコ Acapulco で制したウェスリー・ワード師がアメリカから遠征して来たレディー・オーレリア Lady Aurelia が2対1の1番人気。本命に加えて7頭が無敗記録の更新に挑みます。
しかしレースは呆気なくも、信じ難いもの。14番枠から出たレディー・オーレリアは、2ハロン行った地点で他馬が懸命に追いだすのを尻目に、鞍上がガッチリ手綱を抑えたままリードをグングンと広げ、終わって見れば2番手で追っていた2番人気(9対2)のアル・ジョーラー Al Johrah に何と7馬身の大差を付けてブッ千切っていました。騎乗したフランキー・デットーリはゴール板の遥か前から人差し指を立て、「これが1番」とのサイン。逃げ切ったというよりは能力が桁違いだったという印象でしょう。2馬身半差でジョイント7番人気(16対1)のクレム・ファンダンゴ Clem Fandango が3着。
レディー・オーレリアはキーンランドの4.5ハロン戦でデビュー勝ちしたばかりで、2戦2勝。ウェスリー・ワード師は去年に続きクイーン・メアリーを連覇、2009年のジェラス・アゲイン Jealous Again を加えて3度目のクイーン・メアリー優勝となりました。アメリカの快速馬をロイヤル・アスコットへ、これがトレンドになりつつあります。去年のアカプルコと同じスキャット・ダディー Scat Daddy の娘で、父にとっても2連覇。
デットーリは“ロイヤル・アスコットの5ハロンで7馬身差は信じられない。しかも2歳馬だ!”と乗っている本人が唖然とするほど。負けた陣営からも絶賛の嵐が巻き起こっています。未だ暫くはヨーロッパでG戦を走る予定ですが、その先は未定。突如出現したスーパー牝馬に陣営(オーナーはアル・シャカブ)、競馬関係者、観衆の全てがショックを受けたようでした。
第3レースはデューク・オブ・ケンブリッジ・ステークス Duke of Cambridge S (GⅡ、4歳上牝、1マイル直線)。14頭が出走し、前走ニューマーケットでダーリア・ステークス(GⅡ)を快勝したフランスからの遠征馬アシェレット Usherette が9対4の1番人気。
ジョイント9番人気(20対1)のスパングルド Spangled が逃げましたが、中団を進んだアシェレットが直線では外に出し、残り2ハロンで前に並び掛けると、ゴール1ハロン手前で先頭。後方から追い込むチリからの輸入馬でジョイント9番人気(20対1)のフリア・クルザーダ Furia Cruzada に2馬身4分の1差を付け、見事人気に応えました。短頭差でこれも後方から伸びた2番人気(9対2)のオールウェイズ・スマイル Always Smile が3着。1着と3着は共にゴドルフィンがオーナー。
アンドレ・ファーブル厩舎、ミケール・バルザロナ騎乗のアシェレットは、ダーリア・ステークス勝ちで3ポンドのペナルティーを背負っていましたが、問題にならず。ダーリアの際にも詳しく紹介しましたが、今期はこれで4連勝し、G戦も2連勝。目標はBCマイルで、陣営は初日にクィーン・アンを制したテーピン Tepin との対決を楽しみにしているとのことでした。
ファーブル師はロイヤル・アスコット8勝目、バルザロナ騎手は念願のロイヤル・アスコット初勝利となります。本来アシェレットは重馬場を苦手としているそうですが、それでもこのパフォーマンス。良馬場での快走が見たいのはオーナーのゴドルフィンも同じで、3着に入ったオールウェイズ・スマイルも固い馬場を得意とする馬。共に夏場の1マイル戦に期待が掛かります。
2日目のメインで、この日唯一のGⅠ戦が第4レースのプリンス・オブ・ウェールズ・ステークス Prince of Wales’s S (GⅠ、4歳上、1マイル2ハロン)。馬場が重くなることがハッキリした時点で有力馬が次々と回避、メンバー的にはやや手薄になった感は否めません。それでも6頭が出走し、前走重馬場でイスパハン賞(GⅠ)を圧勝した日本のエイシンヒカリが8対13と2倍を切る断然の1番人気。日本から来た快速馬中心に相手探し、というレース前の予想でした。
前で競馬するのがスタイルのエイシンヒカリ、この日も先頭でレースを進めましたが、残り2ハロンで急に失速。替って4~5番手を進んでいた2番人気(4対1)のファウンド Found が残り1ハロンで先頭に立ちましたが、ここに襲い掛かったのが後方を進んでいた最低人気(16対1)のマイ・ドリーム・ボート My Dream Boat 。外に出してファウンドとの叩き合いに持ち込み、最後は首差で嬉しいGⅠ戦初勝利です。3馬身半差で2番手を追走していたジョイント4番人気(12対1)のウエスタン・ヒム Western Hymn が3着に入り、エイシンヒカリは更に1馬身ほど離されてまさかの最下位敗退に終わりました。
勝ったマイ・ドリーム・ボートは、初日にキングズ・スタンド・ステークスを制したプロフィタブル Profitable と同じクライヴ・コックス厩舎、アダム・カービー騎乗の4歳馬。2日連続でのGⅠ勝利、特にカービー騎手は昨日のレポートで紹介したようにパパになったばかりで、正に夢のボートに乗った気分でしょう。
マイ・ドリーム・ボートは今期初戦のゴードン・リチャーズ・ステークス(GⅢ)に勝ち、前走はフランスに遠征してイスパハン賞がエイシンヒカリに14馬身半差を付けられての5着。今回はその大差を大逆転しての勝利でした。
破れたエイシンヒカリ陣営は失望と落胆に襲われ、ガックリ。楽勝が予想されていた分、その落差が激しかったでしょう。敗因は馬場にもありましょうが、これまで経験したことの無い急なカーヴと直線の急坂にありそう。平坦な香港やシャンティーとはワケが違うアスコットの形状に、馬自身がビックリしてしまったようです。
私もスウィンリー・ボトム(コースが直線に入る最も低い部分)からゴール板を見上げたことがありますが、スタンドが辛うじて見える程度の丘の上、いや山の上と言ってもいいかも知れません。東京や中京に上り坂があると言っても、あれは子供騙しみたいなもの。英国競馬は歴史的にクロスカントリーが原点ですから、どんな坂、どんな形状にも泰然として臨める精神力とパワーが必要なのです。今回の結果は、改めてその事に気付かせてくれました。
最後に残り2レース。
第5レースのロイヤル・ハント・カップは1マイルのハンデ戦で28頭立て。13対2の1番人気に支持されたスタウト厩舎、ムーア騎乗のコンヴェイ Convey が22着と大敗し、4番人気(10対1)のポーテイジ Portage が優勝、鞍上はジェームス・ドイルでした。
第6レースもサンドリンガム・ハンデという1マイルの牝馬限定リステッド戦。21頭が出走し、ゴスデン厩舎、デットーリ騎乗の1番人気(11対4)パスエイシヴ Persuasive が人気に応えました。デットーリ騎手の好調振りが目立ち、今年のロイヤル開催は早くも3勝でリーデング・ジョッキー争いのトップに立っています。
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