アイルランドで行われた史上最高のレース

先ほど漸くセントレジャー・レポートをアップしましたが、実は土曜日最も世界から注目されていたのが、レバーズタウン競馬場で行われたアイリッシュ・チャンピオン・ステークスでしょう。
いやいや日曜日には凱旋門賞のトライアルが目白押しで、ニエル賞には我らがマカヒキが凱旋するぞ、と思っている日本の競馬ファンの皆さん。先ずチェックすべきはアイルランドでしょ。
この日はG戦5鞍、更に日曜日にはカラーでもG戦5鞍が行われる1年でも最も華やかなアイルランド競馬ですが、早く結果を知りたい人は他をググッて頂くことにして、ここはじっくりレース順に回顧していくことにしました。

未だ白夜の余韻が残るアイルランド、土曜日のチャンピオ開催で最初のG戦がスタートを切るのが夕方4時で、その前にドンカスターでセントレジャーに騎乗したジョッキーたちもヘリコプターで移動、一日に二つの国でGⅠ戦に騎乗する、ということも可能なワケ。
ということで good 、所により good to yielding の馬場で行われた昨日のG戦5鞍、最初はレース名がコロコロ変わってややこしいチャンピオンズ・ジュヴェナイル・ステークス Champion s Juvenile S (GⅢ、2歳、1マイル)です。ゴールデン・フリース・ステークスだったり、BCジュヴェナイル・ターフ・トライアルだったりの一戦、今年はこんな名前で施行されています。
5頭が出走し、このレース4連覇しているエイダン・オブライエン厩舎が送り込んだ2戦1勝のダグラス・マッカーサー Douglas Macarthur が8対13の1番人気。既に来年のダービーの人気に祭り上げられている1頭で、セントレジャーはパスしてアイルランド1本に絞ってきたライアン・ムーアが騎乗。

そのダグラス・マッカーサー、ここはスピードで押し切れるとばかりにスタートから先手を取りましたが、中間地点で2番手に上がっていた4番人気(9対1)のランドフォール Landfall が並び掛けてくると、あれよあれよ抵抗なく後退。そのまま先頭に立ったランドフォールが、4番手から伸びた3番人気(7対1)のフィレー・スピーチ Firey Speech に2馬身4分の1差を付けるサプライズとなりました。ダグラス・マッカーサーはフィレー・スピーチにも頭差交わされて3着に終わり、オブライエン師の5連覇成らず。
ケン・コンドン厩舎、シェーン・フォリー騎乗のランドフォールは、8月21日にカラーの新馬戦でデビュー勝を飾ったばかりの馬。無傷のままいざクラシック、と行きたいところですが、実はクラシック出走の権利すらないせん馬で、出走できるレースは限られます。

続くエンタープライズ・ステークス Enterprise S (GⅢ、3歳上、1マイル4ハロン)は5頭立てながら中々の豪華版。何と3頭までがオブライエン軍団で、ライアン・ムーアは去年のセントレジャー馬(公式には、裁判で入線通り2着でしたが)ボンダイ・ビーチ Bondi Beach を差し置いて今年のダービー2着馬ユーエス・アーミー・レンジャー Us Army Ranger を選んで、こちらが8対11の1番人気。
チーム・オブライエンのペースメーカーで最低人気(33対1)のトゥリー・オブ・ナレッジ Tree of Knowledge が逃げ、ユーエス・アーミー・レンジャーは3番手。しかし2番手に付けていた2番人気(5対2)のズーコーヴァ Zhukova が抜け出し、懸命に追い縋るユーエス・アーミー・レンジャーを半馬身抑えて優勝。2馬身差で最後方から追い込んだ3番人気(7対1)のボンダイ・ビーチは3着でした。愛ダービー3着で4番人気(8対1)だったステラー・マス Stellar Mass が最下位に終わり、オブライエン厩舎は2着から4着まで。

勝ったズーコーヴァは、5月にブルー・ウインド・ステークス(GⅢ)を制して以来の休み明けで、G戦2連勝の4歳牝馬。デルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗の良血馬で、そのプロフィールは5月の日記をご覧あれ。

この日三つ目のG戦は、牝馬のマイルGⅠのマトロン・ステークス Matron S (GⅠ、3歳上牝、1マイル)。8頭が出走し、フランスから挑戦してきたGⅠ2勝馬ケマー Qemah が11対8の1番人気。仏1000ギニーこそ3着でしたが、その後コロネーション・ステークス、ロッシルド賞とGⅠ戦を連勝しての遠征。GⅠ3連勝を目指します。
メンバー中最も人気の無い(33対1)クレッグス・パイプス Creggs Pipes が逃げ、ケマーはいつものように後方2番手から末脚に賭けます。しかしこの日最も末脚が切れたのは、最後方で待機していた3番人気(5対1)のアリス・スプリングス Alice Springs で、大外を通って追い込むと、残り100ヤードで5番手から伸びたここまで無敗の2番人気(5対2)パースエイシヴ Persuasive に3馬身4分の1差を付ける圧勝劇。ケマーも最後良く伸びたものの、1馬身4分の1差遅れの3着に終わりました。

勝ったアリス・スプリングスは、皮肉にも前のG戦2鞍で何れも本命に推されながら敗れていたエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗の3歳馬。仏1000ギニー7着、コロネーション・ステークス3着と何れもケマーの後塵を拝していましたが、2走前のニューマーケットでフォルマス・ステークスを制してGⅠ馬の仲間入り。前走ドーヴィルのロッシルド賞では再びケマーの8着と遅れを取りましたが、フランスの競馬場は重馬場の上に更に散水するという馬場の重さ・深さが原因でした。4度目の正直でライヴァル・ケマーを破ってのGⅠ戦2勝目となります。
恐らく次はアスコットのクィーン・エリザベスⅡ世ステークス(GⅠ)が目標で、去年はジュヴェナイル・フィリーズ・ターフでアンラッキーながら2着だったBC(マイル)に遠征する可能性もあります。

続くブーメラン・ステークス Boomerang S (GⅡ、3歳上、1マイル)は1頭が取り消して7頭立て。またしてもオブライエン/ムーアのヒット・イット・ア・ボム Hit It A Bomb が15対8の1番人気で、3度目の正直を目指します。去年のBCジュヴェナイル・ターフに勝ちながらクラシックには間に合わず、前走デスモンド・ステークス(GⅢ)3着でシーズンを始動させた3歳馬です。
6番人気(20対1)のヴェテラン、ゴードン・ロード・バイロン Gordon Lord Byron が逃げ、ヒット・イット・ア・ボムは後方待機。2番手に付けた去年の勝馬で4番人気(15対2)のカスタム・カット Custom Cut が2ハロン地点から替わって先頭に立ち、そのまま連覇を目指しましたが、3番手に付けていた2番人気(2対1)のアウタード Awtaad が追い上げ、カスタム・カットを1馬身半差捉えて優勝。後方から伸びたヒット・イット・ア・ボムは半馬身差の3着で、またしても本命馬は勝てませんでした。

ケヴィン・ブレンダーガスト厩舎、クリス・ヘイズ騎乗のアウタードは、言うまでもなく今年の愛2000ギニーでガリレオ・ゴールド Galileo Gold を破ってクラシック馬になった存在。その後セント・ジェームス・パレス・ステークス3着、サセックス・ステークス8着と奮わず一時はクラシックがフロック視されていましたが、ランクを落として臨んだここで本来の走りを取り戻しました。
彼もまた、アスコットのクィーン・エリザベスⅡ世ステークスを目指します。今年もアスコットのGⅠ戦はレヴェルが高くなりそうな気配。

そのレヴェル、今年のアイリッシュ・チャンピオン・ステークス Irish Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)こそ高かったレースは無かったでしょう。最終的にはザ・グレイ・ギャッツビー The Grey Gatsby が取り消して12頭立てになりましたが、何と8頭がGⅠ勝馬で、G戦に勝っていないのは1頭だけ。取り消したザ・グレイ・ギャッツビーも一昨年の愛チャンピオン覇者で、仏ダービー馬でもありました。
その8頭のGⅠ馬、今年の英愛ダービー2冠のハーザンド Harzand が2対1の1番人気。英1000ギニーと英オークス2冠馬マインディング Minding は9対4で2番人気。7対1の3番人気にはGⅠ銀メダル・コレクターでBCターフ覇者の古豪ファウンド Found と、今年の仏ダービー馬アルマンザー Almanzor が並ぶという具合。その仏ダービー勝馬では、一昨年の勝馬こそ取り消したものの、去年の覇者で凱旋門賞3着のニュー・ベイ New Bay が9対1の5番人気。
更に古馬勢では先頃キングジョージを制したハイランド・リール Highland Reel が6番人気(10対1)、プリンス・オブ・ウェールズ・ステークスのマイ・ドリーム・ボート My Dream Boat 8番人気(33対1!)、3歳勢でもエクリプス・ステークスを制したホークビル Hawkbill は7番人気(16対1)と、上位人気8頭の全てがGⅠ馬という超豪華版でした。アイルランドで行われた競馬、恐らく今年の愛チャンピオンこそ史上最高のメンバーが揃ったと断言して間違いありますまい。
このレヴェルの高さは、恐らく来月の凱旋門賞を上回るもので、日曜日に行われるシャンティのトライアルは陰に隠れた印象。時代は、競馬の中心が2400メートルから2000メートに移ったことを象徴していると思います。

ということでワクワクするようなメンバーが揃いましたが、33対1のG戦勝馬サクセス・デイズ Success Days が逃げ、3番手を進んだニュー・ベイが抜け出した所、後方に待機した有力馬が一斉に襲い掛かる真にスリリングな競馬。
結論から言えば、へファーナン負傷で幸いにも空いていたデットーリに乗り替わったファウンドが9番手から外を通って追い込み、更に外から最後方でリラックスしていたアルマンザーが馬体を寄せ、ファウンドを4分の3馬身差捉えて鮮やかな差し切り勝ちで世紀の一戦を制しました。2馬身4分の3差で8番手からムーア騎乗のマインディングも追い込みましたが、いつもの瞬発力が見られず3着。
以下、ニュー・ベイ4着、マイ・ドリーム・ボート5着。ハイランド・リールは7着、本命ハーザンドは7番手追走も8着に敗退し、ホークビル9着。

勝ったアルマンザーは、今年大当たりのジャン=クロード・ルジェ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗で、GⅠは仏ダービーに続いて2勝目。このレースをフランス調教馬が制したのは、1991年のスアーヴ・ダンサー Suave Dancer 以来25年振りのことになります。勝因として速いペースと、馬が後方でリラックスしていたことを挙げていました。
アルマンザーが凱旋門賞に向かうのか、それとも主流のチャンピオン・ステークスに向かうのかは未定ですが、どちらのレースもオッズは5対1に上がりました。2着のファウンドが凱旋門賞を目指すのは予定通り。敗れたハーザンドの敗因は距離が短かったことで、次の凱旋門賞では期待できそう。いずれにしても、今年最大の競馬イヴェントが終了したというのが私の感想です。

 

 

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