サルビアホール 第94回クァルテット・シリーズ

クァルテットの殿堂・サルビアホールのクァルテット・シリーズ、これまで3回で1シーズンと言うラインナップでしたが、どうやらシーズン29からは4回で1シーズンに増量されたみたい。現時点で発表されている30も31も4回で1セットになっています。もちろんセット券が完売しない限りは、1回券で購入できるのは今まで通り。
昨日4月24日にスタートした第29シーズンは、ザッと見たところ異色の団体が多いようで、第94回に登場したチェコのアポロン・クァルテットは今回が初登場。こんなプログラムに首を傾げてしまいました。

リヒター/弦楽四重奏曲ハ長調作品5-1
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番ヘ長調作品96「アメリカ」
     ~休憩~
JAZZ in Prague

エッ、と思ったのはプログラムの後半で、殿堂に鳴り響くジャズ、とは一体どんなものなのでしょうか?
先ずはメンバーの紹介から。いずれも中年(?)を迎えたと思しき男性4人で、ファーストがパヴェル・クーデラシェク Pavel Kuderasek 、セカンドはラジク・クジジャノフスキー Radek Krizanovsky 、ヴィオラはパヴェル・シプリス Pavel Ciprys 、チェロにパヴェル・ヴェルナー Pavel Verner という面々で、1993年に結成してからメンバーは替わっていないようですね。
常設のクァルテットということでもないようで、4人は夫々チェコの様々なオーケストラで弾いている由。ここは幸松辞典の助けを借りると、ラヴェルとヤナーチェクでCDデビューした後、ジャズとクラシックのCDを同時発売して調和と安定を見出しているとのことです。更にはフランスのサン=ジョルジュという知られざる作曲家の作品に手を出すなど、浮気っぽい趣向の団体。それで今回のプログラムが上記のような、やや乱雑の趣になっていることが理解できました。

今回は後半、ジャズから行きましょうか。私はこの分野は経験も知識もゼロ、ただ口をあんぐり開けて彼らのパフォーマンスに見入るだけでした。一応演奏された作品を取り上げられた順に列記しておくと、オリヴァー・ネルソン Oliver Nelson (1932-1975) のストールン・モーメンツ Stolen Moments 、ディジー・ガレスピー Dizzy Gillespie (1917-1993) のチュニジアの夜 A Night in Tunisia 、チック・コリア Chick Corea (1941-) のセニョール・マウス Senor Mouse 、セロニアス・モンク Thelonious Monk (1917-1982) のルビー・マイ・ディア Ruby My Dear 、パット・メセニー Pat Metheny (1954-) のジャコ Jaco の以上5曲が本編。アンコールではデヴィッド・バラクリシュナン David Balakrishnan のスカイライン Skyline と、マーク・サマー Mark Summer のゲティスバーグ Gettysburg が演奏されました。
私はガレスピー、コリア、モンクの3人は名前だけ聞いたことがあるという程度の人間で、7曲を続けて聴いても曲の区別、良さなども全く分かりませんでした。これ、正直な告白です。もちろんジャズですからオリジナルの弦楽四重奏曲ではなく、最初の4曲はアンコールでも紹介されたバラクリシュナンが、ジャコという曲は Darol Anger という人がクァルテット用にアレンジしたものなのだそうです。

結成当初からジャズに取り組んでいる団体だけあって、乗りのある弾き方は堂に入ったもの、特にファースト・クーデラシェクという方は弾き方も独特で、背中を丸めるように、体を揺すりながらの演奏。弓の扱いも他では見られないようなスタイルで、その表情などを見ている方が楽しめました。困ったことに、これは前半のクラシックでも同じでしたが・・・。

一つ遡ってドヴォルザーク。これがこの日、私が知っている唯一の作品で(ジャズを目当てに来られた方以外は皆そうだと思いますが)、アポロン・クァルテットをこれだけで評価するのはどうかと思います。
これも幸松先生の評を引用させて頂ければ、「粘着力のある歌い方とふくらみに加えて、よどみのない流動性にもつながる幅と奥行きをもった演奏」ということになるのでしょう。ただ、彼等の独特な歌い回しとか、やや癖のあるアーティキュレーションを聴いていると、ドヴォルザーク愛は十二分に伝わってくるものの、古典作品が本来持っている形式感、スケール間に不満を持ってしまうのでした。良く歌われているけれど、表現が箱庭的、とでも言っておきましょうか。
プログラムに書かれていた「幅広い聴衆の支持を得ている」という表現は言い得て妙で、ジャズの乗りに大いに共感する人々が、こういうクラシックなら乗れるぜ、みたいな。

最初に演奏されたリヒター。名前はフランツ・クサヴァー・リヒター Franz Xaver Richter と言い、マンハイム楽派の中心人物。1709年生まれですからハイドンより二回りも年長で、亡くなったのは1789年ですからフランス革命の年に当たります。フランツ・クサヴァーという名前は結構音楽家に多く、モーツァルトのレクイエムを補筆完成させたジュスマイヤー、そのモーツァルトの最後の息子も同じで、つい最近フランツ・クサヴァーについて興味深い講義を聞いたばかりでした。
7曲(本来は6曲セットでしたが、第5番が気に入らなかったため2種類あるそうな)で構成されている作品5の四重奏曲集は1750年代の作曲だそうで、この当時は「弦楽四重奏曲」という名称は確立されていなかったと思われます。これまた幸松氏の「レコードによる弦楽四重奏曲の歴史」によれば、氏が所有しておられるアルティア版のスコアには「弦楽四重奏のためのディヴェルティメンティ」と表記されているそうです。

私もペトルッチでダウンロードできる作品5全曲のスコアを見ましたが、フォルテは f ではなく For 、ピアノも p ではなく Pia と表記されているなど、現代の譜面とは異なった記号が使われています。また第1番の第3楽章に使われているリントントロ Rincontro という表現記号はリヒターが愛好したもののようで、他の作品でも屡々登場してきます。文字通り「対話」の意味で、第1・第2ヴァイオリンの対話、ヴィオラとチェロの対話、やがては第2とヴィオラ、第1とチェロなどの対話にも広がり、これがリヒターの特徴であることは、今回のアポロンの演奏でも確認することが出来ました。

最後にコンサートでの遭遇。
休憩時間にロビーに出ると、いつものようにCD販売コーナーが設けられていました。そこでスタッフを手伝っている長身の外国人に見覚えが・・・。思い切って日本語で話しかけてみると、やっぱり間違いありませんでした。去年の秋にべネヴィッツQとドヴォルザークの五重奏曲で共演したコントラバス奏者のイジー・ローハン氏じゃありませんか。「今日は弾かないけれど、静岡ではアポロンとドヴォルザークの五重奏曲を演奏します。それにジャズもね」とのこと。
ローハンは日本茶のアドヴァイザーでも務めているので、話の切っ掛けはもちろんお茶の話題。やっぱり、日本語はペラぺラでしたよ。今年は桜も早かったけれどお茶も生育が早いのだそうで、八十八夜ならぬ七十八夜になってしまいますね、と冗談を言い交わしました。静岡でドヴォルザークと五重奏版のジャズを聴かれる皆さん、コンサートの後はお茶の話題で盛り上がって下さい。

 

 

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