ゴッホとピカソ
出掛けている間のプロムスも何とか追い付いて、今日は10日に行われたデュティユー・シリーズの最終回を聴きました。サカリ・オラモとBBC響が締め括ります。
8月10日 ≪Prom 34≫
デュティユー/時間、空間、動き
HK・グルーバー/バスキン Busking(ロンドン初演)
~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第5番
BBC交響楽団 BBC Symphony Orchestra
指揮/サカリ・オラモ Sakari Oramo
トランペット/ホーカン・ハーデンベルガー Håkan Hardenberger
バンジョー/マッツ・ベルグストレーム Mats Bergström
アコーディオン/クラウディア・ブーダー Claudia Buder
この日はデュティユーからスタート、その代表作とも言える「時間、空間、動き」が演奏されましたが、これには若干注釈が必要かも。
前日演奏されたチェロ協奏曲はロストロポーヴィチのために書かれた作品ですが、この曲も当時ワシントンのナショナル交響楽団の指揮者だったロストロポーヴィチのために書かれたもの。デュティユーを若い頃から支援してきたシャルル・ミュンシュの想い出にも捧げられています。
ところでデュティユーは自作を何度も改訂する癖があり、「時間、空間、動き」も1977年に作曲・初演された後、1991年に改訂版が出されました。私は初稿が出版されて直ぐにスコアを入手したので、手元にあるのは初版。
しかし今回のプロムスも含め、現在演奏されるのは専ら改訂版。先にカンブルランが読響定期で素晴らしい演奏を聴かせてくれましたが、それももちろん改訂稿での演奏でした。
全曲は2楽章で構成されていますが、加筆されているのは主に第2楽章で、初稿より長くなっています。しかしCD初期の録音は初稿でしたから、この版も利用価値はあるのです。例えばセルジュ・ボドがリヨン管と録音したハルモニア・ムンディ盤は今も時々聴きますが、これは初稿による録音。
スコアにはオーケストラの配置が示されていて、ご存知の様に弦楽器はチェロとコントラバスだけという変わった編成なのも特徴。いずれは改訂版も買わなきゃと思いますが、デュティユーは色々出費が重なる作曲家ではあります。
タイトルは「Timbres, Espace, Mouvement」ですが、副題として「La Nuit Etoilee」となっているのもご存知でしょう。これはデュティユーがゴッホの同名タイトルの絵画に触発されて作曲したからで、ゴッホの絵は改めて紹介するまでもありませんが、これです↓
プロムスが流石にプロムスなのは、次に演奏されたグルーバーのバスキンという作品も絵画からの影響を受けて書かれた作品であるということでしょう。
HK・グルーバーについては去年のプロムスで現代のヨハン・シュトラウスと紹介しました。詳しいことはそちらを見て頂くとして、今回ロンドン初演となった作品は名手ハーデンベルガーのために書かれたトランペット、アコーディオン、バンジョーと弦楽オーケストラのための協奏曲で、トランペットはフリューゲルホーンを含めて3種類が使われます。
ポピュラー音楽との懸け橋を自負するグルーバーだけあって、ジャズの要素がふんだんに使われ、30分ほど掛かる作品。詳しくはブージー社の作品解説をご覧あれ。
http://www.boosey.com/cr/news/HK-Gruber-reviews-of-Busking-with-Hardenberger/11707&LangID=1
絵画の影響、と紹介しましたが、こちらはパブロ・ピカソの有名な「三人の音楽家」が元ネタで、トランペット、バンジョー、アコーディオンが正にテーマです。絵はこれ↓
ということで、絵画と関係がある音楽と言えばムソルグスキーの展覧会の絵、レスピーギのボッティチェルリの3枚の絵、マルティヌーのピエロ・デラ・フランチェスカのフレスコ壁画などが直ぐに頭に浮かびますが、この日の2曲もそのジャンルに入る作品と言えるでしょう。
一昨年は文学と音楽、昨日は絵画と音楽、どちらもデュティユー作品が選ばれるというセンスの良さを味わいましょう。
最後は名交響曲との組み合わせで、極め付きのベートーヴェン第5。繰り返しは全て実行し、テンポは速いがジャジャジャジャーンは物々しく表現するという演奏でした。
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