2017ロイヤル・アスコット初日

毎年同じような書き出しになりますが、今年もロイヤル・アスコットの季節がやってきました。英国人、特に上流階級はこの時期、ロイヤル・アスコットに行くかウインブルドンに出掛けるか迷うのだとか。
ウインブルドンは他のブロガーに任せておいて、こちらはアスコットから5日間亘るレポートと行きましょう。

毎年火曜日から土曜日までの五日間、ロイヤル開催ですから皇室は連日お出ましになり、女王陛下の服装の色までが賭けの対象となる紳士淑女の国でもあります。カジノの是非で論争になっている国とはどこか違うようです。
今年はG戦が一つ増え、全部で19鞍のG戦。金曜日に行われるクィーンズ・ヴァースが今年から一気にGⅡ戦へと格上げになりました。パターン・レース導入時からGⅢとリステッド戦を行ったり来たりしていたこのレース、パターン・レース委員会は長距離戦の重要さに改めて気付いたようで、ステイヤーに重点を置いて行く意向でしょう。
戦後はアメリカの影響もあって競馬はスピード化。賭けの視点からも、スポーツの観点からもスリルは増しましたが、サラブレッドのレヴェルは明らかに低下してきました。英国競馬の黄金時代は19世紀末から20世紀初頭だった、というのが当欄の見解でもあります。

この問題はこれだけにして、早速初日。例年通り1日6レース、第1レースから第4レースまでがG戦です。
good to firm の高速馬場で行われた6月20日の初日、皮切りはアスコットを拓いて競馬場を創設したアン女王に因んだクイーン・アン・ステークス Queen Anne S (GⅠ、4歳上、1マイル直線)。今年は強力な古馬マイラーが不在とあって16頭立ての大混戦。その中から前走ロッキンジ・ステークスを制したリブチェスター Ribchester が11対10の1番人気に支持されていました。

本命馬のペースメーカーを務める15番人気(150対1)のトスカニーニ Toscanini が逃げてハイペースで飛ばします。これをやや離れた3番手グループの前に付けていたリブチェスターが抜け出すと、一時外(スタンド側)に膨れる場面もありましたが、中団から追い込む2番人気(5対1)のムタカイェフ Mutakayyef に1馬身4分の1差を付けて人気に応えました。同じくメイングループから伸びた4番人気(12対1)のドーヴィル Deauville が首差の3着。
ハイペースと高速馬場も手伝って、勝時計1分36秒60はトラック・レコード、日本の1600メートルのタイムと比べると、如何に日英の競馬の質が違うかが分かろうというもの。

勝ったリブチェスターはリチャード・ファヘイ厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗の4歳馬で、ゴドルフィンがオーナー。今年はゴドルフィン総裁のシェイク・モハメド氏が英国で初めて勝ってから40年の記念の年。ロイヤル・アスコットの初戦に勝って競馬場もゴドルフィンを讃えた感がありました。
去年の2000ギニーで3着だったリブチェスター、去年のロイヤル・アスコットではジャージー・ステークス(GⅢ)に勝ち、夏のドーヴィルではジャック・ル・マロワを制してGⅠ馬に。今期はロッキンジに勝って、これでGⅠ戦2連勝、三つ目のGⅠ戦奪取となりました。夏のサセックス・ステークス(GⅠ)に6対4のオッズが出ましたが、その10日後には去年勝ったマロワ賞も控えています。モハメド総裁がどう判断するでしょうか。

第2レースは、今年最初の2歳G戦となるコヴェントリー・ステークス Coventry S (GⅡ、2歳、6ハロン)。毎年多頭数になることで知られていますが、今年は18頭立て。デビュー勝ちしたばかりの7頭を含め無敗馬が9頭も揃いましたが、前走カラーのリステッド戦を3馬身差で圧勝して2戦2勝のブラザー・ベアー Brother Bear が4対1の1番人気。
横一杯に広がるレースで、2戦無敗で6番人気(11対1)のデナー Denaar が逃げたようですが、中団を進んだ同じ6番人気のラジャシンガ Rajasinghe が残り1ハロンで先頭に立ち、4頭が頭・首・首でゴールに雪崩れ込む接戦を制して優勝。写真判定の結果、2着は13番人気(33対1)のヘッドウェイ Headway 、3着が3番人気(8対1)のムリーリョ Murillo で、人気のブラザー・ベアは一旦先頭に立つもスタンド側に寄れたのが響いて4着惜敗です。

ニューカッスルのオール・ウェザー・コースで4馬身差のデビュー勝ちしたばかりのラジャシンガ、去年開業したばかりのリチャード・スペンサー厩舎、若手の巣ティーヴィー・ダナヒュー騎乗で、調教師も騎手も共にロイヤル・アスコット初勝利と言う嬉しい驚きとなりました。
父ショワジール Choisir は、オーストラリアからロイヤル・アスコットにも遠征して注目された快速馬。勝時計の1分12秒39はコース・レコードと、2レース続けての快速決着でもあります。短距離馬というレッテルが張られそうですが、来年の2000ギニーに20対1のオッズが出されました。
馬名の Rajasinghe は読み方が難しいのですが、スリランカの王様に「Rajasinghe」という名前が見出されます。しかしオーナーの一人が「Raj」はオーナーの一人で友人と紹介していましたから、王様の名前ではないのかも。何れにしても馬主名義レベル・レーシングの構成メンバーが判りませんので、当分は「ラジャシンガ」と読んでおきましょう。

次もスピード競馬が期待される短距離GⅠのキングズ・スタンド・ステークス King’s Stand S (GⅠ、3歳上、5ハロン)。当然ながらコース一杯の多頭数で、1頭が取り消しての17頭立て。去年のアベイ・ド・ロンシャン賞(GⅠ)覇者で、今期もパレス・ハウス・ステークス(GⅢ)勝利でスタートを切ったマーシャ Marsha が11対4の1番人気。
飛び出したのは13番人気(66対1)のテイク・カヴァー Take Cover でしたが、スタンドに近い大外18番枠から出た2番人気(7対2)のレディー・オーレリア Lady Aurelia が残り1ハロンで抜け出すと、中団から進出した去年の勝馬で7番人気(14対1)のプロフィタブル Profitable に3馬身差を付ける圧勝となりました。人気のマーシャも中団から追い上げたものの頭差届かず3着。

レーディー・オーレリアは、去年のアスコット・レポートを読まれた方はご存知のように、2歳牝馬のGⅡ戦クイーン・メアリー・ステークス(GⅡ)を圧勝して英国ファンの度肝を抜いた牝馬。クイーン・メアリーに続いてフランス遠征、モルニー賞でGⅠ戦初制覇。秋のチーヴリー・パーク・ステークス(GⅠ)にも遠征して3着でしたが、今期はキーンランドのリステッド戦(ジャイアンツ・コーズウェイ・ステークス)に勝って始動、2戦目で再びアスコット後にアメリカの旗を翻しました。
調教するウェスリー・ワード師は「一生に一度の馬」と絶賛しています。次は再び英国遠征、ナンソープ・ステークスで三つ目のGⅠ制覇を目指すことになりそうです。

ところでレディー・オーレリア、当初はランフランコ・デットーリが騎乗する予定でしたが、先週のヤーマス競馬場で落馬負傷。日曜日の仏オークスにはシャッター・スピード Shutter Speed で4着と気丈な所を見せていましたが、痛みを堪えての騎乗だった由。数週間の休養が必要とのことで、今年のロイヤル・アスコットにデットーリの姿はありません。
ということで、今回は急遽アメリカからジョン・ヴェラスケスが呼ばれての騎乗。急な電話でニューヨークを飛び立ち、イギリスに着いたのは当日の朝とのことで、流石世界的一流ジョッキーと言ってしまえばそれまでですが、日本の騎手でも海外から急に依頼が舞い込めば本物。そうなれば日本のテレビも重い腰を挙げてロイヤル・アスコットの生中継を企画してくれるかも。私が生きている内に実現すれば奇跡でしょうがね。
レディー・オーレリアは調教ではライアン・ムーアが騎乗し、そのスピードに舌を巻いたそうな。しかしムーアにはオブライエン厩舎との契約があり、キングズ・スタンドではワシントン・ディーシー Washington DC (結果15着)に騎乗していました。

初日最後のG戦は、3歳馬マイル王決定戦のセント・ジェームス・パレス・ステークス St James’s Palace S (GⅠ、3歳牡馬、7ハロン213ヤード)。8頭が出走し、ここは英愛2000ギニー連覇のチャーチル Churchill が1対2の断然1番人気。相手になるのは英2000ギニーでは不利があって2着だったバーニー・ロイ Barney Roy しかいないという評価で、この馬が5対2の2番人気で続きます。
チャーチルのペースメーカーと目されるオブライエン厩舎の4番人気(12対1)ランカスター・ボンバー Lancaster Bomber が先手を取りましたが、2ハロン地点で5番人気(16対1)のリヴェット Rivet が替わって先頭に立っての逃げ。チャーチルは6~7番手を追走していましたが、先行グループに付けていたバーニー・ロイが抜け出し、再び盛り返したランカスター・ボンバーを1馬身抑えての逆転劇です。3番手を進んでいた3番人気(6対1)のサンダー・スノー Thunder Snow が頭差の3着に入り、精彩を欠いたチャーチルは4分の3馬身差の4着とショッキングな敗退に終わりました。

リチャード・ハノン厩舎、ジェームス・ドイル騎乗のバーニー・ロイは、2000ギニーの後じっくり調整し、ここの的を絞ってのGⅠ戦初制覇。シーズン初戦のグリーナム・ステークス(GⅢ)に続きG戦は2勝目ですが、未だ実戦そのものが4戦目。未だ未だ伸びしろがあり、エクリプス・ステークスや凱旋門賞にも登録がある由。距離挑戦はこれからですが、陣営は単なるマイラーとは見做していないようです。
そのオーナー、ゴドルフィンはクィーン・アンに続いてGⅠダブル達成、しかもセント・ジェームス・パレスは1・3着の結果を得ました。
一方、敗れたチャーチル、オブライエン師は敗因を明確にしていませんが、自厩ではランカスター・ボンバーには楽に先着しているとのことで、この日の高温と高速馬場がこの馬向きではないのでしょう。初日のハイライトは、チャーチル惨敗に尽きそうです。

さて、いつものように残りのレースについても簡単に触れておきましょう。
第5レースは2マイル4ハロンの長距離ハンデ戦、アスコット・ステークス Ascot S 。18頭の多頭数が揃いましたが、マリンズ厩舎でライアン・ムーア騎乗の1番人気(4対1)トーマス・ホブソン Thomas Hobson が人気に応え、2着に何と6馬身差を付けて圧勝しました。
この馬は冬場は障害レースにも走って(もちろん勝って)いる馬で、これが今期の平場初戦でもありました。日本では有り得ないタイプの1頭。

最終第6レースは2歳馬によるリステッドのウインザー・キャッスル・ステークス Windsor Castle S 。5ハロンに22頭が出走し、13対8の1番人気に支持されたオブライエン/ムーアのデクラレーションオブピース Declarationofpeace が22着最下位に敗退する波乱となり、16対1のサウンド・アンド・サイレンス Sound And Silence が優勝。
チャーリー・アップルビー厩舎、ウイリアム・ビュイック騎乗で、ゴドルフィンのワン・ツー・フィニッシュ。英国初勝利から40年記念となるゴドルフィン、初日はGⅠ戦2勝に加えてのハットトリックで、これ以上はない幸先良いスタートとなりました。

 

 

 

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