日本フィル・第695回東京定期演奏会

11月の日本フィルは、首席指揮者に就任して2シーズン目を迎えるインキネンが東京と横浜の定期を振ります。横浜では同オケの首席奏者をソリストに起用するプログラムでオケのレヴェルを更に高めようという企画が並びますが、東京はインキネンが拘るドイツ音楽でオーケストラのサウンドを深く掘り下げていくというコンセプト。今回はブルックナーの第5交響曲が披露されました。

ラウタヴァーラ/In the Beginnig (日本フィル共同委嘱作品/アジア初演)
ブルックナー/交響曲第5番
 指揮/ピエタリ・インキネン
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 フォアシュピーラー/齋藤政和
 ソロ・チェロ/菊地知也

ブルックナーの第5交響曲と言えば、今年春にはロジェストヴェンスキーが読響でシャルク版を取り上げたのを聴いたばかりですし、日本フィルの演奏では故ビエロフラーヴェクが最後の機会に指揮した作品でもあります。私にとっては思い出もいろいろ詰まった大曲ですが、これまでブルックナーを積極的に指揮してきたインキネンにも大いに期待して出掛けました。

演奏時間80分(ツイッターでは81分と紹介して話題になっていましたが)のメイン・ディッシュの前には通常アペリティフは出さないものですが、今回は珍しくラウタヴァーラの新作が取り上げられました。プログラムには日本フィル共同委嘱作品としか表記されていませんでしたが、いろいろ調べてみると、インキネンが首席指揮者を務めているドイツやチェコのオーケストラ等との共同委嘱だそうです。
世界初演は今年の9月8日にインキネンが首席を務めるザールブリュッケン・カイザースラウテルンドイツ放送フィルでインキネン指揮で行われましたが、出版社ブージー・アンド・ホークスのホームページによれば、このあと来年3月にはケルンでギュルツェニッヒ管弦楽団が3回、6月にはやはりインキネンの主兵プラハ交響楽団が2回演奏(チェコ初演)することになっています。全て指揮者はインキネン。

初演ですから楽器編成を転記しておくと、フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン2、ティンパニ、マリンバ、タムタム、ハープ、弦5部、通常の2管編成ですね。演奏時間は7分(実際には6分だったようですが)ということで、当初はこのあと休憩が予定されていましたが、続けてブルックナーに入り、休憩はカットされました。
今年が独立100年となるフィンランドの作曲家ラウタヴァーラ(1928-2016)は、同郷の大先輩シベリウス同様に長生きした人で、去年88歳で死去。つまり本作は遺作となったわけで、ラウタヴァーラ自身はこの作品を生前に聴くことは出来なかったということになります。

私は今月初め、テンペラ・クァルテットの演奏で若きラウタヴァーラの弦楽四重奏曲第1番を聴いたばかり。ラウタヴァーラの語法というか個性を何となく理解できるようになりました。今回の作品は低弦の蠢きで始まり、続いてクラリネットがアルペッジョ風の走句で加わりますが、これは恰も鳥の囀りのよう。実はラウタヴァーラはメシアン同様に鳥に愛着があったようで、「鳥と管弦楽のための協奏曲」という作品もあるほど。鳥の囀りパッセージは第6交響曲の最終楽章にも登場しますから、いわばラウタヴァーラの極印とも呼べるもの。このあとに登場する弦楽器による上行メロディーは息が長く、これもシベリウス譲りでフィンランドの風土を感じさせるラウタヴァーラ節なんでしょう。音量が増したところで、音楽は唐突に終わります。未だ続きがあるような感覚。
スコアは未だ販売されていませんが、ブージーのオンライン・スコア会員になればネット上で閲覧できるそうですよ。そのブージーのサイトには当然ながらラウタヴァーラの写真が掲載されていますが、この写真、誰かに似ていると思いませんか。あとで気が付いたのですが、そう、口元は彼の渡邊暁雄マエストロにそっくり。フィンランド民族の特徴ではないでしょうが、何か因縁を感じてしまうのは私だけでしょうか。

ブルックナーの前に演奏するには相応しいラウタヴァーラのアジア初演に続き、トランペット、トロンボーン、チューバ各1の3人が舞台に加わって、メインのブルックナー。事前にネットなどで紹介されていたように、対向配置、ブルックナー協会のノヴァーク版による演奏で、これまでの7番、8番を更に上回るような見事なブルックナーでした。
今や新たなレヴェルに到達した感のある日本フィルは、この複雑なスコアを真に透明で、弦を中心にした弱音部は室内楽的な緻密さを以て演奏。かつては粗いと評価されてもいた金管セクションが堂々とコラールを響かせ、これに素晴らしいテクニックを誇る木管ソロ奏者たちが乗っていきます。インキネンの指揮も決して重くならず、日本フィルの明るめな音色を活かし、ドイツ的な重厚さを保ちつつも、ラテン的な色彩感さえ感じさせる独特なブルックナー像に到達したと言えそうです。

ロジェストヴェンスキーのシャルク版はそれなりの面白さがありましたが、正統的という意味ではインキネン/日フィルのブルックナーは遥かに普遍的な演奏。長大な作品にも拘らず体感的には長さを感じさせず、退屈さとは無縁です。
オーケストラを聴くのは久し振りという知人も、“ブルックナーなんて途中で寝ちゃうと思ってたけど、全然眠くなかった”と満足の様子。そのままライヴCD化しても問題ないほど、細部まで完璧に仕上がったブルックナーでした。

会場では演奏後、新発売のブラームス/第1交響曲のCDにインキネンがサイン。販売元のナクソスが特別な幟を立て、長い列が出来ていたようです。

 

 

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