サルビアホール 第68回クァルテット・シリーズ

今週は寒暖差の大きい首都圏、木曜日は54年振りという積雪があったのでコバケン/読響はパス。体調を整えて昨日は鶴見で室内楽を楽しんできました。
今回はサルビア初登場、私も初体験のダンテ・クァルテット、英国を代表する団体による以下のプログラム。

メンデルスゾーン/弦楽四重奏のためのカプリッチョ 作品81-3
スタンフォード/弦楽四重奏曲第5番変ロ長調作品104
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番変ロ長調作品130(「大フーガ付」版)
 ダンテ・クァルテット

英国のグループらしくスタンフォード作品が選ばれているのが聴き所で、私はスタンフォードの室内楽そのものが初めてナマで聴くものでした。そのスタンフォードに入る前に、先ずメンバーから。
ファーストはクリシア・オソストヴィチ Krysia Osostowicz という如何にもヴェテランの女性奏者で、名前からするとポーランド系でしょうか。セカンドは若い男性でオスカー・パークス Oscar perks 、ヴィオラが日本人女性の井上祐子、チェロは大柄な英国紳士リチャード・ジェンキンソン Richard Jenkinson という面々。
結成は1995年だそうですが、幸松辞典によると結成時のメンバーで残っているのはファーストだけ。プログラムではオソストヴィチ女史はドーマスQのメンバーだったそうで、ダンテでも彼女が主導する存在と思われます。

現メンバーでのホームページはこちら↓

http://www.dantequartet.org/

「ダンテ」の名は2004年、コーンウォールでのダンテ・サマー音楽フェスティヴァルに出演したことで付けられた、というのが幸松解説ですが、ホームページを見るとダンテ・フェスティヴァルを主催しているのはオソストヴィチ氏。
牧場巡りなども紹介されている夏の音楽祭は、どうやらダンテQのメイン活動の舞台でもあるようですね。イギリスの片田舎の音楽祭というのも興味が湧きます。

冒頭のメンデルスゾーンは、今回がサルビア初登場の楽章で、亡くなる3年ほど前、「真夏の夜の夢」付随音楽と同時期に書かれたもの。今回のプログラム曲解は、スタンフォードというレア作品があることもあってか、ヴィオラの井上氏が執筆されていました。
短いメンデルスゾーンが終わると、メンバーは舞台裏に戻らず続けてスタンフォードへ。この合間に、井上氏が簡単に作品を紹介。スタンフォードと親密な親交があったヨアヒム作品の引用を、実際の演奏を交えながら解説してくれました。引用とは、ヨアヒムが若いころに書いた「ロマンス」(ヴァイオリンとピアノのための3つの小品・作品2の第1曲)と、練習用のパッセージとのこと。

確かにオソストヴィチが短く弾いてくれたヨアヒムのメロディーが4つの楽章の夫々終結部に登場し、いわゆる循環形式であることが初めて聴く者にも直ぐに理解できました。
そもそも各楽章の主題自体がヨアヒム・モチーフの変容のようで、敢えてタイトルを付ければ「ヨアヒム四重奏曲」とでも呼びたくなるほど。作品はヨアヒムの訃報を聞いて作曲したそうですが、哀悼のムードが漂っているのは第3楽章のアダージョ・ぺザンテのみ。この楽章は訃報に驚く衝撃に始まり、徐々に故人を追想するように静かな悲しみに変わっていくように聴こえました。
他の3楽章は、何れもヨアヒムの大らかで穏やかな人柄を偲ぶような作風で、むしろ音楽することの楽しさを慈しむ様な佳曲だと思います。これを機に、8曲あるというスタンフォードの弦楽四重奏を一つ一つ聴き拓いて行くのも一興でしょう。

ダンテQは極く最近、スタンフォードの5番と7番を組み合わせたCDを録音しており、この日は会場でも販売されていました。このCDにはヨアヒムのロマンスもオソストヴィチのソロでフィルアップされており(ヴァイオリンとピアノによる演奏)、今回の思い出には最適のアルバム。
実は当盤はつい先日ナクソスのNMLでも配信が開始されており、種明かしをすれば、私もナクソスで予習してきていました。ブックレットもダウンロード可能で、ヨアヒムとスタンフォードの関係も実は知っていた次第。

後半はベートーヴェン後期の傑作。曲目解説にも記載がありましたが、ダンテQは3日間でベートーヴェン全曲演奏に挑戦したばかりの由。そのとき作品130に付いては、昼に改訂版のアレグロを、夜はオリジナルの大フーガ付きで演奏したそうで、彼等も聴衆も大フーガ版をより好んだそうな。今回はその経験を踏まえ、大フーガ版での作品130となりました。

ベートーヴェンを含め、ダンテQの演奏は典型的な英国スタイル。劇的な音楽表現を避け(敢えてせず)、知的で上質な音楽性を自然に醸し出すような演奏と言ったらよいのでしょうか。聴き手に緊張感を強いない代わりに、落ち着いてクラシック音楽の温かさを楽しんでもらう。これが英国の上品な四重奏演奏というものでしょう。
アンコールはコダーイのガヴォット。本来はヴァイオリン3本とチェロ1本の「四重奏」ですが、第3ヴァイオリンをヴィオラが弾いても全く違和感はありません。実際このスタイルでの演奏が多いようで、ダンテQもコダーイの弦楽四重奏曲2曲にフィルアップして録音しています。この最新盤は会場では販売していませんでしたし、NMLでも配信されていませんが(別団体によるBIS盤が聴けます)、ハイペリオン盤なのでいずれナクソスで視聴できるようになるでしょう。

 

 

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