逃切りのトーマス・ブライアン
フランス競馬は先週の凱旋門賞で一区切りつが付きましたが、未だ一月チョッとの間は主に2歳馬のレースを中心に平場のG戦が続きます。
その一つが、昨日10月5日にサン=クルー競馬場で行われたトーマス・ブライアン賞 Prix Thomas Bryon (GⅢ、2歳、1400メートル)。フランスのレースなのに英国風のレース名が付いているのには訳があります。以前紹介したことがあるかもしれませんが、改めて復習しておきましょう。
そもそもフランスで競馬が始まったのは19世紀の30年代。ナポレオンが敗れて王政復古となり、後のナポレオン3世がボナパルト家の家系を継ぐべく暗躍していたころで、軍馬の強化が急務という事情もあったろうと推測されます。
フランス競馬黎明期、現在のソシエテの前身にあたる組織で事務方を任されていたのが英国人のトーマス・ブライアンで、正式なフランス競馬は1833年が創設年。翌1834年にフランスの競馬成績書第1巻を創刊したのが、ブライアン氏でもありました。因みに現在まで続いているフランスの平場G戦で最も歴史が古い仏ダービー(ジョッケ・クラブ賞)は1836年が第1回。今年は創設180年の記念の年でもあります。
トーマス・ブライアン賞はフランス競馬開設90年を記念して1924年に創設されたレースで、戦争による中止が何回かあり、今年は86回目を数えます。戦後暫くは1600メート戦として固定されてきましたが、去年の2歳馬路線の改革に伴い、1400メートルに短縮。凱旋門賞当日に行われるジャン=リュック・ラガルデール賞と入れ替わるように距離が短縮されたという経緯があります。過去にはヌレエフ Nureyev 、チチカステナンゴ Chichicastenango 、ノーザン・テースト Northern Taste 、アークティック・ターン Arctic Tern なども勝馬のリストに名を連ねてきました。
ということで、今年は good の馬場に8頭が出走し、9月12日にメゾン=ラフィットで1200メートルの新馬戦を2馬身半差で勝ったばかりの牡馬アジマル Ajmal が7対5の1番人気。アンドレ・ファーブル厩舎で、牝系もGⅠ級ということで実績より将来性に期待しての任着だったと思われます。
先手を取ったのは4番人気(9対2)のメイト・ストーリー Mate Story 。実はレーシング・ポストのレーティングでも最も高く評価されていたのがこの牡馬で、先行から伸びた2番人気(12対5)の牝馬ダム・ドュ・ロワ Dame du Roi に1馬身差を付ける逃げ切り勝ち。最後は鞍上が抑える余裕で、着差以上に強い勝ち方と言えそうです。2番手を追走していた3番人気(39対10)の牡馬ノース・サンダー North Thunder が半馬身差の3着に入り、レーティング通りの順当な結果で収まりました。人気のアジマルは中団に連れていましたが、見せ場無く5着敗退。
勝ったメイト・ストーリーはデヴィッド・スマガ厩舎、クリストフ・スミオン騎乗で、7月にシャンティーの1400メートルで2着に2馬身差を付けてデビュー勝ち。2戦目は8月のドーヴィルで、1500メートルの条件戦が6頭立ての4着。そして前走サン=クルーのラ・ロシェット賞(GⅢ、1400メートル)で逃げ、コントラスタート Kontrastat の2着していました。もちろんレーティングはこのG戦2着によるもの。勝ったコントラスタートは、先のジャン=リュック・ラガルデール賞で4着でした。
スマガ師はこのレース、1996年のヴァルシ Varxi 以来20年振りの勝利。スミオン騎手は2002年のソングラーク Songlark 、2012年のユーエス・ロウ Us Law に続き3勝目となりました。因みにクリストフ・ルメールもこのレースは2勝しています。
メイト・ストーリーは父が2000ギニーのマクフィ Makfi 、母の父は愛チャンピオンのジャイアンツ・コーズウェイ Giant’s Causeway で、順当ならマイルから2000メートのタイプと言えそうです。
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