サルビアホール 第100回クァルテット・シリーズ

2018年秋のサルビアホール、21日にスタートしたウィハン・クァルテットのドヴォルザーク・プロジェクトは二日目。シーズン30を構成する4回、その2回目が一つの区切りとなる第100回の記念すべきクァルテット・シリーズとなりました。特に100回だからと言って特別なセレモニーなどはなく、いつものように淡々とコンサートは進みます。

≪ドヴォルザーク・プロジェクト≫
ドヴォルザーク/弦楽四重奏のための「糸杉」4-6
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第8番ホ長調作品80
     ~休憩~
ドヴォルザーク/弦楽四重奏曲第12番ヘ長調作品96「アメリカ」
 ウィハン・クァルテット

二日目のメインは「アメリカ」。室内楽のコンサートでは最も人気のある曲目ですが、クァルテットの殿堂を標榜する鶴見ではアメリカだからといってチケット争奪戦が起こるわけではありません。今回も前売りチケットがありましたし、寧ろこの曲はパスしよう、等と考えた不届き者もいたかもしれませんね。
最初は糸杉から3曲が選ばれ、ドヴォルザーク円熟期の開幕を告げる第8番とアメリカというプログラムです。この日の糸杉は、
4. ああ、私たちの愛に求める幸せは花開かない (Poco adagio 変ホ長調)
5. ここにおまえの愛しい手紙を求めて (Andante 変イ長調)
6. おお、麗しい黄金のばら (Andante moderato ホ長調)

4番目と6番目はファーストが旋律を歌い、5番目はヴィオラが美しいメロディーを奏でます。どれも長調で書かれている作品で、この日のクァルテット2曲と合わせ、全曲メイジャー(長調)が主調という組み立てとなりました。もちろんアメリカの第2楽章はニ短調で書かれ、第8番もホ長調というやや憂いを含んだ調性であることが、コンサート全体に陰影を齎していたことは言うまでもありません。

前半のメイン第8番はサルビアホールでも初登場の1曲で、ナマ演奏で聴ける機会は貴重でしょう。予習しようと思ったけどCDが無かった、という話も聞きました。
1876年の1月から2月、34歳で作曲されましたが、適当な出版社が見つからず10年以上も机の引き出しに眠っていたもの。その後ジムロックが出版を引き受けましたが、当初ドヴォルザークが付けた作品27という番号を無視して作品80が付けられ、作曲者との間にトラブルもあったようです。(出版は1888年)
初日に演奏された第9番は作品34、第10番が作品51で第8番とは順番が逆になっているのはそのため。ドヴォルザーク作品では、作曲順と作品番号に整合性が取れていないという問題点もあります。

初演の日付にも諸説があるようで、当日の曲目解説(執筆者匿名)では1889年4月(1789年はミスプリント)のイギリスと紹介されていましたが、ウィキペディアでは1890年12月29日となっています。
更に内藤久子著「ドヴォルザーク」(音楽之友社・作曲家人と作品シリーズ)では1889年2月27日のボストンと記されており、DG盤全集の解説(ヤルミール・ブルグハウザー、1977年)でも同じで混乱の極み。演奏記録が残っている最も古いものが1889年2月ということでしょうが、最新の資料探索や研究論文を待ちたいところ。尤も単なるクラシック・ファンにとってはどうでもいいことかも知れませんが・・・。

第8番は、次の第9番に比べればチェコ舞曲の引用もなく、スラヴ色は薄いと聴きました。それでもイ短調で書かれた第2楽章 Andante con moto はドヴォルザーク特有のメランコリックな主題が美しく、ピチカートや鳥を連想させる細かな音符たちが聴く者の郷愁を誘います。3拍子と2拍子が混在し、ヘミオラ的な効果も楽しい第3楽章 Allegro scherzando も魅力的。
ドヴォルザークの音符を知り尽くし、ミハル・カニュカも見事に同化したウィハンQの演奏で聴くと、第8番もアメリカに匹敵するほどの名曲と聴こえてくるから流石。これを上回る8番を想像するのは無理かも。

後半のアメリカに付いては特に記すこともないでしょう。ウィハン2度目のサルビア、チェロがカスプジークだった時代に演奏したのに続く2度目。詳しくはその時のレポートをお読みください。
これぞ、アメリカ。文句なし。

アンコールは、初日に続いて糸杉から。前回はプログラムに含まれていた作品のアンコール演奏でしたが、この日は11番目の「地上を静かなまどろみが支配し」。最終日の予告編でもありましたが、イ長調で書かれた糸杉の中でも最も明るい一品です。
ということで、第2夜は長調作品に集中したプログラムを満喫しました。

 

 

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