フェスタ5日目

このところ日記ばかり書いているような気がするけれど、まぁいいでしょう。書くことがいろいろあって困る。
これは金曜日に出掛けたコンサートのレポートです。晴海で行われているSQWフェスタの5日目。前日の4日目は読響定期と重なってしまい、止む無く断念しました。そちらは「自死者は詠う」がテーマで、ショスタコーヴィチの8番と12番が演奏されたはず。どんな具合だったんでしょうか。
昨日のプログラムはこれです。
コンサート・プラス 「対位法、制御不能!」
バルトーク/弦楽四重奏曲第5番
     ~休憩~
ベートーヴェン/弦楽四重奏曲第13番作品130(大フーガ付)
 ボロメーオ・ストリング・クァルテット
わざわざコンサート・プラスと謳っているのは、特別企画があったからです。その企画とは、ステージ後方にスクリーンを設置し、そこに楽譜を映し出そうという試み。
最初のバルトークだけですが、使用されたのはバルトークの自筆譜です。ボロメーオが深く係わっているワシントンのアメリカ議会図書館と共同で資料を作成し、聴き手はバルトーク自身の手によるスコアをコンプリートに見る事が出来る、という日本初?の快挙でしょうね。
聞くところによると、この自筆譜は現在の出版譜とは異なっている部分も多いのだそうで、当夜の演奏は当然ながらこの自筆版によるもの。事実上バルトーク第5の自筆版日本初演と豪語しても間違いじゃないみたいですね。
残念ながら、というか愚かにも、私には何処がどう違うのかサッパリ判りませんでしたが・・・。勉強が足りんなぁ。
実際にこれを体験してみると、良い点も悪い点もあったように感じました。悪い点は何かと言うと、どうしてもスクリーンに目が行ってしまい、気が散って肝心の演奏そのものに集中できなかった恨みがあります。
これは最近のオペラ公演にも通ずることで、どうにも字幕スーパーが気になってオペラそのものに集中できない。“それなら見なきゃいいだろ” と言うのは素人の浅はかで、目の前に馬鹿でかいスクリーンがあると、ついチラチラと目に入ってしまいます。かといって、目を瞑ったんじゃあ何の意味も無い。
私も自宅でレコードなんぞ聴くときには楽譜を見る事が多いんですが、それとは少し違いますね。やはりナマでは演奏者の動きこそ面白いので、特にクァルテットは4人の格闘技と言えるような趣があって、この試みには少し違和感を持ちました。
一方、良い点もあるので、それはバルトークの自筆譜を目にできたこと。何とも美しい譜面ですよね、これ。バルトークだから出来るので、これがベートーヴェンじゃ成り立たないでしょう。
そのこと即ち、バルトークの音楽を理解する上で大いに役立っていました。各楽章の終わりに、細かく分けた構成区分ごとに演奏時間が秒単位で記してあり、最後には全楽章のトータル必要演奏時間が計算してあります。
これは印刷譜にも記載されていますが、バルトーク自身の手でスコアにキッチリ書き込まれているのを実見すると、なるほどバルトークはこういう人間だったのだ、ということがいやでも判ります。
そういう意味では、実に面白く、興味深い試みでした。
プログラムには、「ブージー・アンド・ホークス社の許諾を得て使用」と明記されていましたが、5番の出版譜はユニヴァーサル。ま、バルトークは、ユニヴァーサルのナチス・ドイツへの協力に講義して契約を解除したはずですが、5番の版権もブージーに移っているんですかね。
その辺の事情・現状はよく判りませんが、いずれ自筆版も出版されるのでしょう。そのときは6月6日の日本初演の意義も益々大きくなるでしょうね。
この日に晴海で立ち会わなかった奴は、バルトーク・ファンの、クァルテットお宅のモグリだっ、なんて言ってやろうじゃありませんか。
後半はベートーヴェンの作品130。最近の主流である、大フーガをフィナーレに置いた演奏です。
ベートーヴェンの後期を聴いていつも感じるのは、人間という存在が到達した高みのこと。バルトークもそうですが、ベートーヴェンがこれらの作品を書かなかったら、人類の歴史ははるかに貧相なものになっただろう、ということですよね。
ボロメーオはバルトークとベートーヴェンという、正に対位法、制御不能の2曲をデンと据え、音楽の歴史、いや人類の歴史がいかに豊かなものに実ったかを、立証してくれました。
身体を張った、とも言える大熱演に最大級のブラボォを捧げましょう。
今回のフェスタ、最大の山場はこのプログラムでしょうね。それはキッチンさん自身が述懐しているように、“ベートーヴェンとバルトークは、この世に僅かしかいない、飛行機で大気圏に達したパイロットのような存在”だからなのです。
ということでフェスタ2008、残るはあと1日です。これは室内楽のお祭り、二つのクァルテットが合同で開催する楽しい室内楽です。あまり小難しいことは言わずに楽しむ。それが聴き手の粋、ってもんでしょうな。

 

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