サルビアホール 第66回クァルテット・シリーズ

鶴見サルビアホールのクァルテット・シリーズ、シーズン20の2回目は、現代を代表する最高峰クァルテットの一つ、タカーチ・クァルテットのオール・ベートーヴェンと言う王道プログラムが組まれています。
タカーチはサルビアホール2回目の登場。前回も名声に違わぬ素晴らしい音楽を聴かせてくれましたから、今回も期待十分で出掛けました。以下の曲目で、ベートーヴェンの初期・中期・後期から1曲づつバランス良く組み合わせたもの。

ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第2番ト長調作品18-2
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第11番へ短調作品95「セリオーソ」
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第14番嬰ハ短調作品131

さてこの日は懸念していたことが起きてしまいました。9月と言えば台風シーズン、悪い予感が的中し、台風マラカス(16号)にドンピシャで遭遇してしまったのです。出掛ける時間辺りから雨風が強まり、帰る頃にはピークを迎えるという直近の予報。
何とか鶴見に辿り着いても、電車が止まって帰れないのではないか・・・。“じゃ、車で行くか”と初の鶴見ドライヴを決意し、サルビアホールの交通案内をチェック。第1京浜を南下し、鶴見駅前で西へ。なるほど迷うようなルートではなさそう。

余裕を見て開場時間1時間前に出たのですが、チョッと見積もりが甘かった。降り出した大雨で車が多かったこともありますが、そもそも国道1号線は信号が多く、あっという間に渋滞発生。車の中でイライラしながら、最初の演目は間に合わない、と諦めたほどでした。
それでも何とかギリギリに到着。幸か不幸か京浜東北線が台風とは別の原因で遅延していたそうで、若干開演を遅らせてくれたことも幸いしたようです。そんなわけで、気持ちが落ち着かないままタカーチの登場を迎えました。

前回彼らを聴いたのは2013年の9月。その時とメンバーは替わっていませんし、彼等のホームページも同じですから、その時の感想文を参照してください。チョッとした覚書でも記録しておくものだと思います。

サルビアホール クァルテット・シリーズ第22回

最初の2番、こちらの気分がザワついていた所為もありましょうが、どうもシックリ来ません。次のセリオーソでは大分修正されたように感じましたが、“タカーチって、こんな演奏だっけ”と怪訝な感想も。
タカーチはベートーヴェン全曲をデッカに録音もしていますし、音盤は様々な賞を受賞。NMLでも聴けますから今回の作品もザッと耳を通してきましたが、あのスタイリッシュな録音とはかなり違う印象なのです。四つの楽器が一つに纏まらない、とでも言おうか。

休憩は居合わせた知人と台風のことや帰りの足のことで時間を潰し、第2京浜は車も多かったけれど渋滞ではなかった、という情報もゲット。気を取り直して後半に臨みます。

ドゥシンベルが静かに弾き始める作品131の冒頭。今回ほどバッハとの繋がりを感じたことはありません。粗ぶった気持ちが次第に静まっていき、あとはベートーヴェンの自由奔放な音楽世界に身を委ねるだけ。
全曲休み無く弾かれる大作、いつもは構成を確認しつつ、身構えて聴く癖がついていましたが、この夜のタカーチはそれらを全て忘れさせてくれ、しかも音楽は潮の満ち干の如く寄せては退いて行く。技術以上に音楽が詰まっている音たち。
符点リズムの激しさと、対照的に柔らかい音色とフックラと湧き上がってくるベートーヴェンの暖かい人間性。演奏が短く感じられるということは、即ち名演奏であるからでしょう。

タカーチのような熟練した団体でも、いや、だからこそ、演奏は一回一回全て違う。昨今の若い団体のように、どこまでも正確で、決めたことはキッチリと繰り返してブレないというスタイルも音楽の行き方の一つには違いありませんが、それでは音楽する真の喜びは感じられないのではないか。
毎回同じなら、それこそCDで聴いていれば良い。ナマ演奏に接する醍醐味は、たった2時間の中にも紆余曲折があり、今回のプログラムの様にベートーヴェンの成長の跡さえ聴き取ることが出来る。
間もなく季節はモミジを迎えますが、紅葉にせよ黄葉にせよ、瞬間的に赤や黄色になるのではなく、物事は順を経て変化していく。一夜のコンサートもそれと同じで、開演から終演まで、時間の密度には変化があるということでしょう。

今回のタカーチは、前日が西宮、翌日は銀座のヤマハホールと3日間のみ。曲目も全て同じだそうです。来日前はシンガポール(16日)、このあとは香港(24日)とアジア・ツアーが続きますが、全て今回と同じプログラムが演奏されるとのこと。
彼らは現在アメリカ各地と、ロンドンのヴィグモア・ホールでベートーヴェン全曲演奏会(全6回)が進行中で、どれも初期・中期・後期作品の組み合わせで構成。日本ツアーはその一部を味わったということでしょうか。

音楽はナマで聴いてこそ、そんな当たり前な事実を改めて実感させてくれた4人。最後は“さすがにタカーチ!”と唸らせてくれました。

先輩の常連ご夫妻からアドバイスして頂いたとおり、帰りは第2京浜を利用。行きと帰りという条件は違えど、こちらは全くスムーズ。駐車場から自宅までたった32分のドライヴでした。手段さえ間違えなければ、こんな楽なコンサート通いもありません。癖になりそう。
それにしても第1京浜は使えません。あの信号の多さでは災害の時には完全にマヒするでしょうね。いろいろと勉強になったコンサートでした。

 

 

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