日本フィル・第332回横浜定期演奏会
先週の金曜日、サントリーホールで見事なブルックナーを披露したインキネン首席と日本フィル、昨日は横浜のみなとみらいホールで東欧プログラムに取り組みました。以下のプログラム。
スメタナ/歌劇「売られた花嫁」序曲
ドヴォルザーク/ヴァイオリン協奏曲
~休憩~
バルトーク/管弦楽のための協奏曲
指揮/ピエタリ・インキネン
ヴァイオリン/扇谷泰朋
コンサートマスター/田野倉雅秋(ゲスト)
フォアシュピーラー/齋藤政和
ソロ・チェロ/辻本玲
この定期、当初ドヴォルザークのソロは同じコンサートマスターの一人、千葉清加が弾く予定でしたが、不運にも故障、扇谷のソロに替わりました。これに伴ってでしょう、コンサートマスターには名フィルと大フィルのコンマスを務める田野倉氏がゲスト。扇谷はご存知のように九州交響楽団のコンマスも兼ねていますから、4つのオケの顔が一堂に会したことに。関西方面から横浜に駆け付けたファンがいてもおかしくないほどですね。
この日も小宮正安氏のオーケストラ・ガイドを聞くため、早目にホール入り。今回は東欧プロであると同時に、協奏曲プロでもあります。ということでトークのテーマは「協奏曲」の歴史。
2014年にインキネンと扇谷はバッハの2台ヴァイオリンのための協奏曲をヴァイオリンで共演したこともあり、今回のドヴォルザーク協奏曲との違いから。小宮氏はいわゆる合奏協奏曲、華やかなソロ協奏曲、そしてバルトークに代表されるオケのメンバーを主体にした協奏曲スタイルの違いと歴史を、専門のヨーロッパ文化史の側面から解き明かします。即ちヨーロッパは王侯貴族の所有するオーケストラの時代、市民が飛躍した19世紀のヴィルトゥオーゾ協奏曲、そして大戦後の労働者が主役になった時代の協奏曲、という視点。小宮氏は上記バッハの際もプレトークを務め、その時に聴き手から質問されたことへの回答、という意味も含めての解説だったそうです。よく話題になるバルトークの引用に付いては触れられませんでした。
さてオーケストラ、ブルックナーでは対向配置を採用したインキネンでしたが、横浜では通常の日本フィル・スタイル。コントラバスは上手奥に位置し、ヴィオラが右側に座ります。
ところでインキネンは2015年からプラハ交響楽団の首席指揮者にも就任しており、前半のチェコ作品は得意のレパートリーでしょう。また日本フィルもビエロフラーヴェクと多くのチェコ作品を取り上げてきましたし、バルトークはルカーチとの数々の名演が思い出されます。両者にとっても伝統となりつつある作品をどう聴かせるか、ここが聴き所と言っても過言ではないでしょう。
スメタナの序曲。コンサートの幕開けとしても良く演奏されますが、ヴィヴァチッシモの快速リズムが全体を通して切れ目なく続くのが特徴。後半も後半、第366小節に至ってやっとリズムが収まって一息つきますが、それも束の間、25・6小節もすると直ぐにコントラバスとティンパニから忙しない刻みが再開され、あっという間に全曲が賑々しく終了。この忙しさ、ウキウキ感がコンサート・オープナーとして人気あることを改めて確認しました。
続いてはドヴォルザークの協奏曲。小宮氏もCDでは良く聴くけれど、ライヴでは聴く機会が少ない、と解説された作品です。前回、何時誰が何処で弾いたか思い出せないほど。同じ作曲家のチェロ協奏曲は俗に「ドボコン」などと称して耳に胼胝ができるほど聞かされてきましたが、ヴァイオリン協奏曲は貴重でしょう。扇谷はこの名作、もちろん暗譜で美しく歌い上げてくれました。インキネントの呼吸もピッタリ。ピッタリと言えば、この協奏曲は大ヴィルトゥオーゾのソロというより、今回のようにオーケストラのコンサートマスターが独奏を務めるのに最適な協奏曲かも知れませんね。
何故かと言えば、同時代のブラームスやチャイコフスキーと違い、ソリストが華やかな技巧を聴かせる「カデンツァ」が無いことでしょう。その分、音楽は落ち着き、いわば通向けのコンチェルトなのかもしれません。終楽章ロンド、第442小節からのテーマ回帰はソロがG線の低い音で、伴奏のヴァイオリンが高い音で絡む辺りは、ドヴォルザーク好きにとっては堪らない所でもあります。
前半の最後、何度かのカーテンコールで舞台に登場した扇谷は手ぶら。アンコールはありませんよ、という意思表示でもありました。
後半は「労働者たるオケのメンバーたち」が主役のバルトーク。インキネンの演奏は如何にも合奏主体のコンパクトな表現。時に「指揮者のための協奏曲」のような大見えを切った演奏に出くわすこともありますが、インキネンは真にオーソドックスなスタイルで仲間たちの合奏を邪魔しません。日本フィルの定期会員にとってはルカーチの涙無しには聴けないバルトークが懐かしい所ですが、時代は変わりました。受け入れましょう。
横浜ではアンコールが楽しみ。ここは予想通り、ドヴォルザークのスラヴ舞曲集から作品72の2が演奏されました。先にコバケン氏で聴いたコッテリ系、演歌調のドヴォルザークとは大違いで、低弦のピチカートがぶつかり合う音も心地良く、早目のテンポで、これぞ中央ヨーロッパの響きと大満足でした。
そういえば第10番はアレグレット・グラチオーソ。かなり昔にドヴォルザークの真骨頂は「グラチオーソ」という解説を聞いたのも、日本フィルの横浜定期だったと思い出しました。
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