落ち目になったサンタ・アニタ・ハンデ

3月10日のアメリカ競馬、日曜日はいろいろと用事が重なり、一日遅れのレポートとなってしまいました。悪しからず。
さて3月第2週、4つの競馬場で合計10鞍のG戦が行われましたが、注目は二点。一つはケンタッキー・ダービーに向けたポイント(何れも勝馬には50ポイント)対象のトライアル戦3鞍で、もう一つはサンタ・アニタの名物だったビッグ・ハンデ、即ちサンタ・アニタ・ハンデです。既に結果はご存知でしょうから、ここはいつも通りに東から西、レース順に紹介していきましょう。

最初はアケダクト競馬場から。2鞍のG戦は共にメインコースで、馬場は fast 。先ず古馬の短距離戦トム・フール・ハンデキャップ Tom Fool H (GⅢ、4歳上、6ハロン)は1頭が取り消して9頭立てとなり、アローワンス戦に2連勝して絶好調のスカイラーズ・スクラムジェット Slyler’s Scramjet が5対2の1番人気。
8歳のヴェテランで6番人気(11対1)のグリーン・グラット Green Gratto が逃げましたが、これを2番手でマークした本命スカイラーズ・スクラムジェットが第4コーナーで外から捉えると、前半最後方から大外を回って追い込む3番人気(7対2)のドゥー・シェア Do Share に1馬身半差を付けて見事人気に応えました。これも後方3番手から伸びた2番人気(7対2)のグレート・スタッフ Great Stuff が3馬身差の3着と順当。
ミシェル・ネヴィン厩舎、トレヴァー・マカーシー騎乗のスカイラーズ・スクラムジェットは、これがG戦初挑戦にして初勝利となった4歳せん馬。2歳の11月にアケダクトでデビュー勝ちしたものの、その後は低迷。去年の12月にアケダクトのアローワンス戦に勝ってから勢い付いての3連勝となりました。

アケダクトのもう一鞍が、ニューヨーク地区の3歳馬にとっては最初の重要なダービー・トライアルとなるガッサム・ステークス Gotham S (GⅢ、3歳、8ハロン)。この日行われたポイント対象の一つでもあります。9頭が出走し、前走ホーリー・ブル・ステークス(GⅡ)で2着に入ったフリー・ドロップ・ビリー Free Drop Billy が8対5で1番人気。
逃げたのは最低人気(35対1)のオールド・タイム・リヴァイヴァル Old Time Revival でしたが、前半は5番手に付けていた3番人気(3対1)のエンタイスド Enticed が第4コーナーでは2番手まで押し上げ、直線で逃げ馬に外から並び掛けると、粘るオールド・タイム・リヴァイヴァルをゴール前100ヤードで2馬身4分の3差突き放しての優勝。人気のフリー・ドロップ・ビリーも後方3番手から追い上げましたが、更に4馬身遅れの3着に終わっています。
キアラン・マクローリン厩舎、ジュニアー・アルヴァラード騎乗のエンタイスドは、前走ホーリー・ブルでは1番人気に支持されながらも不可解な4着に大敗。陣営も敗因を特定できない状態でしたが、ここはそれを覆すような快勝で再びダービー候補に復活してきました。

次はオークローン・パーク競馬場に行きましょう。G戦はオークスのトライアルの一つであるハネービー・ステークス Honeybee S (GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)一鞍のみ。fast の馬場に7頭が出走し、4対5の圧倒的な1番人気に支持されたのは、前 走同じオークローンでリステッド戦(マーサ・ワシントン・ステークス)に勝ってG戦初挑戦のレッド・ルビー Red Ruby 。
レースは2番人気(7対2)のエイミーズ・チャレンジ Amy’s Challenge が後続に13馬身もの大差を付ける大逃げという異様な展開。これを2番手で冷静に見ていた3番人気(4対1)のコスミック・バースト Cosmic Burst がゴール手前で捉え切り、何とか粘るエイミーズ・チャレンジに1馬身4分の3差を付けて優勝。後方2番手から追い込んだ4番人気(5対1)のサッシー・シエナ Sassy Sienna が1馬身4分の1差で3着に入り、4番手追走のレッド・ルビーは4着敗退でした。
ドンニー・フォン・ヘメル厩舎、リチャード・エラミア騎乗のコスミック・バーストは、去年9月にチャーチル・ダウンズでデビューして2着。10月キーンランドの2戦目で順当に初勝利を挙げ、アローワンス戦から一般ステークスと3連勝。前走マーサ・ワシントン・ステークスではこの日の本命レッド・ルビーの3着に敗れていましたが、ここで雪辱を果たすとともにG戦初勝利となりました。

続いてはフロリダのタンパ・ベイ・ダウンズ競馬場から3鞍。最初は芝コースの古馬牝馬戦、ヒルスボロー・ステークス Hillsborough S (芝GⅡ、4歳上牝、9ハロン)。firm の馬場に10頭が参戦し、このところ4連勝、G戦も前走メイトリアーク・ステークス(芝GⅠ)を含めて3連勝中のオフ・リミッツ Off Limits が2対1で1番人気。ここは11月以来の休み明けになりますが、相手関係から実力上位か。
外枠発走の馬たちが前を行く展開となり、8番人気(82対1)のダイナテイル Dynatail の逃げ。2番手に付けていた最低人気(113対1)のラヴリー・ロイリー Lovely Loyree が第3コーナーで先頭に立った所に、4番手を進んだ5番人気(7対1)のプロクターズ・レッジ Proctor’s Ledge が襲い掛かる出入りの激しい競馬。更に後方3番手に控えていた3番人気(7対2)のフォースター・クルック Fourstar Crook が大外強襲、ゴール直前でプロクターズ・レッジを頭差で差し切る鮮やかな追い込み勝ちとなりました。3番手を進んでいた2番人気(5対2)のラ・コロネル La Coronel が4分の3馬身差で3着に入り、人気のオフ・リミッツも後方2番手から追い上げたものの5着まで。4着で入線したジュリアン・ルパルーが2着ホセ・オルティス騎手に対して進路妨害を訴えて審議となりましたが、入線通りで確定しています。
チャド・ブラウン厩舎、イラッド・オルティス騎乗のフォースター・クルックは、2015年10月から去年7月まで8連勝でジェームス・ペニー・メモリアル(芝GⅢ)を制した6歳馬。前走は去年10月、カナダ遠征のE・P・テイラー・ステークス(芝GⅠ)での3着でした。

タンパ・ベイの二つ目は、オークス・トライアルのフロリダ・オークス Florida Oaks (芝GⅢ、3歳牝、8.5ハロン)。ただし芝戦で、ケンタッキー・オークスには繋がりません。1頭が取り消して11頭立て。前走ガルフストリーム・パークのスイート・チャント・ステークス(芝GⅢ)で2着したサルサ・ベラ Salsa Bella が2対1で1番人気。
9番人気(24対1)のジェホザキャット Jehozacat が逃げましたが、向正面で外に膨れて逸走し、競走中止。替わって押し出されるように2番手に付けていた7番人気(18対1)クローザー・スティル Closer Still の逃げとなりましたが、6番手を進んでいた4番人気(8対1)のグッドシングズテイクタイム Goodthingstaketime が第4コーナーで前を交わして先頭で直線。しかし最後は外から9番手待機の6番人気(13対1)アンディーナ・デル・サー Andina Del Sur と、10番手から追い込む2番人気(5対2)アルテア Altea が並んで3頭の写真判定に持ち込まれます。結果、真ん中を通ったアンディーナ・デル・サーが最内のグッドシングズテイクタイムを頭差抑えて優勝。外のアルテアはハナ差の3着でした。人気のサルサ・ベラは5番手のまま5着敗退と波乱に終わりました。
トーマス・アルベルトラーニ厩舎、ジュリアン・ルパルー騎乗のアンディーナ・デル・サーは、前走スイーテスト・チャントではサルサ・ベラに次いで3着だった馬で、去年10月ベルモントのデビュー戦に続く2勝目となります。

タンパ・ベイの最後は、ケンタッキー・ダービー・ポイント対象(50-20-10-5)のタンパ・ベイ・ダービー Tampa Bay Derby (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。取り消しが2頭出て9頭立てとなり、前走同じタンパ・ベイでの試走(パスコ・ステークス)を制したワールド・オブ・トラブル World of Trouble が9対5の1番人気。
バラついたスタートから人気のワールド・オブ・トラブルが逃げましたが、2番手で追走した6番人気(19対1)の伏兵クイップ Quip が直線で外から並び掛け、4番手から伸びる4番人気(6対1)のフレームアウェイ Flameaway に1馬身差を付けるサプライズ。本命ワールド・オブ・トラブルは首差の3着に敗れ、この日のタンパ・ベイは何れも波乱劇となりました。
ロドルフィー・プリセット厩舎、フロラン・ジェルー騎乗のクイップは、チャーチル・ダウンズのデビュー戦とキーンランドのアローワンス戦とを連勝し、ステークス初挑戦のケンタッキー・ジョッキー・クラブ・ステークス(GⅡ)では7着と大敗していた馬。2歳シーズンは以上の3戦で終え、これが今期初戦で、ダービーに向けた新星の1頭でしょう。

土曜日の最後は、サンタ・アニタ競馬場の4鞍。去年末に始まったサンタ・アニタの冬競馬も、3月は各ジャンルの総決算が組まれます。この日はGⅠ戦が3鞍と言う豪華版で、最初に行われたのが短距離の頂点となるトリプル・ベンド・ステークス Triple Bend Stakes(GⅠ、4歳上、7ハロン)。雨がそぼ降る悪天候ながら馬場は fast 、1頭が取り消して5頭立てとなり、去年最後のGⅠ戦マリブー・ステークスを制したシティー・オブ・ライト City of Light がイーヴンの1番人気。
4番人気(8対1)ボビー・アブ・ダビ Bobby Abu Dhabi の逃げを2番手でマークしたシティー・オブ・ライト、第4コーナーで逃げ馬に並び掛けると、直線では粘るボビー・アブ・ダビを力でねじ伏せるが如く1馬身半差を付けて人気に応えました。最後方で待機した3番人気(5対2)のエドワーズ・ゴーイング・レフト Edwards Going Left が4馬身半差の3着。
マイケル・マカーシー厩舎、ドライデン・ヴァン・ダイク騎乗のシティー・オブ・ライトは、これでGⅠ戦2連勝。ここまで6戦3勝2着3回、日本風に言えば連体率100%で短距離チャンピオンを目指す4歳馬です。

この日のGⅠ戦第2弾は、芝のマイル戦フランク・E・キルロー・マイル Frank E. Kilroe Mile (芝GⅠ、4歳上、8ハロン)。雨ながら馬場は何とか firm を維持し、8頭立て。ここは去年のBCマイルの覇者ワールド・アプルーヴァル World Approval が、今期初戦のタンパ・ベイ・ステークス(芝GⅢ)を順当に勝ったとあって負ける要素も見当たらず、2対5の断然1番人気。
7番人気(34対1)の伏兵ワッタ・ヴュー What A View が飛ばして追い込み馬の競馬となり、大本命ワールド・アプルーヴァルも4番手から追い込みに賭けますが、この日は馬場に苦戦したのか動きが今一。芦毛の馬体がもがく中、5番手に付けていた4番人気(8対1)のボウイーズ・ヒーロー Bowies Hero が直線一気の末脚を爆発させると、同じく6番手から伸びる6番人気(16対1)ネックスト・シェアーズ Next Shares に半馬身差を付ける波乱となってしまいました。最後方から追い込んだ2番人気(7対1)のチャンネル・メイカー Channel Maker がやはり半馬身差で3着に食い込み、ワールド・アプルーヴァルはまさかの5着敗退です。
フィリップ・ダマト厩舎、コーリー・ナカタニ騎乗のボーウィーズ・ヒーローは、これがGⅠ戦初制覇となる4歳牡馬。去年12月にマティス・ブラザーズ・マイル(芝GⅡ)に勝ってシーズンを締め括り、今期は前走2月のサンタ・アニタでサンダー・ロード・ステークス(芝GⅢ)2着で始動し、調子を上げていました。

サンタ・アニタのG戦第3弾は、ケンタッキー・ダービー50ポイント対象のサン・フェリペ・ステークス San Felipe S (GⅡ、3歳、8.5ハロン)。1頭取り消しがあって7頭立て。去年のロス・アラミトス・フューチュリティー(GⅠ)の勝馬で、今期もシェイム・ステークス(GⅢ)を制して3戦無敗のマッキンジー McKinzie がイーヴンの1番人気。BCジュヴェナイルは3着ながら、それまで無傷の3連勝だったボルト・ドロ Bold D’Oro も6対5の2番人気で差無く続きます。
2頭の一騎打ちムードでしたが、実際のレースもその通り。4番人気(26対1)ロンボ Lombo の逃げを2番手でマークしたマッキンジーが第3コーナー過ぎで先頭に立つと、4番手で待機したボルト・ドロもスパートして第4コーナーでは本命馬に外から並び掛けます。直線は終始2頭のマッチレースとなりましたが、内のマッケンジーが外ボルト・ドロの執拗な追撃を頭差凌いでのゴール。5番手追走から3着で入線した3番人気(6対1)カンタカ Kanthaka は6馬身半も離されていました。しかし場内には直ぐに審議のランプが点灯し、第4コーナー入り口とゴール前での二度に亘る2頭の接触が対象。マッキンジー騎乗のマイク・スミスが左ムチを連発し、馬も外に膨れてボルト・ドロと複数回接触したことが認められたため、結局は2頭の順位が入れ替わりとなりました。2強の叩き合いで決着しましたが、やや後味の悪いトライアルです。
ミック・ルイス厩舎、ハヴィエル・カステラノ騎乗のボルト・ドロは、既にデル・マー・フューチュリティーとフロントランナーでGⅠ戦に2勝しており、ダービー候補の1頭であることは間違いありません。マッキンジーと共にケンタッキーに挑むことになるでしょう。

漸く土曜日の最後、サンタ・アニタ・ハンデキャップ Santa Anita H (GⅠ、4歳上、10ハロン)に辿り着きました。冒頭にも書いたように、長年シーズン最初のビッグタイトルだった同レースですが、今年は総賞金が60万ドルに減額されたのが話題。このGⅠ戦、1986年から2009年まではずっと100万ドルレースを維持してきましたが、2010年から2014年までは75万ドルに減額。2015年と2016年は再び100万ドルに戻ったものの、去年は再び75万ドルに、そして今年はついに60万ドルにまで落ち込んでしまいました。カリフォルニアの競馬人気に陰りが見られることの証左でもありましょうか。今年は1頭が取り消して7頭立て、3頭が人気を分ける形となり、僅かの差で前走2月のサン・パスカル・ステークス(GⅡ)を制したアクセルレート Accelerate が5対2で1番人気。
逃げたのは、同じ5対2で2番人気のムブターヒジ Mubtaahij 。これを2番手でマークしたアクセルレートが第3コーナーで早くも先頭に立つと、直線では独走態勢に持ち込み、そのままムブターヒジに5馬身半差を付ける完勝となりました。最後方から追い込んだ4番人気(4対1)のフェア・ザ・カウボーイ Fear The Cowboy が7馬身差で3着に入り、3強の一角と目された同じ2番人気のジャイアント・エクスペクテイションズ Giant Expectations は、スタートで躓いた不利もあって4着に終わっています。
ジョン・サドラー厩舎、ヴィクター・エスピノザ騎乗のアクセルレートは、G戦は4勝目ながらGⅠ戦は初制覇となる5歳牡馬。一昨年はロス・アラミトス・ダービー(GⅡ)優勝からBCダート・マイルが3着。去年はサン・ディエゴ・ハンデ(GⅡ)勝ちからパシフィック・クラシック(GⅠ)で3着し、BCダート・マイル9着。昨シーズンをサン・アントニオ・ステークス(GⅡ)2着で締め、今期初戦のサン・パスカルとサンタ・アニタ・ハンデでG戦2連勝となりました。もちろん今年も目標はBCダート・マイルということになるのでしょう。

 

 

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