2016ドンカスター・セントレジャー開催4日目
9月10日の土曜日、英国クラシック・レースの最終戦セントレジャー・ステークス St Leger S (GⅠ、3歳牡牝、1マイル6ハロン132ヤード)が行われました。この日のG戦は3鞍でレジャーが最後に行われましたが、今日はこのショッキング、且つドラマティックな結末となったクラシックから紹介しましょう。
天気予報通り雨が降りましたが、馬場の公式発表は good 、所により good to firm 。それでもいわゆる良馬場ではなく、本命視されたアイダホ Idaho にはやや不安を残す状態だったとも言えそうです。
枠順発表で書いたように9頭立て。やはりここでは実績からアイダホ断然の人気で、4対6の1番人気に推されていたのは当然でしょう。
3頭出しで臨んだオブライエン厩舎のペースメーカーを務める4番人気(9対1)のソード・ファイター Sword Fighter が逃げましたが、アクシデントは3ハロン地点で起きます。何と大本命アイダホが落馬し、騎乗していたシーミー・へファーナンが投げ出されてしまいました。
当然ながら審議が行われましたが、パトロール・フィルムを検証しても他の馬の進路妨害があったとは認められず、結局は馬がステップを踏み外したための落馬と結論。へファーナンは歩いて病院に向かいましたし、アイダホも空馬のまま無事にゴールインしており、人馬ともに深刻なダメージが無かったことは何よりでした。しかしドンカスターの後アイルランドに飛び戻って愛チャンピオンでファウンド Found に騎乗することになっていたへファーナンは、軽い怪我の治療もあって叶わず。結局はアイルランドの騎乗はキャンセルせざるを得ませんでした。
とこでレース、先行していた5番人気(14対1)のヴェンチュラ・ストーム Ventura Storm が一旦は先頭に立ちましたが、後方待機でアクシデントとは無関係だった7番人気(22対1)のハーバー・ロウ Harbour Law がいつの間にか馬群を縫って迫っており、最後はヴェンチュラ・ストームに4分の3差を付けるサプライズ。短頭差で中団から追い上げた3番人気(7対1)のハウスオブパーラメント Houseofparliament が3着に食い込んでおり、2番人気(4対1)に支持されたムンタハー Muntahaa は3着から10馬身も離された4着に終わっています。
大本命の落馬、2番人気の大敗と予想すら出来なかった結果となりましたが、これも競馬。GⅢ戦で4着しただけの馬が勝ったクラシックですが、敗れた陣営も一様に勝者を称えています。
ハーバー・ロウは前走バーレーン・トロフィー(GⅢ)4着がG戦初体験。今期3歳でデビューした馬で、リングフィールドの初戦(12ハロン)2着のあと、5月1日に2戦目のソールズベリーで初勝利(12ハロン)。続くサンダウンで14ハロンのハンデ戦に連勝し、ロイヤル・アスットではリステッド戦のクイーンズ・ヴァース(16ハロン、以前はGⅢだった長距離戦)に挑戦し、今回は逃げて5着だったソード・ファイターの2着していました。そのあとがG戦初挑戦で、クラシック制覇へと繋がります。キャリアからしても典型的なステイヤーと言えるでしょう。
管理するのは、エプサムを本拠とするローラ・モンガン夫人。240年のセントレジャーの歴史上、女性調教師がレジャーを制したのは史上初の快挙となります。またエプサムで調教されている馬がクラシックを制覇するのは、1969年にライト・タック Right Tack が2000ギニーに勝って以来ということですから、サリー州は久し振りの壮挙に沸いたことでしょう。ローラ女史の夫イアン・モンガンは元ジョッキーで、2013年に引退。引退後はサー・ヘンリー・セシル師の元で調教を付ける機種をしていたそうですが、クラシックでは2000ギニーとダービーに騎乗経験はあったものの、セントレジャーとは縁が無かったそうな。騎乗していたのは、日頃からハーバー・ロウを良く知るジョージ・ベイカー、この馬の利点を全て引き出した完璧な騎乗でした。
いずれにしても、これ以上ドラマティックな結末は無いと呼べるようなセントレジャーでした。恐らく来年は長距離三冠などのカップ・レースを使われて行くでしょうし、久し振りにレジャー馬らしいレジャー馬と言えるかもしれません。
ハーバー・ロウの血統については近日中にプロフィールを紹介する予定ですが、先取りして一部紹介すると、父は仏ダービー馬のロウマン Lawman (馬名の一部は父から採っているのでしょう)。面白いのは母の名前で、「Abunai」はどう読んでも「危ない」。今年のセントレジャーを予言するような皮肉な馬名なんですねェ~。
さてドンカスター競馬場のレジャー開催最終日、残る2鞍を順に取り上げると、2歳馬のシャンペン・ステークス Champagne S (GⅡ、2歳牡せん、7ハロン)は6頭立て。前走ヨークでの初勝利が目を惹いたリヴェット Rivet が1番人気。
逃げたのは3番人気(5対1)のマジェステ Majeste でしたが、3番手を進んだリヴェットが残り1ハロンで外に出し、2番手追走から一旦先頭に立っていた2番人気(2対)のサンダー・スノー Thunder Snow を頭差捉えて人気に応えました。先行して流れ込んだ4番人気(8対1)のドゥバイ D’bai が5馬身差の3着。
ウイリアム・ハッガス厩舎、アンドレア・アトゼニ騎乗のリヴェットは、7月にアスコットでデビュー(2着)したときはライアン・ムーアが、前走8月にヨークで初勝利を挙げたときはフランキー・デットーリが騎乗していました。二人の名手からの評価も高く、更に飛躍が期待できそうな1頭です。狙いはデューハーストか。
最後に取り上げるのは、パーク・ステークス Park S (GⅡ、3歳上、7ハロン)。8頭の好メンバーが揃い、前走ハンガーフォード・ステークス(GⅡ)に勝ったリチャード・パンクハースト Richard Pankhurst が11対4の1番人気。
4番人気(9対2)にまで人気を落としたかつてのGⅠ馬トールモア Toormore が逃げましたが、これをマークしていた7番人気(14対1)のザ・ハッピー・プリンス The Happy Prince (オブライエン厩舎、この時点ではへファーナン騎乗)が一旦先頭に立ってそのまま押し切るかに見えたところ、後方で待機していた2番人気(7対2)のブレトン・ロック Breton Rock が末脚を爆発させ、ザ・ハッピー・プリンスを短頭差で差し切りました。やはり後方から追い込んだ3番人気(4対1)のアダーイ Adaay が半馬身差で3着に入り、リチャード・パンクハーストは先行したものの、5着に終わっています。
ブレトン・ロックを管理するデヴィッド・シムコック調教師は、前日のシェイクザイードロード Sheikhzayedroad が制したドンカスター・カップに続き二日連続でのG戦勝ち。また騎乗したアンドレア・アトゼニも、シャンペン・ステークスと併せてG戦ダブルで、去年のリマート Limato に続くパーク・ステークス2連覇達成ともなりました。
今年6歳のブレトン・ロックは、4歳の5月からずっとG戦に走り続け、去年のこのレースは3着。今期はこれが5戦目で、前々走でニューマーケットのクライテリオン・ステークス(GⅢ)に優勝し、前走ヘイドックのスーペリアー・マイル(GⅢ)では5着に終わっていました。これがG戦2勝目。
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