日本フィル・第687回東京定期演奏会

昨日は大寒、暦通り北風が冷たい中を赤坂のサントリーホールに向かいます。今年最初の日フィル定期初日を聴いてきました。11月と12月は土曜日に振り替えたので、本来の自分の席で聴くのは3か月振り。
1月はピエタリ・インキネンが同オケの首席指揮者に就任して最初の定期で、いきなりブルックナー畢生の大作を取り上げるという注目公演でもあります。

ブルックナー/交響曲第8番(ノヴァーク版)
 指揮/ピエタリ・インキネン
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/千葉清加
 ソロ・チェロ/菊地知也

インキネンがラザレフから首席指揮者の地位を受け継いだのは去年9月。その就任披露演奏会は早々と9月に行われましたが、首席としての定期への登場は今回が最初。もちろんブルックナーの第8が演奏されるのは事前に発表されていましたが、その時は確か「ハース版」で演奏されると予告されていましたっけ。
私は本来ブルックナーの交響曲でハース版かノヴァーク版か、はてまた他の校訂版かは余り気にする方ではありませんが、第8だけはハース版を支持する立場です。理由は、ノヴァークが様々な理由でカットしてしまったハース版の中に「もったいない個所」がかなりあるから。両版には演奏時間でも相当な差が生ずるのではないでしょうか。長大な作品だけに、演奏時間はテンポによって違ってくることはもちろんですが・・・。

そんなわけで、当初はハース版と案内されていたものが何故ノヴァーク版に変わったのか。そこも気になりながら定期を聴いたのですが、何となく理由が分かったような気もしましたね。
そこに入る前に、当日気が付いた演奏上のポイントをいくつか記録しておきます。

先ず日フィルでは珍しい対抗配置が採られていたこと。ヴァイオリンは第1と第2が左右対称に置かれ、チェロは第1ヴァイオリンの隣、コントラバスは下手奥にズラリと並びます。これは日フィルの風景としては滅多に見られないものでしょう。
既に演奏したブルックナーの第7交響曲も今回と同じ対抗配置でしたが、第7ではホルンとワーグナー・チューバを左右に振り分けていたのに対し、今回は共に舞台上手に配置されていたのが違う点。

第8の場合、ノヴァーク版と謳われていても実際はハース版の良い所取りを採用し、ハース・ノヴァーク混合版として演奏されることが多いのですが、インキネンは正真正銘のノヴァーク版だったと思います。スコアを見ながら聴いていたわけではありませんから断定は出来ませんが、私が知っている限りのハースからの借用は無かったと思います。

「出来れば3台」とブルックナーが指示したハープは、2台でした。1台でも3台でも演奏者は同じパートを弾くので、これは目で見て確認する範囲のこと。

第3楽章でいつも耳を悩ませるのは、練習記号「D」から「L」辺りまでに頻繁に登場する「Violin Solo」のパート。他の楽器のバランスからしてはとてもソロ(一人の)ヴァイオリンでは太刀打ちできない音量ですが、今回の演奏では第1プルトと第2プルトの表(九鬼明子)の3人がソロ・パートを「合奏」していました。
これまで体験した第8がどうだったか直ぐには思い出せませんが、ここは音だけ聴いていると判別できない箇所で、今回はここをシッカリと目撃してきました。ヴァイオリン出身のインキネンだけに、ここは伝統的にもこの方法が正解なのだと思われます。

さて演奏。版の変更でも、また前回の第7からも想像したように、インキネンは極めてゆったりとしたテンポを採用し、そのテンポを微動だにせずイン・テンポで貫きます。従ってどうしても演奏時間が長くなる。ストップ・ウォッチを持っていたわけではありませんが、演奏が終わって時計を確認すると、針は午後8時半を少し回った辺りを指していました。
7時丁度にスタートしたわけではないでしょうが、通常80分とされる演奏時間を10分近く上回ったのは確実。恐らく85分以上を費やしたのではないかと思われます。CDなら1枚で収まらない所要演奏時間で、仮にCD化すれば2枚組必至。ノヴァーク版でこれですから、当初発表の様にハース版で演奏すれば更に長く、この辺りが版変更の理由だったのじゃなかろうかと想像した次第。

これだけジックリと歌い上げれば多少は退屈やイライラを感ずるものですが、それが全く無いのがインキネンの不思議な才能。特に第3楽章の「心地よい緊張感」は圧巻で、これほどに巨匠風ブルックナーをナマで聴いたのは久し振り、いや初めてかもしれません。最近流行の軽いブルックナーとは対極にある演奏です。
最近、と言いましたが、往年のブルックナー指揮者でもこれほど雄大なテンポを採用したのは珍しく、例えばヨッフムやカラヤンはもと速いテンポだったし、フルトヴェングラーはクレッシェンドでは必ずアッチェレランドを伴っていました。その意味でも、稀に聴く「オールド・スタイル」ブルックナーだったと言えそう。それでいて緊張感が途切れないのがインキネン/ブルックナー最大の美質でしょう。

日フィル定期は原則として金・土の二日間開催。私が聴いた初日は、初日特有の僅かな瑕疵がありましたが、恐らく二日目は改善されると思慮します。金曜日の手応えと反応を考慮し、土曜日は更なる名演が期待できるのではないでしょうか。
なお初日は、ネット用と思われるテレビ・カメラが数台入っており、何れ何処かのメディアで見聞きできるものと思います。

これで暫く日フィルのサントリー定期はお休みとなり、次回3月から7月までは東京芸術劇場、オーチャードホール、東京文化会館に分散して開催されます。この日の会場でも掲示板で注意を促していましたが、3月は池袋です。会場を間違えないように。

 

 

Pocket
LINEで送る

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください