日本フィル・第335回横浜定期演奏会

日本フィル春シーズンの幕開けとなる3月、先週の東京定期はナマでは初体験という曲目がズラリと並びましたが、横浜は一転、名曲中の名曲、誰でも何処かで接したことのある作品が2曲という王道プログラムでした。
この週末は二日とも出掛け、集中力もめっきり落ちてきたことからパソコンに向かう気に成らず、今頃になって土曜日(3月10日)の感想アップです。

ショパン/ピアノ協奏曲第1番ホ短調作品11
     ~休憩~
ブラームス/交響曲第4番ホ短調作品98
 指揮/広上淳一
 ピアノ/小山実稚恵
 コンサートマスター/扇谷泰朋
 ソロ・チェロ/菊地知也

小山実稚恵×広上淳一、新進気鋭の若手、海外のコンクールでも優勝、入賞を果たしてきた二人のチャレンジ精神を熱く応援してきましたが、気が付けば両人とも各ジャンルの大家たち。聴いているこちらも歳をとるわけだ、と改めて感慨に耽る一夜ではありました。ショパン、ブラームス共々、改めて書くことも無いでしょう。

春らしい陽射しが暖かい土曜日の午後、開場時間少し前から列に並び、奥田佳通氏の恒例プレトークを楽しみます。(キーボードを叩いていたら「高齢」と変換され、慌てて訂正(冷や汗!))
想像した通り解説はホ短調繋がり、という話から始まりましたが、ショパンは「今夜はいつもとは少し違うエキエル版で演奏されます」という展開。エッ、そうなの? ということで改めてプログラムを開くと、こちらにも「本日は、ショパン国際コンクールでも使用が推奨されているエキエル版で演奏される」と書かれているではありませんか。私はピアノが少し苦手で、普段からショパンにも馴染みがありませんが、ここから断然プレトークが面白くなっていきます。

エキエルとは駅の名前ではなく、ショパン・コンクールでも入賞歴のあるポーランドのピアニストで、2014年に100歳で亡くなった方。ショパン生誕150年に当たる1960年にポーランドでショパンの楽譜のナショナル・エディション作成事業がスタートし、エキエル Jan Ekier (1913-2014) はその中心となって活躍した人物とのこと。事業は50年掛かりで進められ、ショパン生誕200年の節目となる2010年に全エディションが完成。それを見届けるように、あと2週間で101歳と言う日にエキエル氏は永眠したのだそうですね。(奥田氏の解説に、若干後で調べたことも追加しました)
ショパン・コンクールで使用を推奨しているのは2005年からだそうで、奥田氏も指摘されたように、以前のスコアが間違っているということではありません。コンクールも推奨であって強制ではないことに注意しましょう。

因みにエキエル版について、こんなページも見つけました。

http://www.musicsupply.co.jp/Chopin.html

またエキエルに付いてはポーランドのサイトに詳しい解説があります。英語で読めるのでこちらを↓

http://en.chopin.nifc.pl/chopin/persons/text/id/276/lang/en

ということで興味津々で聴いたエキエル版のピアノ協奏曲。ナショナル・エディションでは「第1番」とは呼ばず、「ホ短調ピアノ協奏曲」となっています。番号は作曲順ではなく、出版の順序であることは以前から度々解説されてきたことでもありますしね。
伝統版との違いは僅かなようですが、例えば第1楽章、再現部手前のオーケストラだけのパッセージで、弦の刻みなどに従来の奏法と異なる箇所があるのに気が付きました。素人には聴き取れませんが、クラリネットは従来のC管指定からB♭管に替わっているそうですし、ホルンも伝統的な4本(と言っても第1楽章だけ)からF管2本に、トランペットもC管からB♭管に変更、というかショパン本来の意図に戻されているのだそうです。

先入観が生まれたのかもしれませんが、小山/広上が繰り出すショパンのホ短調、確かに従来の演奏に比べて表現はより細やか、弱音部に特別な配慮が行き届いていたように感じられます。オケの響きも透明度が増した印象で、もちろん二人の豊かな音楽性が生み出した成果であったことを忘れてはなりますまい。特に第2楽章の静謐な美しさは感動もの。正に大家の競演でした。

アンコールが一つ。ピアノ苦手人間でもショパンのワルツであることは判りましたが、はてどのワルツ? ホワイエには「遺作のワルツ」と書かれていましたが、ショパンの遺作ワルツはたくさんあって、これだけじゃ判りません。極く短く、明るい印象の残るワルツでした。

後半は、同じホ短調でブラームスのシンフォニー。これも奥田解説ですが、実はホ短調の交響曲と言うのは当時は珍しく、何でもハイドンの第44番「悲しみ」以来だったのだそうな。1872年から1875年までの3年間、ブラームスはウィーン楽友協会主催のコンサートを指揮していましたから、その時にハイドン作品を知った(振った)可能性もある、と想像するのも楽しいことじゃありませんか。
ところが、ブラームス以後はホ短調交響曲の名作が続々と誕生し、チャイコフスキーの第5、ドヴォルザークの第9(新世界より)、シベリウスの第1、ラフマニノフの第2、シェヘラザードの第1楽章もホ短調ですね、という具合。ホ短調といえば♯一つで比較的使われやすい調という印象ですが、そんなこともあったのか、と気付かせてくれるのがプレトークの有意義な所でしょう。

広上マエストロのブラームス。去年は京都でブラームスの第1と第3交響曲を定期で取り上げましたが(私共は京都で1番を、名古屋で3番を聴きました)、確か第4は京都では未だ演奏していないはず。4月からの新シーズンにも見当たりませんから、京都のファンは横浜まで遠征する価値はあったでしょう。
かつては刺激的な表現も見られた広上ですが、もはや巨匠風ブラームスと呼んでも良い堂々たる直球勝負。チョッと聴くと何でもない演奏のようにも聴こえますが、例えば第2楽章の最後で最低音に辿り着く瞬間の深々とした表現。第4楽章パッサカリアでも、3本のトロンボーンによる再弱音の合奏に大きな意味と表現とを要求する辺り、作品のツボを聴き手に認識させるテクニックは正に巨匠のそれでしょう。

広上淳一のアンコールと言えば、何が飛び出すのか予測がつかないもの。しかしこの日は定番中の定番、ブラームスのハンガリー舞曲の第1番でした。本編でトライアングルも出てきますしね。

ところでこの日、日本フィルから来期の継続案内が届きました。早速プログラムをチェックしましたが、広上/小山は来年の7月、何とバッハとフィンジ(ピアノと弦のためのエクローグ)で共演することになっています。それにしても7月東京定期、他にもバターワースとジョン・ラターって。何とも意表を衝く選曲じゃありませんか。多くの管楽器奏者は夏休みが取れそう、なぁ~んちゃって・・・。
来年4月にはヨーロッパ・ツアーもあるみたいだし、ラザレフのカヴァレリア全曲って想像も出来ん。日本・フィンランド修交100周年記念というのも楽しみで、もう少し長生きせねば、と正直思いましたね。

 

 

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