日本フィル・第333回横浜定期演奏会

今年最後の演奏会レポートです。実はこの横浜定期、当初は聴くべきか聴かざるべきか迷っていましたが、最後は横浜行を決断、思い切って出掛けました。
12月23日と言えば天皇誕生日、前日は冬至、翌日はクリスマス・イヴとあって横浜界隈は大変な人出。行きも帰りも人混みをかき分けるようにしてのホール往復でした。

バッハ/オルガン小曲集~「汝のうちに喜びあり」
バッハ/オルガン小曲集~「古き年は過ぎ去り」
バッハ/トッカータとフーガ ニ短調プレトーク
     ~休憩~
ベートーヴェン/交響曲第9番ニ短調
 指揮/小林研一郎
 パイプオルガン/石丸由佳
 ソプラノ/増田のり子
 アルト/林美智子
 テノール/錦織健
 バリトン/ジョン・ハオ
 合唱/東京音楽大学(合唱指揮/阿部純)
 コンサートマスター/木野雅之
 フォアシュピーラー/齋藤政和
 ソロ・チェロ/菊地知也

日フィルの12月横浜定期は、決まってベートーヴェンの第9交響曲。やや久し振りに小林研一郎指揮とあって、前半はバッハのオルガン・ソロ曲が聴けます。これはこれで貴重な機会でしょう。
その前に、オーケストラ・ガイド。今回は「音楽評論家」奥田佳道氏の担当ですが、果たして第9の前に何をプレトークされるのでしょうか。

持ち時間は15分ほどということで始まりましたが、ベートーヴェン最後の交響曲に何故合唱が付いたのか、というテーマ。しかし曲が曲、作品に纏わるエピソードは数知れず、いつの間にか時間は過ぎていきます。1824年の初演の模様、1842年に創設されたばかりのウィーン・フィルが久し振りにこの交響曲を演奏した、という話になった辺りでそろそろ時間が・・・。そもそも15分で第9を語る、ということには無理がありますよね。
結局、何故日本では年末に第9が取り上げられるようになったのかというテーマに辿り着く前に時間となってしまいました。奥田氏が最後に触れられたのは、3度下降のこと。「ニ」の3度下に当たる「変ロ」が第3楽章の主調で、第4楽章の“vor Gott”の前で「ニ長調」が3度下降して「変ロ長調」に転調する。ベートーヴェンは3度下降、転調の天才だ、というのが氏の解説の肝でしたが、一般のファンにはやや難しい調性の話で締め括ったのは、さすがに「音楽評論家」としての矜持だったのだろう、と推察しました。

ここでチョッと演奏会の話題から脱線すると、ベートーヴェンが3度下降、転調の天才だったと言えば、思い当たるのがミサ・ソレムニスでしょう。私がプレトークで思いを馳せてしまったのは、3度下降で出来ていると言っても過言ではないミサ・ソレムニスの事で、Kyrie も Christe も、amen もベートーヴェンは3度下降を振り当てていました、よね。ミサ全体もニ長調と変ロ長調(クレド)、更にロ短調で構成されており、第9交響曲とミサ・ソレムニスが如何に太い糸で繋がっていることに改めて気付かされました。そもそも3度下降はバッハがロ短調ミサで crucifixus に用いた音程で、3度下降はバッハからベートーヴェンへ、更にブラームスへと受け継がれて行った西洋音楽の遺伝子でもあるのでしょう。
そう言えば前半はバッハ、しかも第9と同じニ短調による有名なトッカータとフーガが演奏されたのですから、プレトークは聞くべきです。

メインのベートーヴェン、第9交響曲は小林研一郎らしい句読点のハッキリした演奏で、第2楽章でコントラバスに弓と楽器が激しくぶつかるノイズを要求したり、合唱団に起立を促す箇所が独特(オーケストラのみの歓喜の歌の頂点で)だったり、「t」の強調など、コバケン・スペシャル健在。第3楽章のホルン・ソロは4番奏者でなく1番奏者が担当したり、第2楽章の繰り返しは一切実行せずといった注目点もありました。

演奏後、歓声を制して聴衆にメッセージを伝えるのもコバケン流。この日は最後に、客席に今話題の「有名人」が来場されていることも紹介していました。客席の眼が一斉に1階奥に注がれたほど。
帰りに事務局にそれとなく尋ねましたが、団にも直前まで知らされていなかったのだとか。恐らく小林マエストロが特別の配慮で招待されたのでしょう。クリスマスのサプライズが待っていた第9公演でした。

 

 

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