これぞチャンピオンズ・デイ

2011年に英国でもブリティッシュ・チャンピオン・シリーズ(奇しくもアメリカのブリーダーズ・カップと同じBCの頭文字)なる企画が導入されたのに伴い、彼の国の特に秋競馬は大幅にテコ入れがなされてきました。ニューマーケットとアスコットの二大競馬場の主要レースの入れ替えと整理、賞金の見直し等が行われ、5年間をかけて漸く去年2015年に現在のスタイルで固まったようです。
昨日10月15日には、去年と同じプログラムでアスコットのチャンピオンズ・デイが行われました。事実上イギリスの平場シーズンの最終ステージとなるもので、各カテゴリーにG戦5鞍、内4鞍がGⅠ戦という競馬の祭典です。特に今年は豪華なメンバーが揃い、ヨーロッパ競馬の頂点はここにあり、という事態が現出しました。例によってレース順に行きますが、第1レースから第5レースまでがG戦で、最終第6レースはハンデ戦というプログラムです。

アスコット競馬場の馬場状態は good 。第1レースはこの日唯一のGⅡ戦で、ステイヤーによるブリティッシュ・チャンピオンズ・ロング・ディスタンス・カップ・ステークス British Champions Long Distance Cup S (GⅡ、3歳、2マイル)。BCシリーズ以前はジョッキー・クラブ・カップと呼ばれ、ニューマーケットが舞台でした。
チャンピオン・シリーズだけあって出走頭数も10頭と揃い、先の凱旋門賞で3着したオーダー・オブ・セント・ジョージ Order of St George が4対6の1番人気に支持されていました。今回はライアン・ムーア騎乗。凱旋門賞に出た(デットーリ騎乗)とは言え、今年のアスコット・ゴールド・カップ、去年の愛セントレジャーの勝馬で、本質はステイヤーです。また凱旋門賞から中1週での挑戦となりますが、同じ日に行われたカドラン賞の1・3着馬クエスト・フォー・モア Quest For More とニアリー・コート Nearly Caught も参戦してきているのですから、改めてヨーロッパ馬のタフさに驚かされます。先ず日本では考えられないでしょう。

レースは7番人気(25対1)で中1週のニアリー・コートが逃げましたが、2番手を進んだ4番人気(9対1)で同じく中1週のクエスト・フォー・モアが残り1ハロンで先頭。人気のオーダー・オブ・セント・ジョージも6番手から徐々に進出しましたが、3番手に付けていた5番人気(11対1)のシェイクザイードロード Sheikhzayedroad の脚色が勝り、残り100ヤードでクエスト・フォー・モアを捉えると、同馬に半馬身差を付けて優勝。やはり半馬身差で4番手から伸びた去年のセントレジャー馬で2番人気(6対1)のシンプル・ヴァーズ Simple Verse が3着に食い込み、オーダー・オブ・セント・ジョージは4着に終わりました。2014年の勝馬で3番人気(8対1)のフォーゴットゥン・ルールズ Forgotten Rules は7着。
勝ったシェイクザイードロードはデヴィッド・シムコック厩舎、マーチン・ハーレイ騎乗の7歳馬で、前走ドンカスター・カップ(GⅡ)の勝馬。今期はアスコット・ゴールド・カップ(3着)、グッドウッド・カップ(3着)と長距離三冠全てで掲示板に乗っており、ここで勝つに相応しい堅実なシーズンを送ってきました。

第2レースのブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント・ステークス British Champions Sprint S (GⅠ、3歳上、6ハロン)は、以前もアスコットで行われていたダイアデム・ステークスが変身したもの。1頭が取り消して13頭立てとなり、4対1の1番人気は2頭が分け合いました。1頭は今年のコモンウェルス・カップなどGⅠ2勝の3歳牝馬クワイエット・リフレクション Quiet Reflection 、もう1頭が前走1年の休養明けを勝った(ベングー・ステークスGⅢ)無敗のシャラー Shalaa 。
アスコットの多頭数、直線コースとあって馬群は二手に分かれ、シャラーがスタンド側を逃げ、遠い側は7番人気(9対1)のサインズ・オブ・ブレッシング Signs of Blessing が引っ張ります。残り2ハロンではサインズ・オブ・ブレッシングが2馬身差を付けてハナに立っていましたが、これを3番手で追走した5番人気(13対2)のザ・ティン・マン The Tin Man が捉えると、後方から追い込む12番人気(50対1)の伏兵グロウル Growl に1馬身差を付けるサプライズ。短頭差で中団から伸びた8番人気(14対1)のブランド Brando が3着に入りましたが、2・3着はエア・ゴールド・カップ(伝統ある短距離のハンデ戦)の夫々2・1着馬でした。シャラーは逃げてバテ、10着に、クワイエット・リフレクションも馬場の中央を先行していましたが7着と何れも敗退に終わっています。

ザ・ティン・マンは、去年のこのレースに追加登録して臨むも4着だった4歳馬。ロイヤル・アスコットではダイヤモンド・ジュビリー8着と敗れましたが、次のハックウッド・ステークス(GⅢ)に優勝。前走ヘイドックのスプリント・カップ(GⅠ)ではクワイエット・リフレクションの2着と健闘し、GⅠレヴェルの素質であることを伺わせてきました。
管理するジェームス・ファンショウ師は、未だダイアデム・ステークスだった時代の2011年に、ザ・ティン・マンの半兄に当たるディーコン・ブルース Deacon Blues (G戦5勝のスプリンター)でこのレースを制しており(騎乗したのはジョニー・ムルタ)、2度目の勝利となります。騎乗したトム・クイーリーは、フランケル Frankel の引退以後、そしてサー・ヘンリー・セシル師の死去以後は表舞台に立つ機会に恵まれなかったヴェテラン・ジョッキー。久々のGⅠ、いやG戦勝利となりました。ファンも待ち望んだ復活劇です。

続いてはブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メアーズ・ステークス British Champions Fillies & Mares S (GⅠ、3歳上牝、1マイル4ハロン)。やはり秋のアスコットで行われてきたプリンセス・ロイヤル・ステークスがGⅠに格上げされたレースで、13頭の多頭数。ここもオブライエン/ムーア・コンビのセヴンス・ヘヴン Seventh Heaven が5対4の1番人気。前走ヨークシャー・オークスで凱旋門賞馬ファウンドを破っているのですから、当然の本命でしょう。
そのペースメーカーというわけではないでしょうが、同じオブライエン厩舎の5番人気(14対1)プリティー・パーフェクト Pretty Perfect が後続を一時は6馬身も引き離しての大逃げ。しかし後続集団の先頭を走っていた2番人気(4対1)のジャーニー Journey が前との差を詰め、残り1ハロンで先頭に立つと、中団から伸びた5番人気(14対1)のスピーディー・ボーディング Speedy Boarding に4馬身の大差を付ける圧勝でした。スピーディー・ボーディングは凱旋門賞当日のオペラ賞を制していますから、この4馬身が如何に完勝だったが分かろうというもの。後方から追い込んだ4番人気(11対1)のクイーンズ・トラスト Queen’s Trust が首差で3着に入り、人気のセヴンス・ヘヴンはスタートで出遅れ、内に入れて後方から伸びたものの5着に終わっています。ここまで1番人気馬は3連敗。

勝ったジャーニーはジョン・ゴスデン厩舎・ランフランコ・デットーリ騎乗の4歳馬で、去年のこのレースはシンプル・ヴァースの2着。それ以来ずっとこのレースを目標に調整され、今期2戦目にピナクル・ステークス(GⅢ)に優勝。前走はニューマーケットのリステッド戦に勝ってフェイントをかけ、ここで念願の3連勝を達成しました。母モンターレ Montare は仏セントレジャーの勝馬でもあり、スタミナは十分でしょう。
一方敗れたスピーディー・ボーディングは、これで引退の由。ファンショウ師は来年の現役続行を望んでいますが、オーナー・サイドが早目に繁殖に上げたいとのことでした。

第4レースのクィーン・エリザベスⅡ世・ステークス Queen Elizabeth Ⅱ S (GⅠ、3歳上、1マイル)は、以前は9月に施行されていたアスコットの名物レース。今年も13頭と頭数が揃い、ギニー馬4頭を含む3歳馬7頭対、古馬6頭の構図。どう見ても3歳馬有利で、中でも牝馬クラシック2冠のマインディング Minding が7対4の1番人気。1マイルは愛1000ギニー2着以来となりますが、ここは2000ギニー馬2頭より上位という評価です。
このレースもスタンド側と遠い側の二手に分かれ、スタンド側は愛1000ギニーでマインディングを破った7番人気(25対1)のジェット・セッティング Jet Setting が逃げ、遠い側は最低人気(150対1)で2番人気(7対2)リブチェスター Ribchester のペースメーカーを務めるバーチャン Barchan の逃げ。スタンドから遠い側の2番手を追走していたマインディングが残り1ハロンで早くも先頭に立つと、これをマークしていたリブチェスターに詰め寄られながらも半馬身のリードを保って見事人気に応えました。この日最初の本命馬の優勝です。3着は1馬身差でスタンド側の後方2番手から追い込んだ5番人気(9対1)のライトニング・スピアー Lightning Spear が食い込み、愛2000ギニー馬で4番人気(15対2)のアウタード Awtaad が4着、3番人気(11対2)に推された2000ギニー馬ガリレオ・ゴールド Galileo Gold は5着と期待を裏切り(デットーリ談)ました。ジェット・セッティングには馬場が速過ぎ、11着大敗。

マインディングはもちろんエイダン・オブライエン師の管理馬で、これが7つ目のGⅠ制覇。オブライエン師は今期21勝目のGⅠで、世界記録の故ボビー・フランケル師の25勝にあと4つと迫りました。GⅠ戦の数が多いアメリカと比べるのは無理がありますが、アメリカ遠征も日常茶飯事のオブライエン厩舎ならあるいは・・・。
騎乗したライアン・ムーアは、意外にもチャンピオンズ・デイは初勝利。シリーズが始まって5年目にして漸くタイトルを獲得しました。また牝馬がQEⅡを制したのは、1987年のミリグラム Milligram 以来というのですから、これも意外な感がします。

そして最後が、真のヨーロッパ・チャンピオンわ決める文字通りのチャンピオン・ステークス Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。去年の勝馬ファシネイティング・ロック Fascinating Rock が残念ながら取り消しましたが、それでも10頭立ての精鋭ぞろい。明らかにレヴェルは凱旋門賞を上回るでしょう。先月の愛チャンピオンもそうでしたが、もはや世界の潮流は2000メートルに傾きつつあります。今年などはその典型と言えそうなメンバーが揃いました。
中でも前走愛チャンピオンで圧倒的な末脚を見せたアルマンザー Almanzor が11対8の1番人気。そして前走でも2着したファウンド Found が5対2の2番人気で続きます。日本的感覚からは凱旋門賞馬が中1週でGⅠ戦に連闘することは考えられませんが、それだけヨーロッパの馬は肉体的にも精神的にもタフだということ。こういうローテーションを克服できない限り、ヨーロッパのGⅠ戦の壁が厚いということでもありましょう。

スタート直後はゴドルフィンのペースメーカーで最低人気(100対1)のマーヴェリック・ウェイヴ Marverick Wave がペースを作っていましたが、残り2ハロンで久し振りに好気配の8番人気(33対1)ザ・グレイ・ギャッツビー The Grey Gatsby が先頭。これを内で先行していた本命アルマンザーが捉えると、後方を進み外から追い込むファウンドを2馬身抑えて堂々のGⅠ戦2連勝です。後方2番手から追い込んだ3番人気(7対1)で久し振りの大舞台となるジャック・ホッブス Jack Hobbs が1馬身4分の3差で3着に入り、7番人気(20対1)マイ・ドリーム・ボート My Dream Boat 4着、ザ・グレイ・ギャッツビー5着。1着から3着までは人気通りで、これぞチャンピオンズ・デイという圧巻の結果となりました。
アルマンザーは一時、僚馬ラ・クレソニエール LaCressonniere の故障で凱旋門賞へと言う報道も流れましたが、ジャン=クロード・ルジェ師は当初の計画を曲げることなく、ここに照準を絞っての見事な勝利でした。愛チャンピオンから中5週というローテーションもパーフェクトで、間に凱旋門賞を使った(勝ったとは言え)ファウンドとの差が2馬身となって表れたのでしょう。
騎乗したクリストフ・スミオンは、同馬のスタミナに関し、1マイル半は十分ステイできるとコメントしています。しかし来年も現役を続行するアルマンザーについてルジェ師は、今期同様2000メートルを中心に使っていく予定とのこと。凱旋門賞は、それらの結果を見て考慮するとあくまでも慎重な姿勢を崩していません。

またファウンドに関してオブライエン師は、BC遠征は今のところ未定の由。ただ調教班は大いに期待しているということで、更に2週後のBCに向かうようなら脅威と言えるでしょう。陣営は、凱旋門賞2着のハイランド・リール Highland Reel でBCターフを目指すことを明言しています。

 

 

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