ビホールダー、遂に敗れる!
7月30日のアメリカ競馬はズバリ、サラトガとデル・マーの競演でした。
先ずサラトガ競馬場からは4鞍のG戦。レース順に行くと、第4レースとして行われたアムステルダム・ステークス Amsterdam S (GⅡ、3歳、6ハロン)は fast の馬場に1頭が取り消して7頭立て。ステークスは初挑戦ながら2連勝中のマナイアカル Maniacal が2対1の1番人気。
そのマナイアカルがスピードを活かして逃げましたが、前半は最後方で我慢していた2番人気(3対1)のマインド・ユア・ビスケッツ Mind Your Biscuits が直線では内ラチ沿いに追い込み、マナイアカルを1馬身4分の3差捉えて優勝。2馬身4分の1差の3着には、2番手を追走していた3番人気(4対1)のイッツ・オール・リリヴァント Its All Relevant が入りました。
ロバート・ファルコーン厩舎、ジョエル・ロザリオ騎乗のマインド・ユア・ビスケッツは、これがG戦デビュー。7月4日ベルモントのアローワンス戦に続く2連勝でG戦初制覇を果たしました。これまで一般ステークスでは入着経験があり、通算成績は9戦3勝2着3回3着2回となります。開業3年目、15頭を管理しているという22歳の若手調教師ファルコーンにとっては、これがG戦初勝利となりました。
続いて第7レースに組まれていたボウリング・グリーン・ハンデキャップ Bowling Green H (芝GⅡ、4歳上、11ハロン)。firm の芝コースに1頭が取り消して僅かに4頭立て。ヨーロッパでも香港でもアメリカでもGⅠ戦に勝っているフリントシャー Flintshire が1対9の断然1番人気。単勝1.1倍では負けられません。
2番人気(7対1)のグランド・ティート Grand Tito がスローペースで逃げ、フリントシャーはガッチリ抑えて3番手待機。ところが第3コーナーを過ぎる辺りで最後方に控えていた4番人気(10対1)のGⅠ馬トゥワイライト・エクリプス Twilight Eclipse がスパートし、フリントシャーは第4コーナーで最後方に下がってしまいます。スタンドから悲鳴が上がりましたが、鞍上は慌てる事無く馬を大外に持ち出して追い始めると勝負は一瞬。あっという間に前を纏めて捉え、最後は手綱を抑える余裕でグランド・ティートに4分の3馬身差を付けていました。1馬身差でトゥワイライト・エクリプスが3着。
チャド・ブラウン厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のフリントシャーは、6月のベルモントでマンハッタン・ステークス(芝GⅠ)に勝ったのに続き2戦2勝。サラトガでは去年ソード・ダンサー・ステークス(芝GⅠ)を制しており、こちらも2戦2勝。流石にヨーロッパでパリ大賞典に勝ち、凱旋門賞で2度2着している6歳馬、瞬発力は第一級のものがありますね。
そして第9レースのアルフレッド・G・ヴァンダービルト・ハンデキャップ Alfred G. Vanderbilt H (GⅠ、3歳上、6ハロン)はGⅠ戦、8頭が出走してきました。去年のアムステルダム・ステークス以来勝鞍がありませんが、前走ベルモントのトゥルー・ノース・ステークス(GⅡ、6ハロン)で3着したホーリー・ボス Holy Boss が3対1の1番人気。しかし人気面では、2番人気の9対2に3頭が並ぶ接戦でした。
2番人気の1頭デルタ・ブルースマン Delta Bluesman が逃げ、ホーリー・ボスは3番手追走。ホーリー・ボスがスパートして一旦は先頭に立ちましたが、2番手を進んでいた2番人気の一角エー・ピー・インディアン A. P. Indian が逃げ馬と本命馬の間を割るようにして抜け出し、ホーリー・ボスに1馬身4分の1差を付けて優勝。更に1馬身半差で5番手から追い込んだ7番人気(7対1)のカタリナ・レッド Catalina Red が3着に入りました。
これが自身にとってもGⅠ戦初勝利となるアルノー・デラクール厩舎、ジョー・ブラーヴォ騎乗のエー・ピー・インディアンは、これが44戦目となる6歳せん馬で、GⅠ戦は初勝利。今期は極めて好調で、シーズン・デビューのモンマスの一般ステークス(デカスロン・ステークス)は2着入線でしたが進路妨害によって1着に繰り上がり、続くパークス・レーシングの一般ステークス(ドナルド・レヴァイン・メモリアル)にも連勝。前走ベルモント・スプリント・チャンピオンシップ(GⅢ)を頭差で制し、これで4戦無敗と6歳にして快進撃を続けています。
サラトガの最後は第10レースのジム・ダンディー・ステークス Jim Dandy S (GⅡ、3歳、9ハロン)。6頭立てと小頭数でしたが、ベルモント・ステークスの1・2・4着馬が揃う豪華版。それらを抑えて7対5の1番人気に支持されたのは、フロリダ・ダービーで後のケンタッキー・ダービー馬ナイクィスト Nyquist に敗れるまでは無敗で来たモヘイメン Mohaymen でした。
そのモヘイメン、ダービー4着以来の久々だった所為かスタートで躓き、鼻面をコースに触れるほどであわや落馬。それでも立て直し、逃げる最低人気(27対1)ラオバン Laoban の3番手で追走します。一方ベルモント・ステークス勝馬で3番人気(4対1)のクリエイター Creator は最後方から追走しますが、動きは今一。逃げたラオバンが懸命に粘り、あれよあれよ、後方2番手から漸く追い上げた4番人気(4対1)のガヴァナー・マリブー Govenor Malibu に1馬身4分の1差を付けて逃げ切るという大波乱になってしまいました。首差で2番人気(2対1)、ベルモント2着のデスティン Destin が3着に入り、モヘイメンは4着、クリエイターに至っては6着最下位と言う番狂わせです。
エリック・ギヨー厩舎、ホセ・オルティス騎乗のラオバンは、何とこれが8戦目にしての初勝利。これまでシェイム・ステークス(GⅢ)3着、ガッサム・ステークス(GⅢ)2着と言う入着実績はありましたが、その後はブルー・グラス(GⅠ)4着、プリークネス6着、前走ドワイヤー・ステークス(GⅢ)5着と未勝利のままだった馬。有力3歳馬の多くが明日のハスケル・インヴィテーショナルに向かう中、ここを選択したのが正解だったのかもしれません。
そしてカリフォルニアからは、デル・マー競馬場のクレメント・L・ヒルシュ・ステークス Clement L. Hirsh S (GⅠ、3歳上牝、8.5ハロン)一鞍。勝馬にはBCディスタッフへの優先出走権が与えられます。fast の馬場に5頭立てですが、8連勝中のチャンピオン、ビホールダー Beholder が1対9の圧倒的1番人気。サラトガのボウリング・グリーンでフリントシャーが付けたオッズと同じですね。
スタートから楽に先頭に立ったビホールダー、2番手を追走した2番人気(9対2)のステラー・ウインド Stellar Wind が第4コーナーで外から挑み、2頭の一騎打ち。いつもならビホールダーが二の脚を使ってライヴァルを突き放す場面ですが、この日はステラー・ウインドが渋太く粘って譲らず、遂に2ポンドの斤量差があったとは言え無敵のチャンピオンに半馬身差を付ける逆転劇となりました。スタンドからは悲鳴と溜息。3着の3番人気(24対1)ディヴィーナ・コメーディア Divina Comedia とは9馬身4分の3差が付いていたのですから、ビホールダーが凡走したわけではなく、ここは勝馬を讃えるべきでしょう。4着馬は更に11馬身以上の差が付いています。
ジョン・サドラー厩舎、ヴィクター・エスピノサ騎乗のステラー・ウインドは、去年のサンタ・アニタ・オークス以来2つ目のGⅠ制覇。勝鞍も去年8月デル・マーのトーリー・パインズ・ステークス(GⅢ)以来となりました。その間、BCディスタッフでストップチャージングマリア Stopchargingmaria の2着、今年6月のヴァニティー・ステークス(GⅠ)ではビホールダーの2着しており、2歳年上のビホールダーには二度目の挑戦で初勝利。今年のBCはどうなるか、今から期待が膨らみます。
一方、敗れたビホールダー陣営が失望している訳ではありません。確かに連勝は8で止まり、クレメント・L・ヒルシュ・ステークス2連覇も成らずという結果でしたが、これで名誉に傷がついたわけでもありません。寧ろ良きライヴァルの出現で、闘争心には更に火が点いたのでないでしょうか。
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