アスコット、両雄相譲らず

英国の平場シーズン、恐らく最後の大舞台は10月21日のチャンピオン・シリーズでしょう。各部門で1年を賑わした馬たちが勢揃い、どうして日本のスポーツ・マスコミはこれを報じないのでしょうか。
それはさて置き、昨日のアスコット競馬場で行われたG戦5鞍は、4鞍がGⅠ戦。馬場は soft 、スウィンリーボトムから直線に入る辺りは heavy という極めて重い馬場でしたが、こういう時こそ紛れは無いもの。1番人気が勝ったのは2鞍だけでしたが、負けた馬も納得の好勝負が繰り広げられました。レース順に行きましょう。

先陣を切って行われるのが、ブリティッシュ・チャンピオンズ・ロング・ディスタンス・カップ British Champions Long Distance Cup (GⅡ、3歳上、2マイル)。この日唯一のGⅡ戦ですが、内容的にはGⅠ戦と少しも変わりません。何れはGⅠに格上げされるのでは、と思っています。頭数もマラソン戦としては13頭と揃い、ここは前走凱旋門賞でも4着しているオーダー・オブ・セント・ジョージ Order Of St George が4対5の断然1番人気。去年のこのレースは4着、雪辱を果たしたいところでしょう。
最初は12番人気(100対1)のスターズ・オーヴァー・ザ・シー Stars Over The Sea が逃げましたが、1ハロン地点からはアスコット・ゴールド・カップの勝馬で4番人気(10対1)のビッグ・オレンジ Big Orange が交わして先頭。しかしこれも7ハロンまでで、そのあとは10番人気(66対1)のマウント・モリアー Mount Moriah が先頭に立ち、これを7番人気(25対1)のターセダー Torcedor が追走。残り2ハロン、ターセダーがスパートして先頭に立ち、2馬身差で安全圏に入ったと思われた時、中団待機の2頭、本命オーダー・オブ・セント・ジョージと2番人気(4対1)の3歳馬ストラディヴァリウス Stradivarius が追い上げて3頭の叩き合い、最後はムーア騎乗の1番人気が粘るターセダーを半馬身差抑えて人気に応え、デットーリの御すストラディヴァリウスが更に半馬身差で3着でした。去年の勝馬シェイクザイードロード Sheikhzayedroad は7番人気(25対1)で人気通りの7着。

エイダン・オブライエン師が管理するオーダー・オブ・セント・ジョージについては新たに付け加えることも無いでしょう。残り2ハロンでは未だ4番手、今日は負けたかと思われましたが、そこから巻き返す脚は流石に凱旋門賞でも通用するスピード。シャンティーでの激走から僅か20日での2マイルマラソンを制するなどは、とても日本の常識では考えられないでしょう。しかも2年連続となるローテーションですからね。

そしてここからがGⅠ戦4連発。最初のブリティッシュ・チャンピオンズ・スプリント・ステークス British Champions Sprint S (GⅠ、3歳上、6ハロン)は1頭が取り消して12頭立て。長距離とは逆にスプリント戦としては頭数が少ないようにも見えますが、GⅠ勝馬が勢揃い、並みのスプリンターでは腰が引けてしまいそうなメンバーです。その中から5対4の1番人気に支持されたのは、3歳馬でジュライ・カップとヘイドック・スプリント・カップとGⅠ戦に2連勝中のハリー・エンジェル Harry Angel 。これに去年の勝馬と、更には去年と今年のコモンウェルス・カップ勝馬が加わる究極のスプリントとも言えそうです。
最低人気(100対1)のインテリジェンス・クロス Intelligence Cross が逃げましたが1ハロンまで。先行していた本命ハリー・エンジェルが残り2ハロンで先頭に立ちましたが、同じく前で競馬していた並んだ5番人気(10対1)のタスリート Tasleet が交わして先頭。ここに襲い掛かったのが、前半8番手で控えていた同じ5番人気(10対1)の伏兵リブリサ・ブリーズ Librisa Breeze 、タスリートに1馬身4分の1差を付ける番狂わせとなりました。中団から追い込んだ2番人気(9対2)のカラヴァッジョ Caravaggio がゴール寸前でハリー・エンジェルを僅かに捉えて4分の3馬身差の3着。他の人気どころでは、去年のコモンウェルス・カップ勝馬で復調の兆しが見えた3番人気(6対1)のクワイエット・リフレクション Quiet Reflection が9着、去年の勝馬で4番人気(9対1)のザ・ティン・マン The Tin Man も5着に終わっています。

勝ったリブリサ・ブリーズはディーン・アイヴォリー厩舎、ロバート・ウインストン騎乗。これがG戦自体が初勝利と言う5歳せん馬で、この日のチャンピオン・シリーズでは最も予想が難しかった1頭でしょう。しかしながら去年のこのレースにも参戦して6着でシーズンを終え、今期はここまで3戦。ダイヤモンド・ジュビリー(GⅠ)4着、レノックス(GⅡ)9着、前走ハンガーフォード(GⅡ)2着とアンラッキーなレースが続いていました。戦績から想像できるように、純粋なスプリンターというより、7ハロンから1マイルまで守備範囲があると見てよさそうです。せん馬ということでもあり、いきなり獲得したGⅠホースという肩書で来期も現役を続けるものと思われます。ウインストン騎手は前シーズンで引退を決意していたようですが、この馬のためにもう1シ1
ズン現役に留まったとのこと。もう1年、という要請があるのでしょうか。

続くブリティッシュ・チャンピオンズ・フィリーズ・アンド・メアーズ・ステークス British Champions Fillies & Mares S (GⅠ、3歳上牝、1マイル4ハロン)は10頭立て。この日のG戦では最も少ない頭数となりましたが、前走ヴェルメイユ賞(GⅠ)を含めてG戦3連勝中のバティール Bateel がフランスから遠征し、7対4の1番人気。去年の勝馬でゴスデン/デットーリの黄金コンビ、ジャーニー Journey が7対2の2番人気で続きます。
逃げたのは8番人気(28対1)のアリーサ Alyssa でしたが、先行していた3番人気(4対1)のハイドランジア Hydrangea が残り2ハロンで2番手に上がり、最後の1ハロンで先頭に並ぶと、中団から追い込む本命バティールを2馬身抑えて優勝。後方2番手から猛追した4番人気(11対2)のコロネット Coronet が1馬身4分の3差で3着に食い込みました。ジャーニーは6着敗退。

ハイドランジアは、改めて紹介するまでも無くエイダン・オブライエン厩舎、ライアン・ムーア騎乗。オブライエン師にとって、これが今シーズンのGⅠ戦25勝目となり、遂に2003年にロバート(ボビー)・フランケル調教師が打ち立てた大記録と並びました。オブライエン/ムーアは最初のロング・ディスタンスに続いてG戦ダブルとなりましたが、この日1番人気になったのはオーダー・オブ・セント・ジョージのみ。それでもGⅠ戦を制する辺りが、偉大な調教師の証でしょう。
ハイドランジアは前々走レパーズタウンのマトロン・ステークスに続くGⅠ戦2勝目。前走はオペラ賞(GⅠ)で寮馬ロードデンドロン Rhododendron に頭差2着と言う強行軍で、しかも12ハロンは初体験という距離不安も囁かれていた中での勝利でした。ムーア騎手は距離に自信があったようで、積極的に前に行くスタミナを活かした騎乗で信念を貫き通し、一旦は詰め寄られたバティールを最後で再び突き放しての勝利です。

この日3つ目のGⅠ戦となるのが、クィーン・エリザベスⅡ世ステークス Queen Elizabeth Ⅱ S (GⅠ、3歳上、1マイル)。15頭と頭数が揃い、今期最強の古馬マイラーであるリブチェスター Ribchester が2対1の1番人気。ロッキンジ、クィーン・アン・ムーランと今期GⅠ戦3勝、前々走サセックスこそ3歳牝馬ウインター Winter に敗れたものの、ここは3歳馬との斤量差は僅かに3ポンド、出来れば良馬場でやりたかった、というのが本音でしょうか。
そのリブチェスターのペースメーカーを務める最低人気(100対1)のトスカニーニがペースを創って予定通りの展開となり、残り2ハロンでリブチェスターと3番人気(9対2)のチャーチル Churchill が抜けての叩き合いに持ち込まれましたが、ここに急襲してきたのが後方に待機していた5番人気(8対1)のパースエイシヴ Persuasive 、纏めて交わすと、リブチェスターに1馬身差を付ける逆転劇となりました。半馬身差でオブライエン/ムーアのチャーチルが3着。

パースエイシヴはジョン・ゴスデン厩舎、ランフランコ・デットーリ騎乗の4歳牝馬。同コンビはロングディスタンスがストラディヴァリウスで3着、フィリー&メアもジャーニーで6着(スプリントは出走馬無し)とフラストレーションが続きましたが、ここで留飲を下げた形です。牡馬を相手にGⅠ戦初制覇となるパースエイシヴ、G戦は去年のアタランタ・ステークス(GⅢ)以来で、今期はロッシルド賞5着、マトロンが3着、サン・チャリオット2着と、何れもGⅠ戦で徐々に実力を蓄えてきました。デットーリにとっては、このレースこそが初めてGⅠ戦を制した一戦で、感慨もまた一入でしょう。
一方、敗れたリブチェスター、やはり敗因は苦手の重馬場(サセックスも2着)でしょうが、敗れて尚強しの印象。良馬場で決着を図りたいところですが、BC参戦は未定です。

そして最後のチャンピオン・ステークス Champion S (GⅠ、3歳上、1マイル2ハロン)。フィリー・アンド・メアと同じ、最小の10頭立てでしたが、イネイブル Enable に任せて凱旋門賞を回避した同じゴスデン/デットーリのクラックスマン Cracksma が13対8の1番人気。不安材料があるとすれば、このところ12ハロン戦に徹してきた同馬に10ハロンでも通用するスピードがあるか、ということでしょう。
レースは9番人気(40対1)のサクセス・デイズ Success Days の逃げで始まり、4番手に付けたクラックスマンが残り2ハロンでスパート。それからの本命馬が強かったこと、強かったこと、スピード不足、距離不安をあざ笑うように、先行して粘る4番人気(7対1)のポエツ・ワード Poet’s Word に何と7馬身の大差を付ける圧勝劇でした。2番手追走から只1頭スタンドから遠い側を選んだ5番人気(17対2)のハイランド・リール Highland Reel が首差の3着。重馬場を嫌うオブライエン/ムーア・コンビのハイランド・リールとしては大健闘でしょう。

これでジョン・ゴスデン、ランフランコ・デットーリはGⅠ戦連勝。終わって見ればこの日のG戦5鞍、スプリントを除いてはゴスデンとオブライエンが2勝づつ、デットーリとムーアも共に2勝で両雄相譲らず、という結果になりました。
クラックスマンの圧勝は、フランケル Frankel 産駒にGⅠ戦初勝利を齎すもので、明らかに来年の主役はこの馬でしょう。来年の凱旋門賞のオッズは4対1が提示されました。
そこで困るのが陣営、同じ厩舎と騎手で連覇を目指すイネイブルとの兼ね合いをどうするか。特にデットーリは悩ましい冬を越すことになりそうですね。クラックスマンのオーナー、ジョージ・オッペンハイマーは、クラックスマンと同じ4代母を持つゴールデン・ホーン Golden Horn でも凱旋門賞を制しており、来年ロンシャンに戻るビッグ・レースもゴスデン、デットーリ、イネイブル、クラックスマンで決まってしまうのでしょうか。他陣営の夢、ましてや日本の悲願も2018年、いや2019年もお預けになりそうな雰囲気が漂うアスコットでした。

ところでこの日は、今シーズンのリーディング・トレーナーの表彰がありました。未だシーズンは2週間残っており、GⅠ戦もレーシング・ポスト・トロフィーが控えていますが、後はどう転んでもリーディングは決まりと言うことでしょう。
もちろんトップはGⅠ戦25勝を達成したエイダン・オブライエン。雨の中で行われた表彰式では、第2位のジョン・ゴスデン師がオブライエン師にトロフィーを贈呈。二人の名匠がガッチリと握手を交わす素晴らしいシーンが見られました。

 

 

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