読売日響・第502回名曲シリーズ
久し振りの演奏会です。先月の26日以来ですから、17日振り。その間、真夏があったり台風が接近したり、ここ数日は冬が戻ってきたような寒さです。
暫く間が空いたコンサート、サントリーホールへの行き方も忘れてしまいましたわ。もちろん冗談。で、中味はこれ。
ホルスト/フーガ風序曲
エルガー/チェロ協奏曲
~休憩~
ストラヴィンスキー/バレエ音楽「ペトルーシュカ」(1947年版)
指揮/下野竜也
チェロ/クレメンス・ハーゲン
ピアノ/野原みどり
コンサートマスター/藤原浜雄
フォアシュピーラー/鈴木理恵子
5月の読売日響は、正指揮者・下野竜也がフル回転です。例によって首席指揮者があまり振らないレパートリーを中心に、現代モノを組み合わせた内容。
冒頭のホルストは滅多に聴けない珍品。珍品というほど難しいものではなく、序曲だけ聴いていれば実に楽しい、あっという間の5分間でした。
これを下野も楽員たちも楽しくて仕方が無い、という風情で演奏しました。それもそのはず、改めて5月の3種類のプログラムを概観すれば、今月のテーマは「音楽の楽しさ」にあることは明らかです。更に言えば、オーケストラを構成する楽器の様々なキャラクターを紹介することにも主眼が置かれてる様子。
ホルストは、その全てのプログラムへの「序曲」として演奏されていたようですね。
エルガーのソロを弾いたハーゲンは、もちろんハーゲン・クァルテットのチェリスト。室内楽から出発してソロ活動も精力的にこなしている実力者。さすがのチェロを披露しました。
実に頭の良さそうな人で、エルガーも感情過多にならず、クールで男性的なエルガー像に徹します。下野と読響もハーゲンのエルガー・トーンにピッタリ寄り添い、最晩年のチェロ協奏曲の風格とスケール感を見事に音にしてくれました。この日、最大の収穫。
アンコールがあって、この演奏にはこれしかないほどの一品、バッハのサラバンドが淡々と演奏されました。無伴奏組曲の第1番から。
休憩後のペトルーシュカ、これはもう5月の主旨に添った楽しいペトルーシュカに徹底していました。
下野は実に交通整理の巧みな人で、ストラヴィンスキーの複雑なスコアを隅々まで読み尽くし、主役と脇役を明確に区別しながら聴衆を納得させていきます。だから聴いていて飽きることが無く、快いリズムに思わず乗せられてしまうのです。
特に第4部の次々に多様な舞曲が連続してくる個所は圧巻。ここはヴィオラ、ここはクラリネット、はいチューバさん。という具合に、極めて解り易い。
最初に書いたように、今回の下野は「音楽の楽しさ」と「楽器紹介」を目指しているのでしょうね。ペトルーシュカについて言えば、私はそこが不満、かな。
聴きどころにも書いたように、私がペトルーシュカから聴きたいのは、もっとシニカルで不気味な御伽噺。このバレエの本質はそこにある、とさえ考えています。(これはいつも裏切られますがね・・・)
所詮1947年版からは、そうした要素は完全に排除されているのでしょう。アンセルメが厳しく糾弾したように、これはストラヴィンスキー自身が犯した自作への犯罪なのです。下野は1947年版ペトルーシュカを、正に1947年版として演奏していました。
その意味では真に正しい演奏姿勢。従って、ここからはロシアの土臭さや農民の嘆きは聴こえてきません。ロシアの田舎ではなく、これじゃニューヨークの大都会の風景。
でもねぇ、一生に一度でいいから本物のペトルーシュカを聴いてみたいなぁ。モントゥー、アンセルメ、マルケヴィッチなどの時代は終わってしまったのかしら。
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