日本フィル・第689回東京定期演奏会
4月の日本フィルは、今シーズン(秋からスタート)から首席指揮者に就任しているインキネンのブラームス・ツィクルスが話題。4月の東京と横浜、5月の横浜定期でツィクルス3回が完成し、交響曲全曲と悲劇的序曲が取り上げられます。
私の様に東京も横浜も定期会員という常連は完走が確定していますが、どちらか一方だけの会員は1回券をゲットする必要があります。特にツィクルス・セット券は用意されていないと思いました。折角の機会、この辺りは一工夫あっても良かったかも。
日フィルの公式ツイッターではブラームス交響曲の人気投票なども行われていたようですが、第1位は予想通り第1番。私が最も好きな第3番は最下位で、これまた想像通りの結果でしたね。
かつて某指揮者が九州ツアーに第2番を希望した所、“ダメです。第1番以外はお客が入りませんから”と断られたのは有名な話。でも、何で1番なんでしょうか。その1番は5月20日に横浜定期で、最終回として取り上げられます。
ということで昨日は人気下位の第一弾を聴きに出掛けましたが、サントリーホールが改修中の春、4月は渋谷のオーチャードホールが開場でした。東京でのプログラムは、
ブラームス/交響曲第3番
~休憩~
ブラームス/交響曲第4番
指揮/ピエタリ・インキネン
コンサートマスター/木野雅之
フォアシュピーラー/千葉清加
ソロ・チェロ/辻本玲
プログラム・ノートを書かれた奥田佳道氏によると、日フィル首席指揮者就任に際してインキネンは、“ドイツ・ロマン派の音楽を提案しました。基本であり、すべて。オーケストラの向上に必要です。”とのこと。
ここまで共演してきたワーグナー、ブルックナー路線を更に深化させ、日フィルの看板にドイツ音楽を据えようとするインキネンの意図が明確に示された演奏で、それ以上付け加えることの無いブラームスを聴くことが出来ました。
いつものように弦は対抗配置。舞台下手にコントラバスが座るため、ホルン軍は上手奥。インキネンのドイツ音楽はこのスタイルで定着しました。
予想通りテンポは決して速くはなく、かと言って遅すぎることも無い。つまり中庸の速度で、ハッタリも外連味も排した正統派、トラディショナルなドイツ音楽。今時のドイツ人指揮者でも躊躇うようなブラームス、とでも言いましょうか・・・。
第3番の第1楽章提示部も指示通り繰り返し、完全無欠なブラームスですぞ。
インキネンは弦楽器出身の指揮者らしく、特に弦の歌わせ方や演奏スタイルにも細かな配慮を見せます。例えば第3楽章フィナーレのコーダでは、舞台前面に並ぶ奏者全員が弓を上下させる視覚的効果。
そして第4番第2楽章の冒頭でも、全員が弓を置いてピチカートで合奏する姿も「絵」となり、聴き手にオーケストレーションの秘密が「見えてくる」という具合。
以上で今定期の感想はお仕舞ですが、やはりホールと渋谷についても一言触れておきましょうか。
実はオーチャードホール、私は何度聴いても、どの席で聴いても好きになれません。これは好みの問題ですから議論にはなりませんが、私の耳には何ともモヤついた音にしか聴こえない。いくら舞台の近くで聴いても音は遠く、ステージの床面が高いためもあって、舞台と客席の間に親密感が生まれない。
ここのフランチャイズだった東フィルも尾高時代、大野時代を通して何度も通いましたが、この印象は変わりませんでした。
現在は錦糸町に移った新日フィルも、小澤征爾聴きたさに10年間ほど定期会員(当時はオーチャードが会場だった)を続けていましたが、小澤の音楽を含めて一度も感動したことはなく、結局は会員を辞めてしまいました。
その後も何度かこのホールで聴く機会があったし、これからもあると思いますが、悩ましいのはホールの響きでしょう。
今回も感想は変わりませんが、そうした不満も第3番の第1楽章提示部辺りまでで、リピートされる頃からは演奏がどう、表現が如何にという方向に感心も移り、それなりにインキネンのブラームスを満喫したことだけは告白しておきましょうか。
ただ、これがサントリーホールだったらな、と感じたのも事実。
次は渋谷。
この街も、私は好きになれません。今回のような「用事」がなければ行くことすら避けている自分ですが、多分5年振り位に渋谷に降り立って、その印象は益々酷くなりました。外国人観光客がスクランブル交差点でスマホを翳す姿は異様。
何も外国人がイヤだ、というのではありませんよ。イギリスにもドイツにも出掛けましたが、渋谷の様な光景はロンドンでも、フランクフルトでも見られません。世界の渋谷は特殊ワールドで、クラシック音楽を聴く街とは思えないのです。
演奏会が終わってからは知人と渋谷談議、オーチャード論になりましたが、同じような感想を抱いている人が多いようでした。
この街にはかつて渋谷公会堂という施設があり、私はそこで動くフルトヴェングラーを見たことがあります。もちろん映画で、ザルツブルグ音楽祭でのドン・ジョヴァンニの記録映像。
ビデオもDVDも無かった当時は入場料を支払って鑑賞したものですが、序曲が終わったあたりでフィルムが切れ、結局は日時を改めて再上映に。フルトヴェングラーの姿は序曲しか出てきませんから、1回の入場料で2度も見れて得した気分になったものでしたっけ。
渋谷公会堂の先にNHKが移って来、N響の定期会場も現NHKホールに替わりました。上野時代から地方転勤中もN響の定期会員だけは続けていましたが、久し振りの東京でN響を楽しみにしていた新ホールで聴き、唖然。
即行でN響定期会員を辞めたのも、ここ渋谷でした。渋谷で演奏を続けるN響って、何と可哀そうなオーケストラでしょう。
その昔は日フィルが東急ゴールデンコンサートと称するコンサートを続けていたホールもありましたし、若い頃は良く通った道玄坂のヤマハ渋谷店、文化村通りにあったHMV、果ては宮益坂にあった志賀昆虫社も、み~んな今は無く、出てくるのは昔の思い出話ばかり。
異空間渋谷、生きている間にあと何度足を運ぶことか・・・。
最近のコメント