驚愕のダービー

先ほどエプサム競馬場からダービーの結果が飛び込んできましたが、何と表現したら良いのでしょうか。勝ったのは人気が後から3番目の大穴、いや大穴というより「驚穴」とでもいうべきか。

6月3日のエプサム競馬場は二日目、競馬の頂点ダービーの前にG戦2鞍も行われましたが、先ず吃驚ダービーから紹介しましょう。
今年のダービー Derby (GⅠ、3歳牡牝、1マイル4ハロン6ヤード)はレース前から大混戦、ここ数年では最もオープンなダービーと言われてきました。オープン、つまりどの馬にもチャンスがあるということですが、それでも“これだけはいらないでしょ”という馬も何頭かはいました。実は、勝ったのはそう思われていた1頭だったのです。

オークスの嵐が嘘のような好天、馬場は good 、所により good to firm と回復。枠順を紹介した19頭の中から、自重したのか未勝利牝馬ディオーレ・リア Diore Lia が最後は取り消して18頭立てとなりました。
1番人気は、前評判通りフランケル Frankel 産駒で2戦2敗、5頭出しゴスデン厩舎からデットーリが選んだクラックスマン Cracksman で7対2。6頭出しオブライエン厩舎からムーアがチョイスしたクリフス・オブ・モハー Cliffs Of Moher は5対1、最終的にはエミネント Eminent と並んで2番人気で続きます。しかし両馬とも断然の成績とは言えず、何となく波乱も予測できたダービーではありました。

逃げたのはオブライエン厩舎のペースメーカーで、11番人気(25対1)だったダグラス・マッカーサー Douglas Macarthur 、クラックスマンは5番手、クリフ・オブ・モハーは後方14番手でタテナム・コーナーを回り、直線へ。
直線半ば、ダグラス・マッカーサーは単なるペースメーカーではなく、あわよくば逃げ切ろうという先行馬。未だリードを広げていた逃げ馬も遂に力尽き、馬場の中央から王道を通って抜け出したのがクラックスマン。しかしそれと同時に鋭い末脚で外から一気に本命馬を捉えたのがクリス・オブ・モハー、この時点ではムーアとデットーリの1・2着と見えましたが、更に外から急襲したのがスタートでぶつかって最後方に下げ、後方3番手でタテナム・コーナーを回った16番人気(40対1)のウイングズ・オブ・イーグルス Wings Of Eagles
残り1ハロンでも7番手で追っていたウイングズ・オブ・イーグルスが、スタンドも息を呑む劇的な結末を制し、同厩の主将クリフ・オブ・モハーに4分の3馬身差を付けていました。最後の50ヤードで疲れたクリフ・オブ・モハーを再び追い詰めたクラックスマンが首差の3着、以下エミネント4着、9番人気(20対1)のベンバトル Benbatle 5着と、勝馬以外は混戦にしては順当な結果と言えそうです。エイダン・オブライエン厩舎はワン・ツーとなりましたが、この形は流石のオブライエン師も想定していなかったでしょう。

オブライエン師はダービー6勝目ですが、これほど人気のない馬が勝ったのは、1974年に50対1で制したスノー・ナイト Snow Knight 以来のこと。勝馬の父は2011年のダービー馬プール・モア Pour Moi で、あの時も劇的な追い込みと、ダービー初騎乗で制覇した喜びの余りゴール直後に思わず立ち上がってガッツ・ポーズを決めたミケール・バルザロナを思い出す瞬間でもあります。
後で顰蹙を買ったバルザロナとは違い、今回は同じダービー初騎乗で初勝利のパドレイグ・ベギー Padraig Beggy 騎手は遥かに冷静に見えました。今年31歳、オーストラリアで騎手デビューしましたが、コカイン使用が露見して2014年は1年間の騎乗停止処分になった経歴も。
処分の明けた2015年からヨーロッパでライセンスを取り、オブライエン厩舎の元で研鑽を積みながら今回がダービー初騎乗。今年はアイルランド1000ギニー・トライアルをハイドランジア Hydrangea で勝つなど8勝しかしておらず、本人も驚愕のクラシック初制覇となりました。

ウイングズ・オブ・イーグルスは、2歳時ゴウランのデビュー戦が7着。2戦目のキラニーで初勝利を挙げ、ニューマーケットのリステッド戦4着を経てクリテリウム・ド・サン=クルー(GⅠ)に挑戦して9着でシーズンを終えます。
今期はチェスター・ヴァーズ(GⅢ)から始動し、ダービーでは6番人気(12対1)で12着だったヴェニス・ビーチ Venice Beach の2着。ダービーが6戦目でしたが、ベギー騎手は同馬にレースでは初騎乗で、何と5人目のジョッキーでもありました。(これまでへファーナン、マクナマラ、ムーア、オダナヒューが騎乗し、その1勝はマクナマラ騎乗でのもの)
急成長した1頭であるのは間違いなく、マスコミでは“オブライエン厩舎の馬は、出てくる以上はチャンスがある。オッズは問題じゃない”というコメントも出たほど。ウイングズ・オブ・イーグルス、次は愛ダービーなのか、それとも・・・。突然のことで、陣営も暫く時間を置いて作戦を練り直すことでしょう。

ダービーは以上にして、その前に行われた2鞍をレポートしておきましょう。
プリンセス・エリザベス・ステークス Princess Elizabeth S (GⅢ、3歳上牝、1マイル113ヤード)は1頭が取り消して10頭立て。これがG戦初挑戦ながら、前日オークスをイネイブル Enable で制したゴスデン厩舎のラフ・アラウド Laugh Aloud が4対5の断然1番人気。
そのラフ・アラウドがダッシュ良く先頭に立ちましたが、1ハロン進んだところで4番人気(12対1)のティスバッタドリーム Tisbutadream が替わって逃げ、本命馬は3番手に控えます。しかしラフ・アラウドは力が違い、すんなり先頭を奪い返すと、先行から2番手に上がった3番人気(8対1)のアブソリュート・ブラスト Absolute Blast に5馬身の大差を付けて圧勝しました。逃げたティスバッタドリームが首差で3着。

オーナーの関係でジェームス・ドイルが騎乗したラフ・アラウドは、ゴドルフィン所有の4歳馬。3歳時4戦目にウインザーで未勝利を脱し、ニューマーケットのリステッド戦で2勝目。今期はケンプトンのリステッド戦5着のあと前走グッドウッドのリステッド戦に勝って2連勝。ここまでのレースは全てが1マイル戦でしたが、今回はやや距離が伸びてのG戦初勝利です。
ロイヤル・アスコットではデューク・オブ・ケンブリッジ・ステークス(GⅡ)に出走する予定で、オッズはレース前の16対1から一気に9対4へと急上昇しました。

エプサムのもう一鞍は、初代ダービー馬の名を冠したダイオメド・ステークス Diomed S (GⅢ、3歳上、1マイル113ヤード)。第1回ダービーは、そもそもこの距離でしたからね。ここも1頭の取り消しが出て7頭立て。今期ドバイのGⅠ戦に勝ち、イギリスでもG戦で連続入着しているゴドルフィンのフォークスウッド Folkswood が100対30で1番人気。
去年の3着馬ながら最低人気(16対1)のカスタム・カット Custom Cut が逃げ、フォークスウッドは2番手でマーク。残り2ハロン、予定通りフォークスウッドが前を捉えて先頭に立ちましたが、そこから様相は一変。中断4番手を進んでいた3番人気(4対1)のソヴリン・デット Sovereign Debt が抜けて先頭に立つと、後方から追い込む5番人気(7対1)のガブリアル Gabrial の追撃を何とか首差凌いでの優勝。半馬身差で5番手を進んだ2番人気(7対2)のオー・ディス・イズ・アス Oh This Is Us が3着に入り、フォークスウッドは5着に沈んでしまいました。

ラス・カー厩舎、ジェームス・サリヴァン騎乗のソヴリン・デットは、前走4月のサンダウン・マイル(GⅡ)に続いてG戦2連勝で、リングフィールドの条件戦を合わせて3連勝。GⅡ勝ちのペナルティー5ポンドを背負っていたため3番人気に落ちていましたが、負担重量を問題にしない連勝で、G戦はドバイを含めて4勝目となりました。
去年のこのレースにも出走していましたが、他馬とぶつかる不利もあって4着。8歳馬ながら次はGⅠ獲りと行きたいところですが、クィーン・アンもサセックスも登録がなく、秋のクィーン・エリザベス2世で挑むことになりそうです。

 

 

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