2017ダービー(東京優駿)馬のプロフィール

アイルランドのギニーが共に英愛ダブルとなったため、今回のプロフィールは藤沢和雄/クリストフ・ルメールのコンビにオークス/ダービー・ダブルをもたらしたダービー馬レイデオロの血統プロフィールです。
レイデオロは、父キングカメハメハ、母ラドラーダ、母の父シンボリクリスエスという血統。

一般の競馬紙などで紹介されているかは知りませんが、レイデオロはダービー馬に相応しい馬名、血統の持ち主と言えるでしょう。先ずそれを大書しておきたいと思います。
この馬の馬名ですが、海外のメディアは何処も「Rey de Oro」と記しています。この名前は、主に南米を中心に少なくとも5頭は前例があり、日本ダービー馬レイデオロは敢えて6世と称号しても良さそう。
「Oro」は「金」、「Rey」はハワイに行くと歓迎のために掛けてくれる「レイ」ととっても良いのでしょうが、ここはやはりスペイン語の「王」を採るべきでしょうネ。

また母「La Dorada」とは「金色の」を意味するスペイン語で、「オロ」は母から、「レイ」は父キングカメハメハからの連想で命名されたと想像します。「金の王」、何ともダービー馬に相応しい馬名じゃありませんか。
英国には“名馬は優れた馬名を持つ”という格言がありますが、レイデオロは正にそれ。オルフェーヴルの時にも同じことを書いた覚えがありますが、先ずは命名者に喝采を贈りたいと思います。

同じく英国の競馬格言、“ダービー馬はダービー馬から”という意味でも、父に続いて日本ダービーを制したレイデオロは血統愛好家には堪えられない結果だったと申せましょう。
それは母系にも言えることで、それが本記事のテーマ。早速取り掛かることにします。

さてレイデオロと言えば、3代母がウインド・イン・ハー・ヘア Wind in Her Hair (1991年 鹿毛 父アルゼーオ Alzao)であることを知っていたファンも少なからず存在していたと思います。
残念ながら当日のテレビ中継で触れた方はおられなかったようで、マスコミの話題は馬券が当たったとか、惜しかったということが中心。専門家と思しき諸氏も同じでしたが、そろそろGⅠレースの際には血統的背景についてのコメントを発してくれるスペシャリストが欲しい所だと思うのですが・・・。

ウインド・イン・ハー・ヘアが日本に輸入されたのは1999年。正に世紀の変わり目の事で、彼女の輸入が日本の競馬を変えたと言っても良い事件じゃないでしょうか。
今回は前半に3代母が輸入されてからのファミリーの展開を、後半はそれ以前の海外での実績を紹介していくというスタイルを採ることにしました。

ということで、ウインド・イン・ハー・ヘア。彼女は現役時代、英国でジョン・ヒルズ師が調教し、殆どのレースでリチャード・ヒルズが騎乗しました。
ややこしい話ですが、ジョンとリチャードは兄弟で、リチャードは同じくジョッキーのマイケル・ヒルズと双子で、彼らの兄がジョンに当たります。またジョン、リチャード、マイケルの父が有名な調教師バリー・ヒルズで、単に「ヒルズ厩舎」とか「ヒルズ騎手」と言うと混乱が生じますので要注意。

ウインド・イン・ハー・ヘアは3歳の春にリステッド戦に連勝して英オークスに挑戦。4番人気ながらバランシン Balanchine の2着して注目されます。因みにこのオークス、バランシンに騎乗していたランフランコ・デットーリは、これが英国クラシックの初制覇という記念すべきレースでもありました。
続く愛オークスでも4着となったウインド・イン・ハー・ヘアでしたが、その後はオークス2着馬にとしては不振が続き、シーズンを終えます。最初に競りに出た時から何度もオーナーが代わった同馬、オークスの際のオーナーだったビル・タロック氏がその年の12月に死去するという不運も重なります。
再びオーナーが何度か変更され、4歳の8月にはドイツに遠征してGⅠ戦のアラル・ポカル(2400メートル)に優勝します。これが彼女の3勝目で最後の勝鞍となりましたが、ここではスタセリタの父モンスン Monsun を破っての勝利。しかも日本では考えられないことですが、既に春に種付けしたアラジ Arazi の仔を宿してのGⅠ勝ちだったのです。

翌春は出産のため引退、初仔のグリント・イン・ハー・アイ Glint in Her Eye を産みました。これが1996年のことで、ここから4年間は繋養地のアイルランドで産駒を出しますが、上記の様に1999年に日本に輸出、ノーザンファームで繁殖牝馬として脚光を浴びることになります。
ウインド・イン・ハー・ヘアには10頭の重要な産駒がありますが、ステークス勝馬は6頭。記憶のためにそれを生年順に並べると、

①ヴェイル・オブ・アヴァロン Veil of Avalon 3歳までは英国でロジャー・チャールトン師が管理し3勝。4歳以降アメリカに転じてクリストフ・クレメント厩舎に所属し、5歳時にガルフストリーム・パークでド・ラ・ローズ・ハンデ(芝GⅢ、8.5ハロン)に優勝。
②ブラックタイド 早来産でスプリング・ステークスに優勝。きさらぎ賞2着から皐月賞は16着。
③ディープインパクト 説明の必要なし。三冠馬でGⅠ7勝の日本最強馬。日本の競馬を様々な視点から変えた功労者と言うべきか。
④ニュービギニング ホープフル・ステークス(中山2000メートル)、松籟ステークス(京都2400メートル)勝馬で、皐月賞15着。
⑤トーセンソレイユ エルフィン・ステークス(京都1600メートル)、パール・ステークス(京都1800メートル)勝馬で、桜花賞7着、オークス15着。
⑥モンドシャルナ 筑後川特別(小倉2000メートル)勝馬で現役。

もちろん以上が全てではなく、その娘たちが日本で「ウインド・イン・ハー・ヘア」系を広げつつあり、もちろん現在進行形。現時点では5頭の娘から特別以上の勝馬が出ており、その娘たちも生年順に列記すると、

⑴グリント・イン・ハー・アイ アラル・ポカルを勝った時にお腹にいた娘で、彼女はジャージー・ステークス(GⅢ)とサンダウン・マイル(GⅡ)に勝ったジェレミー Jeremy を出したあと日本に輸入され、テレ玉杯(東京ダート1600メートル)と麦秋ステークス(東京ダート1600メートル)に勝ったティアブリーオの母となる。
⑵ヴェイル・オブ・アヴァロン 既に紹介した①で、母としては野路菊ステークス(阪神1800メートル)、大原ステークス(京都2000メートル)、ジューンステークス(東京1600メートル)、カシオペアステークス(京都1800メートル)、都大路ステークス(京都1800メートル)勝馬で皐月賞6着、ダービー12着のリルダヴァル、
セントポーリア賞(東京2000メートル)、芦ノ湖特別(東京2400メートル)、御堂筋ステークス(阪神2400メートル)、日本海ステークス(新潟2200メートル)、メトロポリタンステークス(東京2400メートル)勝馬で菊花賞11着のヴォルシェーブを輩出。この馬はダービーと同じ日の目黒記念で2着しましたっけ。
他にアメリカで産んだマシュール Mashhuur も輸入され、マカオジョッキークラブトロフィー(中京1200メートル)と仲春特別(阪神1400メートル)に勝ったセンセーションを出す。
⑶レディブロンド 後述
⑷スターズ・イン・ハー・アイズ Stars in Her Eyes は若駒ステークス(京都2000メートル)のアインラクス、黄菊賞(京都1800メートル)のダノンパッションを出し、娘のプレザントプリーズも萩ステークス(京都1800メートル)勝馬で皐月賞10着プラチナヴォイスの母。
⑸ライクザウインド 早来産で、国東特別(小倉2000メートル)と夕月特別(阪神1800メートル)に勝ったハワイアンウインドを出し、
娘のレディスキッパーがメルボルントロフィー(京都2200メートル)、恋路が浜特別(中京2000メートル)、伊勢志摩サミット開催記念(京都2400メートル)のグランアルマダと、百日草特別(東京2000メートル)、クイーンステークス(東京1600メートルGⅢ)に勝ち、正に今年の桜花賞12着、オークスではソウルスターリングの3着したアドマイヤミヤビとを産みました。

上記1998年生まれのレディブロンド(鹿毛 父シーキング・ザ・ゴールド Seeking the Gold)こそがレイデオロの2代母で、藤沢和雄師が管理し、5歳になってデビュー。いきなりTVh杯(函館1200メートル)、下北半島特別(函館1200メートル)、長万部特別(函館1200メートル)、TVh賞(札幌1200メートル)、セプテンバーステークス(中山1200メートル)と無傷で5連勝し、スプリンターズステークス(GⅠ)で4着したのは記憶に新しい所でしょう。
僅か6戦5勝で引退したレディブロンドが2番仔として産んだのが、レイデオロの母ラドラーダ(2006年 青鹿毛)。ラドラーダも藤沢和雄師が調教し、3歳時にユートピアステークス(東京1600メートル)に勝った他18戦4勝で引退。

ラドラーダの初産駒ティソーナも現役、現時点では9戦3勝でマーガレットステークス(阪神1400メートル)に勝っていますし、レイデオロはラドラーダの2番仔で2頭目の勝馬。未だ未だ楽しみな弟・妹が続いてくると思います。
またレディブロンドにはラドラーダの1年下にスペシャルウィーク産駒のゴルトブリッツがおり、門司ステークス(小倉ダート1700メートル)、仁川ステークス(阪神ダート2000メートル)の特別レースの他、アンタレスステークス(GⅢ)2回、大井の帝王賞(2000メートル)に勝ったことは言うまでもありません。

以上が、些か細かくなりすぎましたが、レイデオロの牝系の日本での広がり。続いて後半、このファミリーの海外での活躍馬を見て行きましょう。
後半については、前半で相当勢力を使い果たしてしまったので、GⅠ馬とGⅠ級の馬に限って観察していくことにします。

ウインド・イン・ハー・ヘアの母バークレア Burghclere (1977年 鹿毛 父バステッド Busted)はエリザベス女王の持ち馬で、6戦1勝。3歳時にアスコットのオークスとも呼ばれるリブルスデール・ステークス(GⅡ)で4着でした。
次にバークレアの母、つまりレイデオロの5代母が極めて重要なハイクレア Highclere (1971年 鹿毛 父クイーンズ・ハザー Queens Hussar)で、女王の勝負服で英1000ギニーと仏オークスを制したダブル・クラシック馬。

ハイクレアの娘ハイト・オブ・ファッション Height of Fashion はフィリーズ・マイルに勝ったGⅠ馬で、その仔ナシュワン Nashwan は2000ギニーとダービーに勝った二冠馬。加えて3歳でエクリプス・ステークスとキングジョージも制した同世代の最強馬でした。
ハイト・オブ・ファッションにはヨーク・インターナショナル、チャンピオン・ステークス、プリンス・オブ・ウェールズ勝馬のナイェフ Nayef もいる他、娘からは1000ギニーとコロネーション・ステークスのガナーティ Ghanaati 、2代孫にBCフィリー・アンド・メア・ターフとフラワー・ボウル・インヴィテーショナルのラフドゥード Lahudood も出ています。

ハイクレアの別の娘ハイブロウ Highbrow は、娘リクエスト Request を介してコロネーション・カップと仏セントレジャーに勝ったステイヤーのアスク Ask もいます。

更に遡ってハイクレアの母ハイライト Highlight (1958年 鹿毛 父ボリアリス Borealis)にまで辿り着くと、その子孫たちからはロッキンジ・ステークスのフライ・トゥー・ザ・スターズ Fly to the Stars 、コロネーション・ステークスのフォールン・フォー・ユー Fallen For You 、そして去年のフランス2冠牝馬ラ・クレッソニエール La Cressonniere が登場してきます。
ラ・クレッソニエールについては、去年の血統プロフィールに詳しく書きました。それはこちらを参考にしてください。

2016クラシック馬のプロフィール(3)

更に上は1000ギニーのハイべりカム Hypericum であり、キングジョージのオリオール Aureole 、1000ギニーのペッブルス Pebbles を産んだ牝系。
ファミリー・ナンバーは2-f。1804年生まれのヒアシンサス・メア Hyacinthus Mare を基礎とする牝系です。

 

 

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