良血開花のエクリプス

今週のヨーロッパ競馬は、土曜日に英国でエクリプス・ステークス、日曜日にはフランスでジャン・プラ賞とGⅠ戦が続きます。昨日、7月8日はイギリスで合計3鞍のG戦が行われましたので、レース順にレポートしていきましょう。

先にサンダウン競馬場の2鞍。愈々夏競馬本番とあって馬場は goot to firm 、所によっては散水しても firm という高速馬場。短距離戦のザ・スプリント・ステークス The Sprint S (GⅢ、3歳上、5ハロン10ヤード)は1頭が馬場を嫌って回避し10頭立て。前走同じサンダウンの5ハロンで行われたリステッド戦に勝っているバターシュ Battaash が5対2の1番人気。
内ラチに近い2番枠からスタートしたバターシュ、すんなり先頭に立つと、同じく1番枠から出て本命馬を追走した9番人気(25対1)のミルザ Mirza を寄せ付けず、そのまま3馬身4分の1差の余裕を持っての逃げ切り勝ちでした。後方から追い込んだ4番人気(6対1)のゴールドリーム Goldream が更に3馬身差の3着。勝時計58秒57はコース・レコードでしたが、ヨーロッパでは時計は余り重要視されません。それでもレコードはレコードです。

勝ったバターシュは、チャールズ・ヒルズ厩舎、デーン・オネイル騎乗の3歳馬で、去年はコーンウォリス・ステークス(GⅢ)3着でシーズンを終了。冬の間に去勢手術を行って現在はせん馬。今期初戦が上記サンダウンのリステッド戦で、これで2戦2勝、G戦初制覇。ナンソープ・ステークス(GⅠ)のオッズはレース前の25対1から一気に8対1に上がりましたが、取り敢えずはグローリアス・グッドウッドのキング・ジョージ・ステークス(GⅡ)で着実にステップ・アップを目指すようです。

そしてエクリプス・ステークス Eclipse S (GⅠ、3歳上、1マイル1ハロン209ヤード)。スプリント路線はシーズン当初から3歳と古馬の混合戦が始まっていますが、中長距離ではこれが最初の古馬と3歳馬が激突する一戦。今年は古馬4頭対3歳馬5頭の9頭立てとなりましたが、今年のクラシック世代はダービーも勝馬がコロコロと変わり、そのレヴェルには若干疑問が持たれているようです。
それでも7対4の1番人気に推されたのは、英ダービー2着でオブライエン/ムーアのクリフス・オブ・モハー Cliffs Of Moher 。古馬を一蹴して3歳馬の名誉を高めたいところでしょう。

本命馬のペースメーカーを務める最低人気(50対1)のタージ・マハール Taj Mahar が逃げ、クリフス・オブ・モハーは先行抜け出しの構え。2番手を進んだ5番人気(10対1)のデコレイテッド・ナイト Decorated Knight が直線で先頭に立ちましたが、これを大外から捲る様に抜き去ったのが後方2番手を追走していた4番人気(8対1)のユリシーズ Ulysses
更に中団に付けていた2番人気(9対4)のバーニー・ロイ Barney Roy も追い上げて最後の150ヤードは2頭のマッチレース。先にリードを取ったユリシーズを外からバーニー・ロイがジワジワと追い詰め、最後は2頭が並んでのゴール。写真判定の結果、ハナ差でユリシーズ先着とアナウンスされました。
最後方から追い込んだ最低人気(50対1)のもう1頭、デザート・エンカウンター Desert Encounter が3馬身半差で3着に食い込みましたが、人気のクリフス・オブ・モハーは直線入口、外から追い上げるバニー・ロイに寄られて一気に後退し、再度盛り返したものの4着に終わっています。特に審議にはなっていません。

これが6度目のエクリプス制覇となるサー・マイケル・スタウト厩舎、ジム・クロウリー騎乗のユリシーズは、これがGⅠ戦初勝利となる4歳馬。3歳の時から血統の良さで注目され、ダービーでも人気になりながら12着に敗れていました。その後ゴードン・ステークス(GⅢ)でG戦初勝利を挙げ、BCターフにも遠征して4着。今期は初戦のゴードン・リチャーズ・ステークス(GⅢ)に勝ち、前走ロイヤル・アスコットのプリンス・オブ・ウェールズ・ステークス(GⅠ)では3着でした。
父はガリレオ Galileo 、母は2007年のオークス馬ライト・シフト Light Shift 、3代母が仏オークス馬ノーザン・トリック Northern Trick という名門中の名門で、オーナーは今年の仏オークスをセンガ Senga で制したニアルコス・ファミリー。オーナーについては今年のクラシック馬のプロフィール(7)で紹介しましたが、かつてスタヴロス・ニアルコス氏はヌレエフ Nureyev が2000ギニーで1着になりながら失格となった事に激怒、英国から全ての馬を引き上げてフランスとアイルランドに分散させた歴史がありました。
その後ニアルコス氏の怒りは幾分和らぎ、数少ないながらもスタウト師が管理してきたもの。今回の勝利は父の競馬サークルを受け継いでいるマリア・ニアルコスさんにとっても大朗報で、これで漸くニアルコス家の怨念が晴れたのではないでしょうか。ジャドモント・インターナショナルのオッズも上昇したようですが、陣営としては1マイル半の距離に更なる野望を抱いており、凱旋門賞かBCターフ再挑戦と言う路線が最も現実的なようです。

この日はもう一つ、ヘイドック競馬場でもランカシャー・オークス Lancashire Oaks (GⅡ、3歳上牝、1マイル3ハロン175ヤード)が行われています。オークスと言っても3歳・古馬の混合戦で、散水しても good to firm の馬場に1頭が取り消して7頭立て。去年のパーク・ヒル・ステークス(GⅡ)5着馬で、今期初戦にポンテフラクトのリステッド戦に勝ったアビンドン Abingdon が6対4の1番人気。
5番人気(11対1)のドゥブカ Dubka が逃げ、これを2番手でマークしたアビンドンが残り2ハロンで先頭に立ちましたが、先行していた2番人気(3対1)のザ・ブラック・プリンセス The Black Princess が前を塞がれる不利がありながらも抜け出し、本命馬に半馬身差を付けて優勝。中団から伸びた4番人気(6対1)のアジマン・プリンセス Ajman Princess が1馬身差で3着に入っています。

何とこのレース7勝目となるジョン・ゴスデン厩舎、ロバート・タート騎乗のザ・ブラック・プリンセスは、去年のリブルスデール・ステークス(GⅡ)3着の実績があり、今期初戦にフランスに遠征してアレ・フランス賞(GⅢ)に優勝。続いてヨークのミドルトン・ステークス(GⅡ)でも2着していた4歳馬です。2頭が参戦していた3歳馬は夫々4・5着に終わっており、エクリプス同様に今年は古馬が3歳馬を上回る結果となっています。
ゴスデン/タートのコンビはこの日、第1レースのハンデ戦にも勝ってダブル達成となりました。

 

 

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