2016ブリーダーズ・カップ初日

去年はカレンダーの関係で10月最終週に行われたBCシリーズでしたが、今年はいつものスケジュール、11月第1週の金曜日と土曜日の二日間に分けて行われます。
今年の舞台はサンタ・アニタ競馬場ですが、ここで行われるのは2014年に続き9回目。シリーズでは最も多い開催コースとなりました。

11月4日の初日、BCは4鞍ですが、その前にアケダクト競馬場で行われたナシュア・ステークス Nashua S (GⅡ、2歳、8ハロン)を先に片付けちゃいましょう。アケダクトはこの日が冬開催の初日、BCの施工時間に重ならないように、早い時間の第3レースとして組まれていました。馬場は fast 、それでも1頭が取り消して僅か4頭立てという単勝馬券のみの発売です。キャリアの浅い4頭から1対5の圧倒的1番人気を集めたのは、2戦目にベルモントで初勝利を挙げたばかりのキャビテーン Capitaine 。
3番人気(6対1)のヘムスワース Hemsworth がジワッと先頭に立ち、キャビテーンは4番手から3番手へと徐々に進出。しかしヘムスワースの逃げ足は衰えず、そのまま直線でもリードを広げると、2番手を追走した2番人気(9対2)のハン・センス Han Sense に9馬身半の大差を付けて逃げ切ってしまいました。キャビテーンは更に1馬身4分の1差遅れての3着。
トーマス・アルベルティーニ厩舎、アントニオ・ガラード騎乗のヘムスワースは、これが3戦目での初勝利。7月30日サラトガのデビュー戦、9月11日ベルモントの2戦目も共に4着だった馬で、初勝利がいきなりのG戦勝ちという快挙となりました。ゴドルフィンがオーナー、このレースには追加登録料を支払って参戦してきたもので、陣営の期待は大きいと思われます。大差勝ちとは言え、このレースの評価が定まるのは今後のことになるでしょう。

さてサンタ・アニタ競馬場。BCシリーズは4鞍ですが、これを挟むように一般のG戦が前後で行われ、G戦は6鞍を数えます。その前にチョッとBCの歴史を振り返っておきましょうか。
創設はジャパン・カップに遅れること3年、1984年でしたが、当初は7つの分野でのスタートでした。漸く1999年に古馬牝馬の芝戦が加わり、更に2007年に3レース、2008年にも3レースが加わって現在に至っています。この内、2008年に創設されたマラソンは施行6年にしてBCからは外れ、現在は13分野ということで安定しているようです。

さて金曜日最初のG戦は、一時はBCの一環だったマラソン・ステークス Marathon S (GⅡ、3歳上、14ハロン)。fast の馬場に9頭が出走し、ここ2戦長距離のステークスを連勝中のスクーバ Scuba が2対1の1番人気。
そのスクーバがスタートから先頭。スローペースの中、最初のスタンド前では一旦3番手に控えるシーンもありましたが、向正面で押し出されるように先頭に立つと、あとは後続に迫られる場面もなく、最後は2番手追走を粘る2番人気(3対1)のハード・エーシズ Hard Aces に4馬身4分の1差を付ける逃げ切り勝ちで人気に応えました。同じく終始3番手を追走していた4番人気(6対1)のブルー・トーン Blue Tone が1馬身半差の3着に流れ込み、見所に乏しいレースでした。マラソンがBCから外れた理由もここにあるのでしょう。
2014年のキャリー・ストリーク Cary Streak に続き2度目の制覇となるブレンダン・ウォルシュ厩舎、ケンドリック・カームーシュ騎乗のスクーバは、2走前にパークス・レーシングでグリーンウッド・カップ(GⅢ、12ハロン)に勝ってG戦初勝利を記録した5歳牡馬。前走ベルモントの一般ステークス(テンペランス・ヒル・インヴィテーショナル、13ハロン)も5馬身差で圧勝し、これで長距離戦3連勝となりました。

この日の第6レースからが愈々BCシリーズで、今年の第一弾はブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・ターフ Breeders’ Cup Juvenile Turf (芝GⅠ、2歳牡せん、8ハロン)。firm の馬場に2頭が取り消し(というかフル・ゲートをオーヴァーして除外)て14頭立て。チャイナ・ホース・クラブの所有馬でサラトガでデビュー勝ちし、前走カナダに遠征してサマー・ステークス(芝ーGⅡ)を勝って2戦2勝のグッド・サマリタン Good Samaritan が5対2の1番人気。
12番人気(30対1)の伏兵ウェラブレッド Wellabled が逃げましたが、2番手を追走した3番人気(6対1)のオスカー・パフォーマンス Oscar Performance が第4コーナーで外から逃げ馬を捉えると、中団7番手から伸びる5番人気(8対1)のランカスター・ボンバー Lancater Bomber に1馬身4分の1差を付けての快勝。人気のグッド・サマリタンはクラブハウス・ターン(第1コーナー)で上手く回り切れず外に膨れて後方3番手からという不利にも拘わらず、後半追い込んでの首差3着でした。これが無ければ勝ち負けと悔やまれます。
これがBC初勝利となるブライアン・リンチ厩舎、同じく初制覇のホセ・オルティス騎乗のオスカー・パーフォーマンスは、7月にサラトガでデビューして6着。2走目8月のサラトガ芝コースで初勝利を挙げ、前走ベルモントでピルグリム・ステークス(芝GⅢ)を6馬身差で制していました。3連勝で今年のBC勝馬第一号です。ファミリーの近親にはBCスプリントのダンシング・スブリー Dancing Spree がいる血統。

続くブリーダーズ・カップ・ダート・マイル Breeders’ Cup Dirt Mile (GⅠ、3歳上、8ハロン)は9頭立て。去年のサンタ・アニタ・ダービー馬でダービー3着、プリークネス4着のドルトムント Dortmund が3対5の1番人気。今期は勝鞍がありませんが、ここ2戦でクラシックの本命カリフォルニア・クローム California Chrome の3・2着している実績から本命は当然でしょう。
去年のBCスプリント覇者で3番人気(7対1)のランハッピー Runhappy が逃げ、ドルトムントは2番手追走。しかしハイペースだったか、先ずランハッピーがバテ、続いてドルトムントも後退。3番手を追走していた2番人気(4対1)のガン・ランナー Gun Runner が先頭で直線に向きましたが、前半は後方3番手に控えていた5番人気(11対1)のタマクーズ Tamarkuz が外を通って追い上げ、逃げ込みを図るガン・ランナーに3馬身半差を付ける逆転劇となりました。4番手を進んでいた7番人気(40対1)のアクセルレート Accelerate が首差で3着に入り、ドルトムントは4着、ランハッピーは8着大敗に終わっています。
これがサンタ・アニタ初、BCも2007年以来となるキアラン・マクローリン厩舎、一方これがBC23勝目のマイク・スミス騎乗のタマクーズは、何とこれがアメリカでの初勝利となるシャドウェル・スタッド(総裁はシェイク・ハムダン)の6歳牡馬。去年はドバイでGⅡ戦、GⅢ戦を含めて4連勝しており、去年6月からはアメリカで走り、今期もメトロポリタン・ハンデ凡走の後サラトガでフォアゴ・ステークス(GⅠ)2着、前走ベルモントのケルソ・ハンデ(GⅡ)でも2着と徐々にアメリカ競馬に順応してきたところでした。

この日三つ目のBCシリーズは、2歳牝馬の芝戦ブリーダーズ・カップ・ジュヴェナイル・フィリーズ・ターフ Breeders’ Cup Juvenile illies Turf (芝GⅠ、2歳牝、8ハロン)。2頭が取り消し(1頭は除外)て14頭のフルゲートとなり、前走キーンランドのジャスミン・ステークス(芝GⅢ)快勝が目を惹いたラ・コロネル La Coronel が4対1の1番人気。
9番人気(20対1)で2番枠スタートのラル Lull が逃げ、14番枠と外枠発走のラ・コロネルは後方からの競馬。ラルが前半のリードを活かして先頭のまま直線に向きましたが、5番手から4番手と徐々に順位を上げてきた4番人気(6対1)のニュー・マネー・ハネー New Money Honey が直線半ばで外から一気に前を捉えると、後方から追い込む10番人気(23対1)のコーステッド Coasted に半馬身差の波乱となりました。これも後方から追い込んだ8番人気(15対1)のカヴァール・ドレー Cavale Doree が1馬身差で3着に入り、人気のラ・コロネルは外枠が響いて6着敗退。やはり大外枠でBCを勝つのは難しいようです。
BC8勝目のチャド・ブラウン厩舎、同じく7勝目のハヴィエル・カステラノ騎乗のニュー・マネー・ハネーは、9月サラトガのデビュー戦で2着。続いて10月のベルモントで未勝利ながらミス・グリロ・ステークス(芝GⅢ)に挑戦して見事初勝利を挙げていました。これで3戦2勝、芝馬の印象ですが、ブラウン師は来年のケンタッキー・オークス挑戦もありうるとのことでした。因みにブラウン師、フィリーズ・ターフは2008年のマラム Maram 、2014年のレディー・イライ Lady Eli に続く3勝目。カステラノのフィリーズ・ターフは初制覇です。

初日の最後、今年のBCシリーズの中でも最も注目されるのがブリーダーズ・カップ・ディスタッフ Breeders’ Cup Distaff (GⅠ、3歳上牝、9ハロン)でしょう。8頭の女傑が揃い、何と言っても11戦無敗の3歳チャンピオン、ソングバード Songbird がイーヴンの1番人気。対する古馬チャンピオンのビホールダー Beholder は、8連勝したあと男馬相手とはいえ3回連続で2着に敗れており、3対1の3番人気に甘んじていました。
いつものようにスタートから主導権を奪ったソングバードでしたが、3番手でマークしていたビホールダーが第3コーナーと第4コーナーの中間点辺りからスパートして差を詰め、本命馬に並び掛けながら直線。その直線は内で粘るソングバード(スミス)と外のビホールダー(スティーヴンス)が手に汗握る一騎打ちとなり、最後まで首の上げ下げとなる大接戦。写真判定の結果、ビホールダーがハナ差でソングバードを抑えていました。次の一歩ではソングバードが差し返していましたから、最後はタイミングが明暗を分けるスリリングなマッチレースだったと言えるでしょう。1馬身4分の1差で後方2番手から伸びた5番人気(15対1)のフォレヴァー・アンブライドルド Forever Unbridled が3着に入り、2番人気(5対2)のステラー・ウインド Stellar Wind は5番手追走も4着でした。いずれにしても歴史に残る名勝負。
リチャード・マンデラ厩舎、ゲーリー・スティーヴンス騎乗のビホールダーは、2013年3歳時に続いて3年振り2度目のディスタッフ制覇。2歳時のジュヴェナイル・フィリーズを加えてBCは3勝目で、GⅠ戦も11勝目となる6歳馬です。生涯最後のレース、大きな感動を与えてビホールダーは引退します。残ったソングバードは未だ3歳、古馬になって愈々王道を歩むことは間違いないでしょう。

感動覚めやらぬサンタ・アニタですが、最後にもう一鞍、トゥワイライト・ダービー Twilight Derby (芝GⅡ、3歳、9ハロン)が行われました。2頭が取り消して10頭立て。前走ケンタッキー・ダウンズデ一般ステークス(エクザクタ・システムズ・ドゥエリング・グラウンズ・ダービー)に勝ったオスカー・ノミネイテッド Oscar Nominated が2対1の1番人気。ジュヴェナイル・ターフで弟のオスカー・パフォーマンスが勝ったことも影響していたでしょう。
1枠から出た2番人気(7対2)のフリー・ローズ Free Rose が逃げ、本命馬は4番手追走。2番手でマークした4番人気(6対1)のブラックジャックキャット Blackjackcat が逃げ馬に馬体を接しながら直線に入りましたが、後方4番手に控えていた最低人気(35対1)のフランク・カンヴァセーション Frank Conversation が大外から末脚を爆発させると、逃げたフリー・ローズに半馬身差を付ける大波乱。頭差でブラックジャックキャットが3着に入り、オスカー・ノミネイテッドは更に頭差の4着でした。
ダグ・オネイル厩舎、マリオ・グティエレス騎乗のフランク・カンヴァセーションは、今年2月にゴールデン・ゲート競馬場でエル・カミノ・レアル・ダービー(GⅢ)を制していた馬。その後はUAEダービー7着など3戦連続で着外が続いていましたが、この勝利で芝とダートで夫々G戦1勝づつを挙げたことになります。

 

 

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