2017グローリアス・グッドウッド初日

英国の夏と言えばパナマ帽、パナマ帽と言えばグッドウッドというワケで、今年も夏のグッドウッド開催、世に言う「グローリアス・グッドウッド」がスタートしました。
例年通り火曜日から土曜日までの5日間、施行されるG戦は13鞍で、今年は一部変更もありました。

ということで8月1日が初日、去年は初日のG戦が2鞍でしたが、今年は去年3日目に行われていたグッドウッド・カップが初日に移動し、しかもGⅠ戦に格上げされるという「事件」もありました。
馬場は good 、所により goot to soft と、例年の夏に比べると雨もあって高速馬場とは行きません。この辺りが微妙に結果にも影響したようです。いつものようにレース順に取り上げていくと、

第2レースとして行われたヴィンテージ・ステークス Vintage S (GⅡ、2歳、7ハロン)は、後のクラシック・レースで活躍した馬も多数輩出している2歳戦。今年は1頭が取り消して10頭立て。無敗馬が4頭出ていましたが、その中から6月のニューバリーでデビュー勝ちしたエクスパート・アイ Expert Eye が7対4の1番人気に支持されていました。
逃げたのは、やはり2戦2勝の無敗馬で6番人気(16対1)のコールド・ステア Cold Stare 。これを2番手で追走していた4番人気(8対1)のザマン Zaman が3ハロン地点から交わして逃げ込みを図りましたが、中団で待機したエクスパート・アイが残り2ハロンで一気に先頭に立つと、そのままザマンに5馬身半の大差を付けて堂々人気に応えました。先行していた2番人気(7対2)でこれも2戦無敗だったミルデンバーガー Mildenberger が4分の3馬身差の3着。

サー・マイケル・スタウト厩舎、アンドレア・アッゼニ騎乗のエクスパート・アイは、これで2戦2勝。圧勝だったことからブックメーカーも素早く反応し、来年の2000ギニーのオッズはレース前の20対1から一気に4対1へと跳ね上がりました。
前走ニューバリーではライアン・ムーアが騎乗し、事前の調教でもムーアは何度も騎乗して同馬の能力を讃えていたもの。ムーア自身はオブライエン厩舎の無敗馬シーヘンジ Seahenge (3番人気で5着)に騎乗していましたが、レース前にもアッゼニに色々アドバイスして勝利にも貢献していたようです。

続く第3レースも7ハロン戦、こちらは3歳上のGⅡ戦レノックス・ステークス Lennox S (GⅡ、3歳上、7ハロン)で、2頭が取り消して13頭立て。ここは今期3戦して未勝利ながら、去年のジュライ・カップとフォレ賞を制したGⅠ馬のリマート Limato が3対1の1番人気。3歳馬の挑戦は2頭でした。
2番人気(4対1)のホーム・オブ・ザ・ブレイヴ Home Of The Brave が逃げて快調なペース。そのまま逃げ切るかと思われましたが、後方に控えていた下から2番目の11番人気(50対1)ブレトン・ロック Breton Rock が外から圧巻の瞬発力を爆発させ、ゴール寸前でホーム・オブ・ザ・ブレイヴを半馬身捉えるサプライズとなりました。先行していた9番人気(25対1)のこれも伏兵スードア Suedois が短頭差で3着に飛び込み、リマートは中団から追い上げたもののハナ差の4着惜敗です。

勝ったブレトン・ロックはデヴィッド・シムコック厩舎、またもアンドレア・アッゼニ騎乗の7歳馬で、今期は初戦のロッキンジ・ステークス(GⅠ)で3着、続くジョン・オブ・ゴーント・ステークス(GⅢ)は5着でしたが、前走クライテリオン・ステークス(GⅢ)ではまた3着とそこそこ掲示板に絡んでいた1頭。ハンデ戦からリステッド戦、パターン・レースへと徐々にクラスを上げ、G戦はこれが4勝目となります。
去年の9月にドンカスター競馬場のパーク・ステークス(GⅡ)に勝ちましたが、アッゼニ騎手とのコンビはこの時から。前走こそオイジン・マーフィーが騎乗しましたが、それ以外は全てアッゼニが騎乗しており、馬の性格を手中に収めた同騎手のファインプレーと言えそうです。

初日の最後は、GⅠ戦に格上げされたグッドウッド・カップ Goodwood Cup (GⅠ、3歳上、2マイル)。そもそも英国のサラブレッドは「スピードとスタミナを兼ね備えた名馬」を生み出すことを目的として始まったもので、歴史の初期には長距離戦は重要な位置を占めていました。例えばボビンスキーがファミリーテーブルを作成した時にも、元も重要なレース(今日でいえばGⅠ級)として選んだレースの中に当然ながらグッドウッド・カップも選ばれていました。
それが戦後はアメリカ式の競馬スタイルが導入されたこと、時代そのものがスピードを重視するようになったこと、観客がよりスリリングな高速競馬を歓迎してきたことなどから次第にステイヤーが疎まれ、長期的にはサラブレッドのレヴェルが低下してきたのです。これは私の個人的な見解ですが、漸く英国の競馬権威組織もそれに気付き、今年のロイヤル・アスコット・レポートでも紹介したように、長距離戦を見直す動きになっていると思われます。
日本では競馬界も保守的な傾向が強く、現在まで菊花賞3000メートルを三冠の最終戦と位置づけ、天皇賞も春だけは3200メートルの長距離に拘ってきました。これが結果としては良い方向に作用し、日本のサラブレッドのレヴェル向上にも資することになった、というのが私の意見でもあります。

余談が長くなり過ぎましたが、閑話休題。パターン・レース・システムが導入されて初めてGⅠ戦として行われたグッドウッド・カップは、2頭が取り消して14頭立て。去年、一昨年とこのレースを2連覇し、先のロイヤル・アスコットでもゴールド・カップで死闘の末に勝利したビッグ・オレンジ Big Orange が6対4の1番人気。
その本命馬、いつものスタイルでスタートから最後までの逃げ切り策に出ましたが、中団グループの最後方に付けて機を窺っていた2番人気(6対1)で3歳馬のストラディヴァリウス Stradivarius が目標のビッグ・オレンジに忍び寄り、遂にこれを捉えると、最後は1馬身4部の3差を付けてビッグ・タイトルを獲得しました。後方から伸びた、これまた3歳馬で6陣人気(14対1)のデザート・スカイライン Desert Skyline が3馬身半差の3着に入り、2頭だけが参戦した3歳馬の健闘が光っています。

勝馬を管理するのはジョン・ゴスデン、騎乗したのは何と、この日のG戦を総なめしてハットトリックを完成させたアンドレア・アッゼニで、2着に敗れたランフランコ・デットーリも後輩を手荒く?祝福していました。もちろんビッグ・オレンジとストラディヴァリウスの間には13ポンド(7キロほど)もの負担重量差がありましたから、ビッグ・オレンジは敗れてなお強し、という評価でしょう。
ストラディヴァリウスは2歳時、3戦目にニューカッスルの1マイル戦に勝って終戦。今期はビヴァリーで10ハロンのハンデ戦に勝って始動し、チャシャーでは約2500メートルのハンデ戦で2着。そして前走ロイヤル・アスコットで今年からGⅡ戦に格上げされたクイーンズ・ヴァース(14ハロン)に勝ってG戦2連勝としました。
3代母は英仏オークスとキングジョージを制した名牝にして名ステイヤーのポーニーズ Pawneese で、近親にはメルボルン・カップの勝馬もおり、英国で脈々と続くステイヤー血統。父はダービー/凱旋門賞のシー・ザ・スタース Sea the Stars で、セントレジャーのオッズもレース前の10対1から4対1に上がりました。今年の三冠レース最後は、ストラディヴァリウスが中心になるでしょう。

 

 

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