第2回ながらの春 室内楽の和・音楽祭

4月の第1週、新年度に合わせるように新しい音楽祭がスタートしました。場所は千葉県長生郡長柄町、このロケーションについては2年前、2015年の演奏会カテゴリーで二度ほど紹介したことがあります。
「第2回」と謳われていることについては後述することにして、千葉の長柄町は房総半島のど真ん中。知る人ぞ知る千葉の隠れ里なのであります。

何故ここで音楽祭が開かれるのかというと、そもそもこの地に10年ほど前に移ってこられた音楽の伝道者たる日比野和子氏が「長柄の四季音楽祭」という地道な活動をされてきました。
同じく長柄にゴーシュ音楽院を開いた大友夫妻とが意気投合、この地でクァルテット・エクセルシオの演奏会を開くようになったのが「室内楽の和・音楽祭」の始まり。

コンサートは隔日の3日間、次の日程でリソル生命の森にある真名カントリークラブの特別室で数々の室内楽の名作が演奏されました。真名は「まんな」と読みます。
長柄には今回の会場の他、ゴーシュ音楽院のホール、200名ほどが収容できる森のホールなどコンサートが可能なスペースがいくつも点在しており、静かな環境、豊かな自然の中でクラシック音楽に耳を傾けるには絶好のロケーションと言えるでしょう。
今回の会場はゴルフコースを所有するカントリークラブの中にありますが、そのご厚意によって会場が提供され、コンサート後の懇親会にも特別な配慮が行き渡っていました。

4月5日(水)14時開演

シューベルト/弦楽四重奏曲第7番
シューベルト/弦楽四重奏曲第8番
     ~休憩~
シューベルト/弦楽四重奏曲第14番「死と乙女」
 クァルテット・エクセルシオ

4月7日(金)14時開演

モーツァルト/ケーゲルシュタット三重奏曲
ベートーヴェン/ヴィオラとチェロのための二つのオブリガート眼鏡付き二重奏曲
シューマン/幻想小品集
     ~休憩~
ブラームス/クラリネット三重奏曲
 大友肇(チェロ)、高橋梓(ヴィオラ)、大和真弥(クラリネット)、荘司成子(ピアノ)、野本哲雄(ピアノ)

4月9日(日)11時開演

モーツァルト/フルート四重奏曲第1番
シューベルト/弦楽四重奏曲第12番「断章」
プロコフィエフ/フルート・ソナタ
     ~休憩~
シューマン/ピアノ五重奏曲
 クァルテット・エクセルシオ、山野雅美(フルート)、上野範子(ピアノ)、野本哲雄(ピアノ)

会場の最寄り駅はJR外房線の誉田駅。千葉駅からは4つ目です。誉田駅からは無料送迎バスが運航されていて(運行ダイヤがあり、ネットでダウンロード可能)、駅前からバスに飛び乗って「トリニティ書斎前」で下車。更にゴルフ場までは別の無料シャトルバスがあり、これは柔軟に運航されている様なので、音楽祭に参加する人は適宜会場にピストン輸送される仕組み。
帰りもほぼ同じスタイルで、JRの運賃以外に交通費は掛かりません。電車から2つのバスは雨が降っても濡れることなく移動でき、実際に9日は結構な雨降りでしたが、傘の出番はほとんどありませんでした。

もちろん車で来られる方もあり、出発点によって何通りかのルートがあります。
私共は初日の5日と、最終日の9日を聴きましたので、その模様を簡単に紹介しておきましょう。

冒頭、音楽祭の開会に先立って大友肇チェロが挨拶、音楽祭開催の由来と経緯が紹介されました。それによると去年、エクはサントリーのチェンバー・ミュージック・ガーデンでベートーヴェンの弦楽四重奏曲全曲演奏に挑戦した際、それに先立ってゴーシュ音楽院ホールで同じプログラムで演奏会を開催、つまり試し弾きのコンサートをやったワケ。
その5回シリーズを弾いているうちに、聴かれている方々から“これはもう、音楽祭じゃん”という指摘があったとのこと。弦楽四重奏を継続していくグループにとって自前の音楽祭を持つことは夢でもあり、モチベーションを持ち続ける究極の場。エクにとって音楽祭は最終着地点とでも言える存在でもあります。
これに開眼した大友チェロ、早速ゴーシュ音楽院の講師諸氏に声を掛け、実現の運びになったのが当音楽祭。第2回としたのは、2016年のベートーヴェン全曲を第1回として格上げしたからで、公式に「おんがくさいッ」と宣伝したのは今年からであります。

会場の特別室は小振りな結婚式でも出来そうな四方が閉鎖された空間で、床には絨毯がビッシリ敷かれており、いつも聴く床が木のホールとは違った響きを楽しめます。ここに初日は40席ほど、最終日は80席以上が演奏者たちと対峙するように椅子がセットされていました。(席は自由席)
普通に広い空間なので、奏者の位置はどのようにもアレンジ可能。編成によって、気分によって様々な配置が考えられるでしょう。それは3回・4回と進むに従って試行錯誤されていくものと思慮します。

演奏の細部は触れませんが、オール・シューベルトの初日では作曲者の成長の跡がハッキリと聴き取れ、3日目は作曲家の個性の違いが素人にも明瞭に伝わってきました。奏者たちの息遣い、アイ・コンタクトが間近に感じられることの効果がテキメンなのでしょう。
特にシューベルト「断章」での最後の和音に全身全霊を込めたチェロの意気込み、シューマンでの完璧なバランスと熱い演奏には圧倒されました。なお3日目、プロコフィエフのピアノ(ヤマハ・ピアノ)は上野氏が、シューマンのピアノは野本氏が担当。

コンサートの後は同じ階にあるより広い部屋に移動、各日共ケーキとお茶が供されました。これが中々のもので、これで一般3000円というのはかなりお得なコンサートでもあります(3日間通し券は8000円)。
この時間にも演奏者たちによるオマケ演奏があり、3日間とも別々のアンコール?が数曲づつ演奏されました。(2日目は聴いていませんが、多分同様だったと思います)

その詳細を記録しておくと、初日は弦楽四重奏によるエルガー(愛の挨拶)、ヴィヴァルディ(四季の春から第1楽章)、日本民謡の八木節(幸松肇編曲に更にエクが掛け声を追加した版)、季節柄の日本古謡「さくらさくら」が。
3日目はフォーレ(子守歌をチェロ版で、大友/野本デュオ)、シベリウス(「モミの木」を上野ソロで)、ヘンデル(歌劇「リナルド」から涙の流れるままに、を山野/上野デュオで)、ドヴォルザーク(ピアノ五重奏曲の第3楽章スケルツォ、エクと野本)を。

大友氏によると、今回のオマケ演奏はリハーサル禁止だったそうで、ほとんどが即興に近い演奏。しかしこれ等が部屋と聴き手の雰囲気に見事に合致していて、忘れられない時間になったのは、表現は下世話なれど、大変な儲け物になっていました。
折角のオマケ、今回の数曲を後日コッソリ録音して来年の音楽祭の引き出物にでもすれば、素敵なスーヴェニアになること間違いなし。なぁ~んて事も妄想してしまうほど素晴らしいオマケ。何なら2000円くらいで来年の会場で特別に売っても良いんじゃ?

ということで音楽祭の締めは、出演者全員による古謡「さくら」。弾き進めるうちに、聴いているファンからは合唱も起きる盛り上がりでした。
初日には名誉会長の称号を贈っても良いほどの日比野氏も挨拶。氏とエクの出会いがユーモアたっぷりに語られましたが、その内容は諸方面に差支えもあり、聞いた人たちだけの秘密にしておきましょう。

来年はどんなサプライズが待っているか、楽しみな音楽祭のスタートです。

 

 

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