日本フィル・第604回東京定期演奏会
日本フィルの10月定期、私は今期から金曜会員に鞍替えしましたので、24日のコンサートを聴きました。
ところが真ん中に演奏された三善晃の交響三章、そのあまりの素晴らしさに仰け反るほど感動。もう一度演奏される土曜日も聴き逃してなるものか、今日も当日券で聴いて来たばかりです。
コンサートの演目は、
モーツァルト/交響曲第35番二長調K385「ハフナー」
三善晃/交響三章(日本フィルシリーズ再演企画第2弾)
~休憩~
ラフマニノフ/交響曲第3番イ短調
指揮/尾高忠明
コンサートマスター/木野雅之
フォアシュピーラー/江口有香
今定期の圧巻は何と言っても三善作品。まずこの感想から書きましょう。
日本フィルシリーズ第4作の三善晃「交響三章」は1960年の作。この作品が同年10月14日、故・渡邉暁雄の指揮で初演された時には、尾高マエストロの言を借りれば、我が国作曲界だけに止まらず、音楽界そのものに大きな衝撃を与えた由。その後、この作品に影響されなかった作曲家はいない、というほどに。
この二日間で演奏された半世紀前の名作。改めて作品の凄さ、恐ろしさに鳥肌が立つ思いでした。
作品を良く知る尾高と、作品に最大級の愛情と尊敬を抱く日本フィルの渾身の名演。それは、かつて日本の現代音楽がこれほどまでに高い完成度と大きなスケールで演奏されたことはないのではないか、と思われるほどに感動的な体験でした。
特筆すべきは、
①三善晃が西洋クラシック音楽の様々な技法を駆使して書いた大作でありながら、どの楽章の、どの場面を聴いても日本人の作品である、ということを意識させずに置かぬ説得力があったこと。
②通常なら、リハーサルの過程で漸く「形」が見えたところで本番を迎える現代作品が、更に進んで完璧な芸術作品の様相を呈するまでに磨き上げられた演奏であったこと。
尾高忠明の徹底した作品解釈と、日本フィルの極めて高い集中力を以って臨んだ気迫の勝利でしょう。
サイモン・ラトルとベルリン・フィルでは決して到達し得ない類の演奏。
メインのラフマニノフ。これも見事な出来でした。特に金曜日はマエストロが乗りに乗っていたせいでしょうか、ラフマニノフのロシア的憂鬱よりも、アメリカ的な華麗さが前面に出ていたような気がしました。
そこで思い至ったのは、ラフマニノフが第3交響曲を書く何年か前にガーシュインのラプソディー・イン・ブルーの初演に立ち会っていたこと。この日聴かれた乗りの良さは、期せずして作品に別の光を当てたような気がします。
これに比べて土曜日の演奏は、いつもの憂鬱な表情をしたラフマニノフ。聴いた席も違えば、私の体調も異なりましょう。ナマ演奏を体験することの面白さと言えるかも知れませんね。
最初に演奏されたモーツァルトは、弦を12型に落としたスマートな演奏。ティンパニに固目の撥を用いた他は、現代風の表情豊かなモーツァルトでした。
第2楽章と第3楽章の一部に普段耳にしている表現と異なる箇所がありましたが、それはいずれ確かめてみようと思います。
なお今回の定期では、チェロのトップに見慣れない方が座っていました。日本フィルのソロ・チェロは菊地知也氏ですが、彼が降り番のときは団員の何方かがトップに座ります。今回は初めての方。
あとでメンバーの一人に伺ったところ、尾高マエストロ時代の東フィルで長年首席を務められた北本秀樹氏とのこと。現在は教職にあるようですが、素晴らしいソロを聴かせてくれました。
2日目の全曲が終了した後、チェロ・セクションの全員の方と握手を交わしていたのが印象的。
それにしても日本フィルと尾高忠明、実に相性が良いと感ずるのは私だけでしょうか。
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