第1回ペガサス・ワールド・カップ・インヴィテーショナル

1月最後の週末、これまでにないような条件のGⅠ戦がアメリカ競馬に誕生しました。タイトルのペガサス・ワールド・カップ・インヴィテーショナル。総賞金1200万ドルは世界一の高賞金レースで、発表当初からずっと話題になってきたレースです。
これを含めて1月28日のガルフストリーム・パーク競馬場では7鞍のステークスが組まれ、内G戦は4鞍。レース順に紹介していきましょう。

新しいタイプのGⅠ戦が新設されたこととも関係があるのでしょうか、ガルフストリームの番組は大幅に変更されており、前座のG戦は全て昨シーズンは施行されなかったもの。「チャンピオン開催」を盛り上げるための措置だろうと想像します。アメリカに比べて日本の競馬番組再編の歩みは、実に遅々たるものと感じないわけにはいきませんね。
この日最初のG戦は、第3レースとして行われたハリケーン・バーティー・ステークス Hurricane Bertie S (GⅢ、4歳上牝、7ハロン)。上記のように去年は施行されず、一昨年は2月施行の一戦でした。fast の馬場に1頭が取り消して7頭立て。前走同じガルフストリームのランバート・ステークス(GⅢ)で2着好走したカーリンズ・アプルーヴァル Curlin’s Approval が4対5の1番人気。
スタートで2番人気(2対1)のジャンル Genre が出遅れましたが、直ぐに先行馬群に取り付いて全馬一団の流れ。5番人気(20対1)のインプロヴ Improv が逃げる形になりましたが、並んだ2番手を進む最低人気(24対1)のリンダ・リンダ Linda Linda が先頭を奪って第4コーナー。前3頭のハナ争いを4番手で見ていた本命カーリンズ・アプルーヴァルが第3コーナーを過ぎる辺りからスパートして先頭に並び掛けると、直線では後続を引き離し、前半最後方から追い上げるジャンルに2馬身半差を付けて見事人気に応えました。頭差で5番手から伸びた6番人気(23対1)のディスティンタ Distinta が3着。
マーチン・ウルフソン厩舎、ルイス・サエズ騎乗のカーリンズ・アプルーヴァルは、これが未だ7戦目という4歳馬。去年8月にガルフストリームの一般ステークス(アディッド・エレガンス・ステークス)に勝ち、G戦挑戦3戦目での初勝利となりました。通算成績は7戦4勝、何れはGⅠ戦を狙ってくるでしょう。

第10レースのラ・プレヴォヤンテ・ハンデキャップ La Prevoyante H (芝GⅢ、4歳上牝、12ハロン)から3戦続けてのG戦。このレースも去年は施行されず、一昨年は年末に施行されていました。firm の馬場に12頭が出走し、前走カナダのGⅠ戦E・P・テイラー・ステークスでハナ差2着惜敗のサフューズド Suffused が3対2の1番人気。
レースは9番人気(25対1)のジプシー・アイズ Gypsy Eyes が引っ張りましたが、6番手で待機したサフューズドが第3コーナーと第4コーナーの中間点からスパートし、前3頭を外から捉えながら直線に向くと、その内を衝いた2番人気(5対2)のアーレス(アルル) Arles に1馬身差を付けて優勝。イギリス産とフランス産のワン・ツーとなりました。更に1馬身差で2番手を追走していたケンタッキー産で4番人気(8対1)のトライ・ユア・ラック Try Your Luck が3着。2着のジョエル・ロザリオ騎手から勝馬が内に切れ込んだことに対して異議が申し立てられましたが、審議の末、入線通りで確定しています。
ウイリアム・モット厩舎、ホセ・オルティズ騎乗のサフューズドは、英国で8戦3勝(主にハンデ戦)したあと去年モット師の管理下に入り、去年9月サラトガのグレン・フォールズ・ハンデ(芝GⅢ、11ハロン)に続いて二つ目のG戦制覇となりました。ジャドモント・スタッドの所有馬で、牝馬の芝長距離では主力の1頭に成長していくでしょう。

続いては、プレヴォヤンテと同条件の牡馬によるW・L・マックナイト・ハンデキャップ W.L.McKnight H (芝GⅢ、4歳上、12ハロン)。これも同様に去年は施行されず、一昨年までは年末施行だったもの。牝馬版同様12頭が揃い、GⅢ馬で前走10月のベルモントでニッカーボッカー・ステークス(芝GⅢ)で4着したミスター・メイビー Mr Maybe が3対1の1番人気。
10番人気(35対1)の伏兵ダイアモンド・バチェラー Diamond Bachelor が逃げ、縦長の展開。後方4番手に控えていた4番人気(5対1)のタグリーブ Taghleeb が第4コーナーで外に出し、同じく後方3番手から更に外を衝いて急襲する6番人気(8対1)のサドラーズ・ジョイ Sadler’s Joy を頭差抑えての小波乱。2番手を進んでいた9番人気(35対1)のパターソン・クロス Patterson Cross が1馬身差の3着に入り、人気のミスター・メイビーは後方2番手の儘10着大敗に終わりました。
マイケル・メイカー厩舎、タイラー・ガッフォリーネ騎乗のタグリーブは、これがG戦初勝利となる6歳牡馬。ステークスは3勝目で、前走は大晦日のガルフストリームで行われた16ハロンの一般ステークス(アレン・ジャーキンズ・ステークス)に勝っており、ステークス2連勝で芝長距離のスペシャリスト振りをアピールしました。

土曜日最後は、愈々ペガサス・ワールド・カップ・インヴィテーショナル Pegasus World Cup Invitational (GⅠ、4歳上、9ハロン)。開催時期的に言えば去年までドン・ハンデキャップだったGⅠ戦ですが、ブラッドホース誌でも「inaugural」(最初の)という形容詞を使っていますから、ドン・ハンデが改名されたとは言えないようです。「これまでにない条件」と言うのは、予め12頭の枠を一枠100万ドルで売却し、総額1200万ドルが賞金に割り当てられるというもの。1着が700万ドル、2着は175万ドル、3着が100万ドル、4着25万ドルと配分されるので、4着でもGⅠ戦に勝ったのと同程度の賞金が稼げるという仕組み。
誰でも枠を買えるようですが、必ずしも競走馬のオーナーとは限らず、有力な馬を所有するオーナーとコンビを組んで参戦することも可能なのだとか。もちろん特定の馬に限るわけではなく、複数の馬を登録し、当日は最も可能性の高い馬を1頭参戦させた陣営もありました。
ということで1週前の登録では15頭が発表されましたが、最終的にはフル・ケートの12頭立て。この方式、確かに賞金は世界一になりますが、馬のレヴェルという点ではどうでしょうか。実際、12頭立てながら実態はアロゲート Arrogate とカリフォルニア・クローム California Chrome の一騎打ちという形になり、BCでライヴァルに勝った若い前者が4対5の1番人気、これが引退レースと公言している後者が6対5の2番人気で、3番人気のキーン・アイス Keen Ics は何と16対1も付きます。99対1が3頭も出るという凹凸の激しいメンバーになってしまいました。
結果も真にシンプル。6番人気(30対1)のノーブル・バード Noble Bird が逃げ、1番枠発走のアロゲートは内、大外12番枠発走のカリフォルニア・クロームは外と3番手を並走していましたが、直線ではアロゲートの独壇場。バテて苦しそうに外に寄れるクロームを尻目に、後方3番手から追い上げる4番人気(19対1)シャーマン・ゴースト Shaman Ghost に4馬身4分の3差を付ける圧勝劇となりました。3馬身半差で2番手に付けていた5番人気(23対1)のネオリシック Neolithic が3着に入り、カリフォルニア・クロームは無残な9着大敗で現役を終えています。レース後右前膝に故障が発見されたということですが、獣医の診察を経て予定通り種牡馬入りするとのことです。
レースの最後、アナウンサーが“ワッタ・レース!、ワッタ・スポーツ!、ワッタ・ホース!!”と絶叫していましたが、私には何とも味気ないレースと映りましたがどうでしょうか。
ボブ・バファート厩舎、マイク・スミス騎乗のアロゲートについては付け加えることも無いでしょう。日本と同じくレヴェルが高いと評価される4歳馬。これが三つ目のGⅠ制覇で、間違いなく今年の古馬戦線をリードしていく存在。もちろんBCクラシック2連覇が目標でしょう。

 

 

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