夫々に個性的な5頭のチャンピオンたち
10月の第3週、英国競馬の平場シーズンでは最後の大きな開催となるアスコット競馬場のチャンピオン・シリーズが行われました。一日6レースですが、第1レースから第5レースまでが各距離、夫々の条件でのチャンピオン決定戦です。
この日の馬場は good to soft 、周回コースでは所により soft という重い馬場でしたが、最終的には全レース共に出走取り消しは無く、最終登録を済ませた馬は全て参戦しての競馬となりました。
第1レースは長距離部門のブリティッシュ・チャンピオンズ・ロング・ディスタンス・カップ British Champions Long Distace Cup (GⅡ、3歳上、2マイル)。このレースだけがGⅡランクで、13頭と頭数が揃います。抜けた存在がいないステイヤーたち、1番人気は去年の勝馬フォーゴットゥン・ルールズ Forgotten Rules と、前走愛セントレジャーで2着したエージェント・マーフィー Agent Murphy が9対2で並んでいました。
出走馬中唯1頭の3歳馬でジョイント8番人気(20対1)のアムール・ド・ニュイ Amour de Nuit が逃げましたが、中団を進んだ3番人気(6対1)のフライング・オフィサー Flying Officer がやや早仕掛けで抜け出し、ゴチャ付く後続集団に1馬身差を付けて快勝。後方から追い込んだジョイント5番人気(8対1)のクレヴァー・クッキー Clever Cookie が2着に入り、更に1馬身差でこれも後方から伸びた7番人気(10対1)のウィックロウ・ブレイヴ Wicklow Brave が3着に入りましたが、この馬が追い込む際の斜行が連鎖的に他馬を巻き込み、人気馬を含めて多くが多大な不利を被りました。
結果的に降着などはありませんでしたが、ウィックロウ・ブレイヴに騎乗したライアン・ムーア騎手は不注意騎乗の咎で4日間の騎乗亭処分になっています。この4日間の対象はBCやメルボルン・カップに引っ掛かるようですが、関係者間の調整で変更も可能の由。現時点では具体的な日時は確定していません。こうしたこともあり、フォーゴットゥン・ルールズは不利を真面に受けて8着、エージェント・マーフィーは2番手に付けていましたが、やはり大きな不利があって12着と、些か後味の悪いチャンピオン戦になってしまいました。
ジョン・ゴスデン厩舎、フランキー・デットーリ騎乗のフライング・オフィサーは、5歳の今期はこれで3戦3勝と負け知らず。ソールズベリーの条件戦(14ハロン)、ニューマーケットのリステッド戦(16ハロン)を経ていきなりGⅡを獲得したことになります。ゴスデン師は2番手からの競馬を期待していたそうですが、デットーリは中団待機策。しかし早目の判断で動いたのは流石で、後方のアクシデントに巻き込まれなかったのが勝因とも言えそうです。
実は、去年のこのレースにも3歳馬として挑戦していて6着。陣営としては以前から素質に期待していた存在で、来年のゴールド・カップに12対1のオッズが出されています。
続いては、前のレースとは全く対照的なブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント・ステークス British Champions Sprint S (GⅠ、3歳上、6ハロン)。去年のレポートでも紹介したように、今年からGⅠに格上げされた一戦。文字通りチャンピオンを目指して20頭が参戦してきましたが、長距離とは違ってこちらには断然の主役が存在します。それが今年新設のGⅠ戦コモンウェルス・カップを制した3歳馬のムハーラー Muhaarar 、ここでも5対2の1番人気に支持され、期待を裏切りませんでした。
落ち着いて先行したムハーラー、残り1ハロンで抜け出すと、同じく先行した2番人気(4対1)の同じく3歳馬トゥワイライト・サン Twilight Son に2馬身差を付ける堂々の優勝です。更に1馬身半差で6番人気(12対1)のダンゼーノ Danzeno が後方から追い込んで3着。
チャーリー・ヒルズ厩舎、ポール・ハナガン騎乗のムハーラーは、これでGⅠ戦4連勝。ロイヤル・アスコットの後はジュライ・カップ、ドーヴィルのモーリス・ド・ギースト賞と連勝し、夏場連戦の休養を取ってリフレッシュしての参戦。少なくとも6ハロンではヨーロッパに敵無しのチャンピオン・スプリンターであることは間違いナシ。
オーナーのシェイク・ハムダン・アル・マクトゥーム氏は“今や1マイルは守備範囲内。アメリカのマイル戦は小回りなので克服できるはず”とアメリカ転戦も仄めかしています。快進撃の前に挑戦した仏2000ギニーは不利があっての8着、舞台がアメリカに移ったとしても、1マイル戦で軽視すべきではないでしょう。
第3レースはブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メアーズ・ステークス Britisg Champions Fillies & Mares S (GⅠ、3歳上牝、1マイル4ハロン)。こちらも12頭と頭数が揃い、人気も結果も3歳馬が古馬を上回りました。愛オークス馬カヴァート・ラヴ Covert Love が4対1の1番人気で、一旦降着となったセントレジャーを異議申し立てで覆したシンプル・ヴァーズ Simple Verse は5対1で3番人気。
これも3歳馬、インターナショナル(GⅠ)でゴールデン・ホーン Golden Horn を破ったアラビアン・クイーン Arabian Queen (14対1、7番人気)が逃げ、カヴァート・ラヴは先行策。しかし本来重馬場を苦手とする本命馬は馬場に苦しみ伸びず、これも先行していたシンプル・ヴァーズのスタミナが威力を発揮し、2番手追走から先頭に立って逃げ込みを図る5番人気(7対1)のジャーニー Journey を4分の3馬身、力で捻じ伏せての優勝。2馬身差で中団から伸びたジョイント9番人気(20対1)ビューティフル・ロマンス Beautiful Romance が3着に入り、カヴァート・ラヴはそれでも首差4着は大健闘と言えるかもしれません。
既にプロフィールを紹介済みのシンプル・ヴァーズについては改めて詳述する必要はないでしょう。レイフ・ベケット厩舎、アンドレア・アトゼニ騎乗で、GⅠは2連勝、G戦も3連勝でシーズンを終えることになるでしょう。
来期の現役続行が決まっている同馬ですが、シェイク・ファハド氏の主戦を務めたアトゼニ騎手は今期で契約が切れ、来期は別の騎手とのコンビになりそう。いずれにしても、牝馬でのキングジョージ制覇が目標となる予定です。
そしてクィーン・エリザベスⅡ世・ステークス Queen Elizabeth Ⅱ S (GⅠ、3歳上、1マイル)。設立当初からアスコットで開催されてきたチャンピオン戦で、10月第3週に開催されるようになったのは、秋競馬の再編の結果。9頭が出走してきましたが、何と言っても注目は古馬チャンピオンのソロウ Solow 対、3歳チャンピオンのグレンイーグルス Gleneagles 。特に後者は重馬場を避けて何度も直前の取り消しを繰り返してきただけに、漸く重馬場にも拘わらず出走に踏み切った同馬の走りが気になります。ソロウが11対10の1番人気、グレンイーグルスが9対4の2番人気は当然の帰結でしょう。
そして結果もレース半ばで決定的。5番人気(16対1)エルム・パーク Elm Park のハイペースの逃げを3番手で追走したソロウが堂々と抜け出す一方、6番手に待機したグレンイーグルスは早くも馬場に喘いで2強対決は夢のまた夢。結局ソロウが後方から伸びた7番人気(33対1)のベラード Belardo を4分の3馬身抑えて優勝。更に1馬身半差でこれも後方から最低人気(66対1)のガブリアル Gabrial が3着に入り、グレンイーグルスは6着大敗。オブライエン師の「重馬場は空っ下手」という宣言を証明する結果になってしまいました。
フレディー・ヘッド厩舎、マキシム・グィヨン騎乗のソロウは、今期無傷でGⅠ戦5連勝。同馬のヨーロッパ・マイル・チャンピオンに異議を唱える専門家は皆無でしょう。この後は一旦放牧に出され、来年も今年同様ドバイからスタートする由。来シーズンも無敵の6歳馬として君臨するか、が大注目です。
最後は、従来のニューマーケットから移管されたチャンピオン・ステークス Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。13頭が参戦し、愛ダービー馬で凱旋門賞を回避したジャック・ホッブス Jack Hobbs がイーヴンの1番人気。今年のチャンピオン・シリーズでは最も固い本命と目されていました。
しかしジャック・ホッブスには大外12番枠発走という資格がありました。直線だけのニューマーケットなら問題になりませんが、小回りのアスコットではかなり不利。ペースメーカーを務めるブービー人気(66対1)マーヴェリック・ウェイヴ Maverick Wave の逃げを外から押して2番手に付けたジャック・ホッブスでしたが、やはり前半で脚を使ったのが響いたか、後方から伸びる4番人気(10対1)ファシネイティング・ロック Fasnating Rock 、同じく最後方から追い込む2番人気(9対2)のファウンド Found にも交わされて3着に終わりました。勝馬と2着馬は1馬身4分の1差、2着と本命馬とは半馬身差です。
勝ったファシネイティング・ロックはアイルランドのデルモット・ウェルド厩舎、パット・スマーレン騎乗の4歳馬。前走はレパーズタウンでエンタープライズ・ステークス(GⅢ)に勝っており、G戦2連勝でGⅠ戦は初制覇。しかし陣営は秋の重馬場を得意としている同馬で“狙っていた”レース。戦術より戦略で勝ち取ったGⅠ戦と言えるでしょう。
来年も現役に留まり、今年は2着だったトトソルズ・ゴールド・カップ(GⅠ)での雪辱を期します。
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