ヴィドマンを聴こう
8月最初のプロムスは、2日間に亘ってBBCフィルハーモニックが登場します。1日は首席客演指揮者のストルガード、2日が首席指揮者のメナという分担。
その1回目、フィンランドの指揮者でヴァイオリニストのストルガードが振ったのは北欧を中心にした次の演目。
8月1日 ≪Prom 23≫
イョルク・ヴィドマン Jörg Widmann/アルモニカ Armonica (英国初演)
シューマン/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
シベリウス/「テンペスト」前奏曲
ニールセン/交響曲第5番
BBCフィルハーモニック管弦楽団 BBC Philharmonic
指揮/ジョン・ストルガード John Storgårds
グラス・ハーモニカ/クリスタ・シェーンフェルディンガー Christa Schönfeldinger
アコーディオン/テオドロ・アンゼロッティ Teodoro Anzellotti
ヴァイオリン/トーマス・ツェートマイアー Thomas Zehetmair
先ず楽しみなのが、最初に演奏されたヴィドマンでしょう。ヴィドマンと言えばQエクセルシオやミンゲットQが演奏した「狩りの四重奏」ですっかりお馴染みになりましたが、先月オーケストラ・アンサンブル金沢を指揮するために来日して、その多彩な才能を披露したばかりです。
残念ながら私は金沢までは遠征できませんでしたが、ヴィドマンは二足の草鞋ならぬ、三足目も披露して帰ったと思います。彼は作曲家として有名ですが、クラリネットの名手でもあり、もちろん指揮もします。実は28歳からフライブルク音楽院で教鞭も取っており、一人4役を務めているんですね。
金沢では吹き振りと言うんでしょうか、クラリネット吹きとしてはウェーバーとロッシーニを演奏し、指揮者としてもメンデルスゾーンの1番を。更に自作では「セイレーンの島」と「1分間に180ビート」という作品も紹介した筈です。
今回が英国初演となるアルモニカはモーツァルト財団の委嘱に応じたもので、2007年のザルツブルク・モーツァルト・ウィークでブレーズ指揮ウィーン・フィルによって世界初演されました。
モーツァルトと言えば最晩年にグラス・ハーモニカのために作曲しており、ヴィドマンはモーツァルトとの繋がりとしてこの楽器を選んだのです。グラス・ハーモニカという楽器はアメリカの政治家で、雷と凧の話でも有名なベンジャミン・フランクリンが1761年に発明した楽器というから驚きですが、モーツァルトは当時、この楽器の名手で盲目の女性奏者マリアンヌ・キルヒゲスナー(1770-1808、ベートーヴェンと同い年!)の演奏に触発されて作曲したとのこと。
ヴィドマンも同じように、今回もソロを担当した女性奏者クリスタ・シェーンフェルディンガーの演奏を実際に聴いてアイデアが浮かんだというのですね。
オーケストラはモーツァルトと同時代のサイズで書かれており、これもモーツァルトへのオマージュ。ソロ楽器としてはグラス・ハーモニカの他にアコーディオンも登場しますが、この楽器はドイツ語ではツィー・ハルモーニカ Zieh-Harmonika と呼ばれ、音色だけではなく「アルモニカ」繋がりと言うことで選ばれた由。詳しい楽器編成はショット社の作品紹介をご覧ください。
https://de.schott-music.com/shop/armonica-1.html
以上書いたことは、ナクソスのNMLで聴けるパーヴォ・ヤルヴィ指揮フランクフルト放送交響楽団によるパン・クラシックス盤のブックレットに書かれていることで、この音源とBBCラジオを聴き比べるのも実に興味あることです。
なおヴィドマン作品、今年のプロムスではこのあと8月17日にもバレンボイムの指揮で「コン・ブリオ」が演奏されます。こちらもお楽しみに。
ヴィドマンは以上。続いては極めて地味なシューマンのヴァイオリン協奏曲ですが、実は今回の指揮者ストルガードはヴァイオリニストとしてもこの1996年に作品を録音しており、ゼーゲルスタムと共演したオンディーヌ盤がNMLで聴けます。尤もこの配信音源では「ストゥールゴールズ」と表記されていますが。
前半が面白かったので大分時間を取りましたが、後半はシェークスピア400年の一環としてシベリウスの「テンペスト」前奏曲からスタートします。このあと組曲が二つ書かれていますが、今回は嵐を描いたと思われるモヤモヤとした前奏曲のみ。
ここまでは比較的渋い作品が続きましたが、最後はストルガードお得意のニールセン第5。堂々たる大旋律が高らかに奏されて、会場はやっと爆発的な歓呼に包まれました。
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