サルビアホール 第83回クァルテット・シリーズ

今週の火曜日にロンドンのピリオド系団体を聴いたばかりのサルビアホール、昨日の金曜日にもシーズン25の2回目が行われました。3回目は来週の水曜日に開催されるということで、日程が立て込んでいるクァルテット・シリーズです。
正に秋を感じさせた昨日のプログラムは、以下のもの。

シューマン/弦楽四重奏曲第3番イ長調作品41-3
マルティヌー/弦楽四重奏曲第3番
     ~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽五重奏曲第2番ト長調作品77
 べネヴィッツ・クァルテット
 コントラバス/イジー・ローハン Jiri Rohan

今回がサルビア初登場となるべネヴィッツQは、2005年の大阪コンクールの覇者。その年に優勝記念の日本ツアーを行っていますし、2008年にはあのパオロ・ボルチアーニ賞国際コンクールも優勝したトップ・クラスの団体。私としては恥ずかしながら初めて体験するクァルテットでもあります。
凄いクァルテットだ、という噂は聞いていましたが、本当に凄い団体で、このクァルテットを客席100名で聴くのは贅沢の極みでした。それでも前売りがあり、どうも完売ではなかったようで、一体日本のクラシック・ファンは何を聴いているのかと不思議に思ってしまいます。

例によって幸松辞典を紐解くと、1998年にプラハで結成された当時のメンバーからファーストとヴィオラが替わって2代目だそうで、セカンドとチェロが創設メンバー。改めて今回のメンバーを紹介しておくと、
ファーストはヤクブ・フィシャール Jakub Fiser 、セカンドがシュテパン・イェジーク Stepan Jezek 、ヴィオラをイジー・ピンカス Jiri Pinkas 、チェロはシュテパン・ドレジャール Stepan Dolezal という面々。男性4人とも黒に統一した服装で、普通にファーストからチェロまでが音程の高い順に並びます。
ホームページもありますが、英語とチェコ語による極めてシンプルなもの。コンサート・スケジュールを見ても、今回のツアーがほぼ1週間と言うことが表記されているだけで、具体的に何処を回るかは判りません。

http://bennewitzquartet.com/

このホームページでも想像できるように、彼らは何種類かのプログラムを提案してレパートリーを絞っているようで、演奏する作品への解釈は徹底的に練り上げたもの。寸分の疑問点も残さずに表現する純度の高さこそ聴きモノだと感じました。
それは冒頭のシューマンからして圧倒的で、第1音からして自信に満ち、安定した響きで直ぐに聴き手の耳を捉えます。シューマンは夢のような曖昧さを漂わせながら演奏されることが多いのですが、べネヴィッツのようにパワーと推進力に満ちた表現は、シューマンの既成概念を覆すほど。
第3番はサルビアでも人気曲で、今回は何と4度目の登場。特にスケルツォ兼変奏曲の第2楽章、セカンド・シュテパンが脚でリズムを叩きつけながら突き進むテンポ・リゾルートには仰け反ってしまいました。

前回のハイドンを聴いた耳には、ピリオド系が密やかな室内楽であるのに対し、こちらは堂々たるシンフォニーのよう。ロンドンが草食系とすれば、べネヴィッツは堂々たる肉食系クァルテットと表現したくなります。

続くマルティヌーは、私は多分ナマでは初めて聴いた作品。マルティヌーには全部で7曲の弦楽四重奏曲がありますが、1番とこの3番だけは手元にスコアが無く、従って細部については詳述できません。
全部で3楽章、全体でも10数分ほどで、マルティヌーでは最も短いクァルテット。1929年パリ時代の作品で、冒頭のチェロによるアルペジオ・ピチカート、ヴィオラのコル・レーニョ、セカンドの弱音器付きトレモロに乗ってファーストがテーマを歌い出す所は如何にもドビュッシーの影響でしょう。
第3楽章はバルトークを連想させますが、第1楽章と第2楽章で歌われるチェロの旋律は、如何にもボヘミア風の民族的なもので、やはりマルティヌーにしか書けない音楽だと確信しました。演奏も真に説得力があり、終わって思わずため息が出るほどの名演。
これでサルビアのマルティヌーは2番と7番に加え、3曲が揃ったことになります。

後半は、同郷チェコのコントラバス奏者ローハンを加えての珍しいドヴォルザークの五重奏第2番。4弦のコントラバスを抱えて上手から登場したローハン、実は日本茶アドバイザーを務めているという風変わりなキャリアの持ち主で、昨日は一言も発しませんでしたが、日本語はペラペラなのでしょう。日本茶研究家としても日本とチェコを行き来している由。
そのコントラバスを加えてのドヴォルザークは、鬼に金棒。個人的にこの第2番はこれまで、やや霊感に欠ける五重奏と聴いてきましたが、この日は改めて作品の真価に驚嘆してしまいました。何て良い曲なんだ、と。

第2楽章はスケルツォ・トリオ・スケルツォの3部形式ですが、スケルツォ冒頭の8分の6拍子はチェコ独特のリズム。単に音符の通りに弾くのではなく、そこにはチェコの音楽家でなくては出来ないような微妙な「こぶし」が入る。彼らはそれを自身の血液、肉体として持っているので、態々打ち合わせることもなく自然に湧き出てくるのです。ウイーンの人たちにとってのワルツと同じことでしよう。
2番カッコで次に進み、ヴィオラとチェロの刻む2拍子リズム(実際は8分の6)に乗ってヴァイオリンが新しいテーマを弾き出す所、聴き手は思わず“あ~、ドヴォルザーク”と嘆声を発してしまいます。休みのコントラバスも体を揺すってリズムを刻む姿に、ドヴォルザークの神髄を見ました。

アンコールもありましたが、この編成なら同じ作品から、もちろん第2楽章のスケルツォ部分のみ。再び客席もチェコ・リズムに身体を揺すって酔い痴れます。
熱烈な拍手に応えてもう1曲。はてドヴォルザークにこんな曲があったっけ、と探っていると、馴染みのメロディーが。そう、最後は中田喜直の愛唱歌「夏の思い出」が弦楽五重奏の豪華アレンジで奏でられました。
下を支えるローハンにとっては、夏が来ても来なくても思い出すのが、日本のことかも。チェコと日本には昔から繋がっている部分があったのでは、そんなことも想起させてしまうべネヴィッツでした。

 

 

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