2016クラシック馬のプロフィール(9)

今年のクラシック、仏オークスはラ・クレソニエール La Cressonniere 、愛ダービーもハーザンド Harzand と夫々二冠を達成してくれましたから、先週末行われた愛オークスが久し振りの血統プロフィールとなります。
2016年のアイルランド・オークスを制したセヴンス・ヘヴン Seventh Heaven は、父ガリレオ Galileo 、母ラ・トラヴィアータ La Traviata 、母の父ヨハネスブルク Johannesburg という血統。

今年目出度く英愛仏三カ国の五冠種牡馬を達成したガリレオに付いては解説不要でしょう。彼の愛オークス馬は2頭目。マイルからステイヤーまで広範囲にクラシック馬を輩出してきたガリレオですが、やはり1マイル半を中心とする距離で最も本領を発揮するタイプ。特にセヴンス・ヘヴンの場合にはガリレオの遺伝子がオークスを勝たせたと言っても過言ではなかろうと思慮します。
その辺りを、牝系を辿りながら考察して行きましょう。

先ず母ラ・トラヴィアータ(2004年 黒鹿毛)はアメリカ産馬で、セヴンス・ヘヴン同様クールモアがオーナーだった馬。アメリカで走り、パトリック・ビアンコーン師が調教しました。デビューは3歳になってから。クラシックも終わろうという6月初旬にチャーチルダウンズの5.5ハロン戦に初出走し1番人気、何と2着以下に13馬身4分の1差を付けてデビュー勝ちを果たします。
続いて7月のモンマス競馬場でポスト・デブ・ステークス(5.5ハロン)という牝馬限定の一般ステークスに出走し、ここでも断然1番人気に応え、又しても2着以下に5馬身差の圧勝。その勢いを維持したまま8月にはサラトガに遠征し、G戦初挑戦となるヴィクトリー・ライド・ステークス(GⅢ、6ハロン)に臨んで3戦連続の1番人気。ここでも2着以下に9馬身4分の1差を付ける圧倒的な強さを発揮して無傷の3連勝を飾ります。この3戦は全てジュリアン・ルパルーが騎乗していました。

この年(2007年)のブリーダーズ・カップはモンマス競馬場で行われ、ラ・トラヴィアータが選んだのはBCフィリー・アンド・メア・スプリント(6ハロン)。この年に新たにシリーズに加わったジャンルで、現在でこそGⅠ戦ですが、この時は未だG戦には格付けされておらず、リステッド戦の扱いでした。
ここでもルパルー騎乗、1番人気を集めたラ・トラヴィアータでしたが、結果はメリーフィールド Maryfield の10頭立て6着に敗退。初めて経験した sloppy という泥んこ馬場が敗因だったかもしれません。いずれにしてもこれを最後に現役を引退したラ・トラヴィアータ、繁殖牝馬としては現在までの所、以下のような成績になっています。

2009年 クルセード Crusade 黒鹿毛 牡 父ミスター・グリーリー Mr Greeley 2歳から3歳まで6戦2勝。エイダン・オブライエン厩舎でミドル・パーク・ステークス(GⅠ)優勝。BCジュヴェナイル(GⅠ)6着で勝鞍は何れも6ハロン。
2010年 クリストフォロ・コロンボ Cristoforo Colombo 鹿毛 牡 父ヘンリーザナヴィゲイター Henrythenavigator オブライエン厩舎で11戦2勝2着1回3着1回 コヴェントリー・ステークス3着、レイルウェイ・ステークス2着、ミドル・パーク・ステークス4着、2000ギニー5着、BCマイル7着。勝鞍はネイヴァンとダンダルクの何れも6ハロン。
2011年 ミス・チャ・チャ Ms Cha Cha 鹿毛 牝 父ヘンリーザナヴィゲイター 未出走。
2012年 サー・ヘンリー・レイバーン Sir Henry Raeburn 鹿毛 せん 父ヘンリーザナヴィゲイター ポール・コール厩舎で7戦1勝2着1回3着1回 6ハロンから8.5ハロンの主にハンデ戦に走り、勝鞍は3歳時にケンプトンで挙げた7ハロン戦。
2013年 セヴンス・ヘヴン(当該馬)
2014年 キス・ミー・ノット Kiss Me Not 鹿毛 牝 父ガリレオ 現時点では未出走。

セヴンス・ヘヴンは母の5番仔で、4頭目の勝馬。セヴンス・ヘヴンが出るまでは初仔のクルセードが代表産駒でしたが、父がBCスプリント2着のミスター・グリーリーということもあり、典型的なスプリンターでした。
その後は英愛2000ギニー二冠馬のヘンリーザナヴィゲイターの産駒が続きましたが、何れも短距離馬。セヴンス・ヘヴンが愛オークスを勝ったのは、父ガリレオの影響が濃く出たと評価せざるを得ません。

2代母ピエドラス・ニエグラス Piedras Niegras (1999年 鹿毛 父アンブライドルド Unbridled)もアメリカ産で未出走。その産駒では27戦6勝したホーリー・ドリーマー Holy Dreamer (2005年 芦毛 せん 父ホーリー・ブル Holy Bull)が稼ぎ頭ですが、ステークスの勝鞍はありません。

3代母はプロヴィジョンズ Provisions (1993年 鹿毛 父デヴィルズ・バグ Devils Bug)。25戦4勝の成績があり、芝の一般ステークスでの勝鞍があります。
その産駒では5頭が勝馬になりましたが、ドバイのGⅢ戦勝馬でUAE2000ギニーの2着馬ジャック・サリヴァン Jack Sullivan (せん馬)が代表産駒。9ハロンまでに勝鞍がありますが、ダートコースかポリトラックコースが活躍の舞台でした。

4代母アジンバ Atzimba (1986年 鹿毛 父ミスワキ Miswaki)は37戦して7勝もした馬でしたが、ステークスの勝鞍はありません。しかも産駒で記録があるのはプロヴィジョンズだけ。
更に5代母ノヴァラ Novara (1980年 鹿毛 父ダンス・スペル Dance Spell)は未出走。その産駒にも取り立てて紹介する馬は出ていません。

この牝系で他にGⅠ級の勝馬が見出されるのは、6代母シジジー Syzygy (1965年 栗毛 父ファースト・ランディング First Landing)にまで遡らなければなりません。
シジジーの仔サウスジェット Southjet がロスマンス・インターナショナル(GⅠ)とセクレタリアート・ステークス(GⅠ)に勝ち、1987年のジャパン・カップでル・グロリュー Le Glorieux の2着に来たことを覚えている方はおられるでしょうか。未だ日本馬と海外競馬の間に相当なレヴェル差があった時代のことです。

ここまで振り返ってきたのですから更に時代を遡ると、7代母レディー・オブ・アクション Lady of Action 、8代母ミール Miel を経て、セヴンス・ヘヴンの9代母に当たるテドメリア Tedmelia に行き着きます。
テドメリアの産駒にはトラヴァース・ステークスに勝った牡馬のライツ・アップ Lights Up がいましたが、今日までその血を伝えている基礎牝馬3頭が重要です。

その1頭がセヴンス・ヘヴンにまで繋がる①ミールで、その仔にはテスト・ステークスに勝ったハネーズ・ギャル Honeys Gal の他、英愛2000ギニー馬ロドリゴ・デ・トリアーノ Rodrigo de Triano の祖となるオムレツ・スフレ Omelet Souffle 、愛2000ギニー馬シャーディ Shaadi に繋がるレモン・スフレ Lemon Soufflet が出ました。
また②モードゥマ Mohduma はアルシバイアディーズ・ステークス勝馬のアパラチー・ハネー Apalachee Honey とサルード Salud 、モンマス・インヴィテーショナルのアワ・ネイティヴ Our Native 等の祖となり、
更に③トゥータレール Tout a L’Heure からはデル・マー・オークスのハートライト・ナンバー・ワン Heartlight No. One 、スーパー・ダービー勝馬でドバイ・ワールド・カップ2着のソウル・オブ・ザ・マター Soul Of The Matter 、ハリウッド・フューチュリティーとマリブー・ステークスのアフタヌーン・ディーライツ Afternoon Deelites と、何れも現在のアメリカで間歇的ながらGⅠ級の馬たちを輩出するファミリーに繋がって行きます。

以上、愛オークス馬セヴンス・ヘヴンの牝系は短距離を中心に、主にアメリカで繁栄してきたファミリー。2400メートルのクラシックに勝った同馬はやや異端的な存在ですが、父ガリレオの影響力が強く出たということを証明することにもなるでしょう。

ファミリー・ナンバーは20-a。1808年生まれのヴァラエティー Variety を基礎とする牝系です。

 

 

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