日本フィル・第334回横浜定期演奏会

1月最初のオーケストラ・コンサート、正月は松の内がニューイヤー・コンサートなどで立て込んでいるため、各オーケストラも第2週辺りから本格的に始動します。その結果バッティングするケースが生じ、小生の場合は日フィルの横浜定期と読響定期がモノの見事に重なってしまいました。山田和樹のバーンスタインを採るか、ヴイドマンの自作自演を選ぶか最後まで迷っていましたが、結局は振替の効く読響を他の会に回し、横浜みなとみらいホールの日フィルに出掛けた次第ではあります。

バーンスタイン/「キャンディード」序曲
バーンスタイン/「キャンディード」組曲(チャーリー・ハーモン編曲)
ラヴェル/高雅にして感傷的なワルツ
     ~休憩~
バーンスタイン/交響曲第2番「不安の時代」
 指揮/山田和樹
 ピアノ/小曾根真
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/菊地知也

横浜の1月定期と言えば新世界交響曲辺りが定番だった日フィル、さすがに山田和樹は選曲が一捻りも二捻りもきいています。普段の横浜でも珍しいような凝ったプログラムが魅力でしょう。
もちろんメインは今年生誕100年を迎えるバーンスタインですが、ここにラヴェルを組み合わせる辺りが山田流。彼の場合は自らプレトークを行うのが「ワイズ・スタイル」なのです。

そのプレトーク、山田自身が初めて小遣いでチケットを買って出掛けたのが日フィルの横浜定期(当時は県民ホール)だったとか、ゲストである小曽根真も今回が日フィルとの初共演であるという話題からスタート。
山田/小曽根の共演は今回が3度目ですが、最初は読響を振る予定の井上道義が病気のためら山田が代演した際であり、二度目は山田指揮の演奏会で出演する予定だった中村紘子が病気のために小曽根に替わった時とのこと。即ち最初から二人の共演で決まっていたコンサートは今回が初めて、という内輪話も飛び出しました。これも山田流でしょう。

長い前座話からバーンスタインの作品解説、ラヴェルとの繋がり、最後は自身のCD宣伝までするのですから、時間が押せ押せになってしまいます。最後に慌ててメイン作品で使用する2台目のピアノを弾いて見せたりして、関係者ハラハラ・ドキドキの内にオーケストラ・ガイドは終了。

さて本番。新年に相応しくバーンスタインの代名詞にもなっているキャンディード序曲で豪華に幕が上がり、次は同じキャンディードでも滅多に演奏されない組曲。プレトークでも強調していましたが、組曲版の演奏は極めて珍しい機会で、私も初めて耳にしました。何でも最晩年のバーンスタインのアシスタントを務めたハーモンという人がアレンジしたもので、全曲は「死んだはずでは」「パリ・ワルツ」「良い航海を!」「瀕死の音楽」「王様たちの舟歌」「エルドラドのバラード」「私はすぐに染まってしまうの」「有り得る限り最善の世界」「僕らの畑を耕そう」の九つの場面が切れ目なく演奏されます。
例の“もう、ヘルニアで大変”という笑える個所も出てきますが、未だダニエルズの「オーケストラル・ミュージック」にも掲載されていない珍品と言えるかもしれません。山田和樹、絶好調のノリノリ・タクトでオーレストラを盛り上げます。

ここで前半の最後、ラヴェルの有名なれど演奏は決して多くないワルツ。ここもしなやかなラヴェルで締め括りましたが、個人的な興味はクラリネットの持ち替えシーン。具体的には第4曲と第5曲の間でB管から瞬時にA管に持ち替えるのですが、山田は敢えて休みを置かずにそのまま第5曲へ。さすがに伊藤首席、こんな手もあるのか、と感心するようなテクニックで見事に乗り切って見せました。かなりマニアックな見所なのでこれ以上詳しくは書きませんが、山田/日フィルならではのスーパーテクニックでもありましょう。

ラヴェルに感心している間に、2台のピアノが設定されて後半へ。
オーデンの詩にインスピレーションを得て書かれた第2交響曲は、ほとんどピアノ協奏曲のような構成。「不安の時代」とは第2次世界大戦中の事で、信仰が失われる時代、という意味合いも兼ねています。特に第1部は7つの時代と7つの段階という7に拘った構成になっていますが、1から14まである変奏曲は普通の意味の変奏ではなく、4人の登場人物の変容と解した方がよさそう。

後半の第2部も「哀歌」(明らかに12音でしょう)「仮面劇」「エピローグ」からの3場面から成り、特に仮面劇はアパートの一室で演じられるジャズ風な場面。ここはコントラバスのソロ(今回は田沢烈)が大活躍し、小曽根と見事なセッションを繰り広げました。
エピローグの冒頭、大音響が止むと、それまでチェレスタを弾いていた奏者がアップライト・ピアノに移動して、仮面劇の回想へ。
このピアノはスコアではピアニーノ Pianino と表記されていて、今回は敢えて背面を客席に向けて置かれ、遠い彼方から聞こえてくるように配慮されていたように聴きました。因みにこのアップライト・ピアノ、事前にコッソリ探ってみるとシュヴェスター社のピアノだったようです。
事前のプレトークでは、わざと調律を狂わせてあると説明されていましたが、最後のカデンツァに呼応して鳴らされる個所ではリズムも合いません。もちろん合わなかったのではなく、バーンスタインがソロ(スタインウェイ)とは別のテンポで弾くように指示しているのですね。これについても文句は言わないように。

ということで音階の下降で不安を表現した音楽は、最後は逆の音階上昇で希望を壮大に歌い上げます。
本来ならアンコールの予定は無かった筈ですが、この日は小曽根氏が一旦は閉じたピアノの蓋を開け、ポロポロと弾き始めます。何を弾こうかなという呟きに次いで、バーンスタインの「On the Town」から「some other time」。

初物尽くしの1月横浜定期を終え、ホワイエではシーズン・ファイナル・パーティーがあって盛り上がったとか。残念ながら我々は先約があり、中座しなければなりませんでしたが・・・。

 

 

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2件のフィードバック

  1. Eno より:

    初めまして。いつも愛読しております。私も横浜定期と読響が重なり、多いに悩みました。涙を飲んで読響を振り替えました。もう断腸の思いです。でも、「不安の時代」がよかったので、ホッとしました。

  2. メリーウイロウ より:

    Eno 様

    コメントありがとうございます。
    翌日に鵠沼に出掛けた所、サロンを運営されているプロデューサー氏も読響を選択したそうな。ヴイドマンはどうでしたか、と尋ねたところ、作品の印象は今一だったとのことでした。
    不安の時代は井上道義/神奈川フィル、もちろん読響定期、更には広上淳一/京響と、今年は聴くチャンスがズラリ。私もあと、少なくとも2回は聴くことになりそうです。

    メリーウイロウ

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