日本フィル・第340回横浜定期演奏会

新シーズンの第一弾、日本フィルの横浜定期は次のプログラムでした。恥ずかしながら10月定期と勘違いしていて、出掛ける前に「えッ、ロシア・プロか!」と気が付いた粗忽者。みなとみらいに付いてからの頭切り替えです。

チャイコフスキー/ピアノ協奏曲第1番変ロ短調作品23
     ~休憩~
ムソルグスキー(ラヴェル編曲)/組曲「展覧会の絵」
 指揮/小林研一郎
 ピアノ/清水和音
 コンサートマスター/木野雅之
 ソロ・チェロ/辻本玲

今月のプレトークは小宮正安氏。チャイコにしてもムソルグスキーにしても、氏は何度もプレトークをしているとのことで、今回はチョッと視点を変えてのお話でした。
テーマは「Bearbeiten」。何やら難しそうな単語が出てきましたが、ドイツ語のベアルバイテンとは、日本語の改訂とか編曲のこと。英語なら Revise とか Arrange ということですね。ドイツでは改訂も編曲もみ~んな「ベアルバイテン」で括られるということです。
ということで編曲や改訂の歴史が駆け足で語られます。今回のプログラムに直接関係するのは、チャイコフスキーは初演の後、出版する前に「改訂」したということ。一方のムソルグスキー、ラヴェルの有名な「編曲」で知られる展覧会の絵ですが、ピアノ作品を大管弦楽に編曲するという行為は結構新しいことだそうで、ここ150年程度の歴史でしかないとのこと。今日はベアルバイテンの名作を二つ楽しむというトークでしたが、これは演奏現場でも起きるという暗示もあり、なるほどコバケンさんなら更なるベアルバイテンがある、ということを示唆されたのかな?

この2曲、改めて感想を書くまでもないでしょう。清水和音、小林研一郎の両氏についても・・・。
チャイコフスキーのピアノ協奏曲第1番、コバケンさんでは何度も聴いていますから、マエストロのベアルバイテンは事前に判ってましたよ。そう、二つ。以前にも書いた記憶がありますが、一つは冒頭でヴァイオリンが朗々と歌い上げる名旋律。その1回目は第1ヴァイオリンだけがメロディーを奏するのですが、出番の無い(スコアには書かれていない)第2ヴァイオリンも参加させちゃうんですね。私の知見ではジョージ・セルのお家芸だったと記憶しますが、如何にもコバケンらしい。

もう一つは第2楽章。第42小節からのチェロ・ソロは、楽譜では二人、つまり1番プルトの2本で合奏することになっていますが、コバケン版では常に首席のソロです。今回は特に辻本君が弾きましたから、音量的には二人分あります。コバケンさんじゃなくてもこうしたいでしょう。

協奏曲が壮大に歌い上げられると、直ぐにアンコール。これが何とショパンの大作・英雄ポロネーズだったのは驚き。何ともお得なコンサートでした。
英雄ポロネーズのアンコール、私は遥か昔にルービンシュタインで体験したことがありました。あれは創立して未だ数年頃の読響定期、オール・ブラームス・プロで前半が交響曲第1番、後半がピアノ協奏曲第2番で、真打のルービンシュタインが登場。
凄かったのは協奏曲が終わってからで、ルービンシュタインは次々とアンコールを繰り出し、何曲弾いたのか数えきれないほど。そのアンコールの最後が件の英雄ポロネーズで、ジャジャ・ジャンジャンジャンと最後の和音が鳴り終わるや上野文化会館の客席は総立ち。古いフィルムで見るルービンシュタインはアンコールでも冷静に答礼していますが、この時ばかりは組んだ両手を頭上高く掲げ、まるでリングに登場したボクサーのよう。コンサートは何時まで続いたのか、終わったころには多分指揮者(アンドレ・ヴァンデルノート)はホテルに帰って寝ていたかもしれませんね。(いやいや、舞台裏で聴いていたのかな?)

私はピアノのリサイタルには殆ど出掛けないので英雄ポロネーズを、しかもアンコールで聴いたのはルービンシュタイン以来の事かも。偶々帰りの電車で一緒になったヴァイオリンのK女史の話では、このアンコールはコバケン氏の要望だったのだとか。ルービンシュタインのような格調の高さこそ無かったものの、この日の横浜を沸かせるには十分なショパンでした。

さて後半のムソルグスキー=ラヴェル。楽譜に書かれていない楽器を追加したり音符を変える改訂などはありませんでしたが、やはり強弱の強調はコバケンのベアルバイテンと言えるでしょう。
例えばサクソフォンが活躍する「古城」でも、伴奏パートの音量やチョットした音符の強調には他の指揮者では聴こえてこない瞬間が登場します。要するにメリハリがハッキリして、聴きようによっては厚化粧のようにも聴こえてくる。この辺りは好き嫌いでしょうが、一度は聴いておく価値のある展覧会の絵でした。

例によってスピーチを含むアンコール。今回もカヴァレリア・ルスティカーナでしたが、トランペット首席のオットーが最近、日本人女性と結婚したとか、フルート首席柴田氏に長男が誕生したとか。更に打楽器の遠藤氏がこれで卒業との紹介があり、最後には来月の横浜定期でソロを務める辻本氏を紹介、サワリを弾いてください、との要望に応えてドヴォルザークを一節披露するというサービスもありました。
コンサートの作り方そのものにも、小林研一郎のベアルバイテンが活きていたのでしょう。

 

 

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