Qエクセルシオのアラウンド・モーツァルト VOLⅡ

昨日の日曜日、ほぼ1年振りに晴海の第一生命ホールで極上の室内楽を楽しんできました。
トリトンは電車でのアクセスがやや不便なので、どうしても私共は車で、ということになります。その場合、大田市場の脇を通り、話題の豊洲市場を横目に見ながら築地市場の手前で右折。何のことはない、市場巡りのドライヴとなることに改めて気が付きました。

この日はクァルテット・エクセルシオが去年からスタートさせた新シリーズ「アラウンド・モーツァルト」の2回目。思えば第1回の去年は、休養していたファースト西野が復帰し、首都圏で演奏した最初の演奏会でもありましたっけ。

モーツァルト/歌劇「フィガロの結婚」序曲(ウィーン楽友協会・弦楽四重奏版)
シューベルト/弦楽四重奏曲第6番ニ長調D74
モーツァルト/弦楽四重奏曲第17番変ロ長調「狩」K458
     ~休憩~
シュタードラー/二重奏曲第1番~第1楽章(クラリネットとヴィオラ版)
モーツァルト/クラリネット五重奏曲イ長調K581
 クァルテット・エクセルシオ
 クラリネット/澤村康恵

2回目の今回は、クラリネットの澤村康恵を迎えての名曲クラリネット五重奏曲がメイン。モーツァルトがそのために作曲したシュタードラーの珍しい作品を取り上げるのも、レアな機会と言えそうです。
第一生命ホールでのエクは世界巡りラボ、日本と世界の現代作品、クラリネット+などの企画を続けてきましたが、今回はMC西野が語っていたように、恐らくこの会場では最も多くの聴き手を迎えたコンサート。会場には旧知の顔も多く、開演前、休憩時間、開演後とあちこちに話の花が咲いていました。

冒頭はオペラの生き生きとした明るい序曲から。今回取り上げられたヴァージョンは、ウィーン楽友協会に所蔵されていた編曲者不明の楽譜とのこと。この序曲は、他にも名前が残っている編者によるアレンジもあるようです。
コーダのテーマを誘導するメロディーが出る直前、エクはほとんど計時不能なほど僅かな一呼吸を置きます。これが如何にもモーツァルトらしく、彼らが定期で初期作品を一つづつ全て演奏してきたことの経験が成せる業でしょう。常設クァルテットならではの呼吸。

続いてはシューベルト学生時代の一品。シューベルトが生まれたのはモーツァルトの没後ですから、両者には直接の面識はありません。アラウンド・モーツァルトに登場したのは、シューベルトの師サリエリがモーツァルトの友人だったからという繋がりと、二人共に若くして逝った天才だったということにもよるのでしょうか。
1ダースほどもある習作四重奏の中から第6番を選んだのは、想像ですが、フィガロ序曲と同じニ長調だからでしょう。序曲の後、エクは舞台裏に戻らず、そのまま着席してシューベルトに取り掛かります。

実はシューベルト、私はその初期作品を聴き込んだことはなく、今回はチェックする時間もありませんでした。そこで Lea 版のポケット・スコアをそれこそポケットに忍ばせて出掛けたのですが、この譜面、音として聴くよりも目で見た方が遥かに“しゅーべるとッ”という感じがしました。
アレグロの第1楽章も、同じくアレグロの第4楽章も、見ただけでシューベルト丸出しの四重奏。これに凄みが加わってくると、後期の悪魔的なシューベルト世界が現出してくるのです。
エクは今年、シューベルト作品を様々場面で取り上げることが予定されており、初期四重奏をいくつかレパートリーに入れる絶好の機会になりそう。

前半の締めは、モーツァルトの最高傑作の一つ。第1回は「春」を取り上げましたが、今回は「狩」。このシリーズは何回続くかは分かりませんが(次回はプロシャ王2番で決定)、ハイドン・セットに後期の4曲を加えた10曲が完奏されることを期待しましょう。
それにしても狩、トラディショナルながら瑞々しく、大人のモーツァルト感が横溢した素晴らしい演奏でしたね。

さて後半は、クラリネットとのコラボレーション。以前のシリーズ、クァルテット+にも通ずる選曲です。
先ず演奏されたのは、モーツァルト時代のクラリネットの名手で、作曲家でもあったアントン・シュタードラーの作品。本来はクラリネット2本のために書かれた6曲から成る二重奏曲集から、第1番の第1楽章がヴィオラとの二重奏版で演奏されました。
当初は全4楽章が取り上げられる予定だったようですが、時間の関係でしょう、第1楽章に相当するモデラートだけの演奏。解説にもありましたが、ヴィオラに置き換えられたのは2番パートだったそうです。

シュタードラーは身持ちが悪い男だったようで、浮気はするわ借金はするわ。何でもモーツァルトから又借りしていたという逸話をどこかで読んだような記憶があります。
但しクラリネット演奏はぴか一で、特に低音の表現に長けていて、バス・クラリネットはこの人の発明、という話も何処かで見たような・・・。その「低音の魅力」は、最後のクラリネット五重奏曲で十二分に聴くことが出来ます。

今回のクラリネットは、第9回日本・管打楽器コンクールで第1位を獲得した澤村康恵。去年まで新日フィルに在籍していましたが、現在はソリスト、室内楽奏者として活躍中。沖縄でも教鞭をとっておられるようです。
この日は舞台中央にクラリネットが座り、その左右をいつもの並びで弦楽四重奏が囲むスタイル。クラリネット五重奏と言っても、いくつかの配置方があるようです。(サルビアで聴いたウェーバーは、クラリネットが最右端に座っていました)

モーツァルト最晩年の五重奏については、敢えて付け加えることも無いでしょう。借金に苦しんでいたモーツァルトを微塵も感じさせない天衣無縫にして深い世界。熟達した名手たちの合奏に、時を忘れた午後でした。良い曲だな、と言うに尽きます。
この名作の後にアンコールは不要でしょうが、彼らは同じ作品から第3楽章メヌエットをカット・ヴァージョン(第1トリオを省略)で演奏し、客席から万雷の拍手を浴びていました。

 

 

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